3.王都の薬師
「そっかぁ、最後の一人はエレンだったのか」
「ロバートと会うのは久しぶりだからな。それがまさかこんな再会になるとは……」
「そういえばエレンを引き取ってくれたって人は、エレンが黒の大陸に行くこと知ってるの?反対したんじゃない?」
せっかく病気も治って元気になったのに、よくわからない大陸に行くとなったら親代わりとしては心配だよなぁ、と思って聞いてみると、
「特に反対はないな。国としてもどうにかしなければならない事態なことはわかっているし」
とケロッとしていた。
そんなもんなのかなぁ?
「それより、アレックスからここに森林竜がいると聞いたんだが、本当にいるのか?」
「ドラコ?あれ?そういえば……」
ドラコの姿が見えないなと思って部屋の中を探しみると、少し薄暗くなった台所の床に手足を折りたたんで昼寝をしていた。
「いたいた。エレン、あそこで寝てるよ」
「ち……近づいてもいいか?」
「うん、大人しいから多分大丈夫だと思う」
そう伝えると、エレンは両手をワキワキさせながらそっとドラコに近づいて行った。
あぁ、せっかくのイケメンが残念な感じになってる……
ドラコのすぐ脇まで行くと、そっと横にしゃがみこんだ。
ゆっくりと手を近づけ寝ているドラコの頭を撫でる。
「さ、触ってしまった……ん?この角はどうしたんだ?」
「あぁ、それ?なんか岩をどかそうとした時に勢い余って折れちゃったんだよね」
あ。そういや折れた角、ポケットに入れっぱなしだった。
「これがその角」
「おお、すごい、本物だ」
エレンは目を輝かせると、触っていいか?と許可をとってその角をつまむ。
「森林竜の角か、本物は初めて見たな」
「森林竜自体、今はあんまり見かけなくなったもんね。最近は守護の森でよく見かけるけど」
何やら角に感動しているエレンにロバートが後ろから近寄りエレンの持っている角をつつく。
俺は改めてドラコの角の欠片を見つめた。
「そんなに珍しいんだ?」
「珍しいさ。なんせ魔力の塊だからな。森林竜の角と濃い濃度の瘴気水があれば相乗効果で薬の効果も桁違いになる。まぁそこまでのものを扱える奴がいるかどうかは別としてな」
「エレンは使えない?もし使えるならこれいる?」
と、ドラコの角を指さす。
「ありがたいけど遠慮しておくよ。私ではすこし難しいかもしれないからな。必要な時までハヤテが自分で持ってるといいだろう。どうしても使いたいとなれば、扱えるとしたらテセウスくらいじゃないか?」
この国の宰相を呼び捨てにしたエレンに、俺はビックリする。
「え、テセウスさんて宰相の、だろ?呼び捨てって……」
「あぁ、小さい頃からその呼び方だったから今更様なんてつけて呼ぶのは恥ずかしくて」
「小さい頃?」
ロバートがふとなにかに気づく。
「もしかしてよく村長のところに来てた、エレンを引き取った王都の薬師って……」
「あぁ、テセウスだよ」
「え?!」
てことはエレン親代わりってテセウスさん……?
「未だに小さい子供扱いするんだ。いい加減子離れして欲しいんだがな」
そういうエレンは嫌そうな口調をしつつ、少し嬉しそうな表情をしていた。
「さて、あまり長居をするのも悪いし私はそろそろお暇しようかな」
「あ、待って」
俺はエレンの持ってきた食料に目をやり、思わずエレンを呼び止める。
「持ってきてくれた食料、結構量があるからエレンもここで食べてかねぇか?肉食べれるだろ?」
「まぁ……でも、邪魔にならないか?」
「ヘンリー先生、まだ帰ってこないし今俺とロバートしか居ないからさ。俺の焼く肉、緑珠守護団の中だと結構人気なんだぜ?」
「なら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
手伝う、と声をかけてくれたので俺たちは三人で夕食の準備に取り掛かる。
持ってきてくれた食料はパンや干し肉、じゃがいもなどの野菜に、新鮮な肉。……アレックスさんこれ何食分のつもりで持ってこさせたんだろう……
とりあえず果物は少し多めにドラコ用に避けて、残りの材料で夕飯にする。
調味料も沢山用意してくれたみたいだったからこの辺色々混ぜてみるか?
俺が色々吟味していると、ロバートがねえねえ、と声をかけてくる。
「ハヤテの料理ならさ、アレ、使わないと!」
「アレ?」
俺とエレンが首を傾げる。
「そう、アレ!薬草!」
薬草……ハーブか!でもなぁ、俺名前とか分からないから実際に見て匂い嗅がないとどれを料理に母さんが使ってたかわからないんだよなぁ。
どうしようかなと思っていると、
「薬草?薬草を料理に使うのか?」
と、やっぱり王都では薬草、ハーブを料理に使う習慣がないみたいでエレンが驚きの声を上げる。
それを聞いて何故かロバートがドヤ顔で答えた。
「そうだよ、ハヤテの薬草料理めちゃくちゃ美味しいんだから!」
「いや、薬草料理って……薬草自体を食うわけじゃねぇからな?!」
変な誤解をされたくなくて慌てて訂正を入れているとエレンは、ふむ、とひとつ頷いた。
「薬草、使うのなら色々種類があるけど見てみるか?」
「え?あるの?」
「あぁ。ここは薬の研究棟だぞ?薬草がなければ何も出来ないだろう」
エレンはそう笑うと、
「あっちに温室があるんだ。一緒に来るか?」
と言ってくれたので、俺はお言葉に甘えついて行くことにした。
実物見ながらの方が匂いもわかるし。
俺とエレンが立ち上がると、「じゃあ俺もー」とロバートも行くことになり三人で温室へ向かう。
すると温室には先客がいた。
大人と、小さい子供。
あれは、親子かな?
その子供は、エレンの姿を見つけると走り寄ってくる。
「あ、エレンだー!」
「コラ、アリサ!走ったら危ないだろう?」
駆け寄るその子をエレンは抱き留めると軽々と抱き上げた。




