9.武器
エレンは一通りの結果をまとめると、余った水を持ってまた研究室へ戻るらしい。
にーちゃんも荷物持ちでついて行くと言うので出口まで一緒についていく。
「あ、そうだ。テセウスさんが明日一応打ち合わせをしたいから朝執務室に来て欲しいって。多分アレックスさんとかバリーさんは訓練に出るからその後くらいの時間で」
「わかった」
「じゃあまた明日ね」
二人を見送ると、一気に疲れが出たのか眠くなってきたので少し早かったけど俺とロバートは各自部屋に別れて寝ることにした。
「ドラコ、お前リビングで寝た方がよくないか?」
「クォ!」
俺の部屋に無理やり入ろうとするドラコにロバートがそう声をかけてもイヤイヤと首を振り断固として動かなかったので俺は仕方なくドラコを部屋に招き入れる。
「床がドラコで埋まってしまった……」
大して広くもない大きさの部屋だからか、床の上にドラコが眠るともう足の踏み場がなくなる。
「ハヤテ、甘やかしすぎはよくないと思うよ」
ロバートはそう呆れ顔をしていたけど、たいして問題でもないしこれくらいならいいだろ、とドラコのワガママを許すことにした。
「ドラコ、踏んでも怒るなよ?」
「じゃあハヤテ、ゆっくり休んで。また明日」
「おう、ロバートもおやすみ」
布団に潜り込むと、すぐに眠気に襲われる。そのまま、抵抗することなく俺は眠りに落ちていった。
次の日、俺とロバートがテセウスさんの執務室へ顔を出すと、既に打ち合わせをする人数は揃っていたようで、部屋の中にはテセウスさん、アレックス団長、バリー副団長、エレン、兜は被ってはいないものの鎧は身につけた闇騎士が待っていた。
「おはようございます、もしかして俺たち寝過ごしました?」
冷や汗を背中に流しつつそう確認すると、今日はたまたま訓練を早めに切り上げたんだそうだ。
「おはよう、2人とも。早速だけれどこれを確認してもらっていいかな?」
テセウスさんの前の机の上には長剣、クロスボウ、ナイフが置かれている。
「まず、エレンにはこれ」
はい、とテセウスさんはエレンにそのクロスボウを手渡す。
「ロバートくんはこれ、ハヤテくんはこっち」
ロバートには長剣、俺には綺麗な装飾の施された小ぶりのナイフが渡される。
「ロバートくんの長剣はバリーの家にあった宝剣。切れ味が変わらないよう加工されているんだって。ハヤテくんのナイフはリアンのお家に保管されていたナイフらしいよ」
「リアンの?」
昨日訓練場で会ったばかりの、あのリアン?
「なんで俺に?」
「昨日の訓練の様子を見て、ハヤテくんが心配になったんだって。『長剣だとハヤテの良さがなくなるから、このナイフを渡して欲しい』って渡されたんだよ」
渡されたナイフを持つと、いつもの使い慣れたナイフよりも手に馴染む気がする。
「そのナイフはたまに魔力水を注ぐと、研がなくても平気になるからたまに魔力水をかけてくれって」
「え、でもこれリアンの家で保管されてた大事なものですよね?俺が持ってていいんですか?」
疑問をテセウスさんにぶつけてみても、「まぁ渡されたしいいんじゃないかな?」と軽く流されてしまったので、とりあえずここは一度受け取るしか無さそうだ。次にリアンに会った時に聞いてみよう。明日も訓練出るかなー?
不思議と手に馴染むナイフを受け取り鞘から取り出す。
刀身は白く不思議な輝きをまとっていた。
「さて、武器が渡ったところで、それぞれの武器を見てほしい。各自自分の魔力を宿した黒の宝珠の欠片が嵌め込まれているはずだ」
そう言われ自分の手の中のナイフを見ると、グリップと刃の間、日本刀で言う鍔の部分にあの黒い魔石が嵌め込まれている。
他の二人を見てみると、ロバートは長剣の柄の先端に、エレンは腕にはめるガントレットの手の甲の部分にそれぞれ黒い魔石が嵌っている。
「持ち歩くだけであれば通常の宝珠の欠片のように体の一部に身につけられればなんでもいいかなと思っていたんだけど、どうやら武器につけると少しだけ闇の鎧から恩恵が受けられるらしくてね」
テセウスさんはそう言うとにーちゃんがの方をちらりと見る。
「緑珠の二人は、もう闇騎士の正体を知ってるんだって?」
「あ、はい」
「はい、昨日俺の魔石を登録する時に聞きました」
俺とロバートの返事を聞いて「そうか」と頷くと、テセウスさんは闇騎士に向き直る。
「なら、ここにいるみんなは全員正体を知っていることになるな。悪いけどシノブくん、闇の鎧と黒の魔石の説明を頼むよ」
「わかりました」
テセウスさんに言われ、にーちゃんが返事をする。
……そうか、闇騎士の時は普段声を出さないって言ってたもんな。だからさっきから大人しかったのか。
「じゃあ、闇の鎧の話をするけど……疾風とロバート、驚かないでね?」
「へ?」
「何が?」
──こやつらが新たな眷属というわけか。
俺とロバートが同時に間抜けな声を出した時、突然頭の中に声が響いた。