1.幼馴染
本日より第三章 黒の大陸編突入です。
よろしくお願い致します。
(昨日の更新で、本編更新後【登場人物紹介】を追加してあります。よろしければそちらもご覧下さい)
……ハットリシノブ……
「って、隣のクラスの忍者?!」
思わず指さし、しまった!と口を塞ぐ。
やべ、本人目の前に言っちゃった……
「あ、やっぱりそれ僕のあだ名だったんだ……」
軽くショックを受けたようで、にーちゃんは両手で顔を覆った。
「てかなんで?そもそも体型違くない?」
最後にコンビニで会った時、長い前髪にメガネ、体型もぽっちゃりの猫背な陰キャが、まさか爽やかモデル体型のイケメン闇騎士になっているとは誰も思わないだろう。
「あぁ……これ……」
遠い目をしたにーちゃんが呟く。
「闇の鎧の適性があるってわかった時に、バリーさんが……入るまで鍛えるって言って……しごかれた……」
……あ、あの筋肉至上主義の……
あのバリー副団長ならめちゃくちゃしごかれそうだな。
「バリー副団長に鍛えられたのか……大変だったな」
「いやほんともう何度逃げようかと思ったか……いや、それより本題はこれ!これ、疾風のでしょ?」
ドサッ、と机に置かれたのは俺のボディバッグとスマホだった。
え?!
「俺の……!てか、今これどこから出てきた?!」
「あぁ、この闇の鎧、どうやら収納機能ついてるみたい。そんなにたくさんは入らないけど」
「収納機能!?すげぇ!」
俺が感動して鎧をぺたぺた触っていると、困惑した声が頭上からかかる。
「あの……それよりも疾風……彼、放っておいていいの?」
「彼?」
にーちゃんの視線の先には、困惑した表情のまま固まっているロバートの姿が。
「あ!」
放心状態のロバートに駆け寄り、顔の前で手を振る。
「ロバート!」
「はっ!あの、ハヤテ……ごめん、理解が追いつかなくて……」
「いや、俺の方こそ放置して悪ぃ。つってもどっからどう話せばいいやら……」
「えと……とりあえずハヤテと闇騎士は知り合い、ってことでいいんだよね?」
ロバートはそう言うと、俺とにーちゃんの顔を交互に見比べる。
「うん、そう。……多分」
「多分?!疾風それはちょっと酷くない?!知り合いでしょ?!昔はあんなに懐いてくれてたのに……」
「いや、そうだけど間が空きすぎてて、どう言ったらいいかわかんなかったんだって」
「それにしたって……」
俺とにーちゃんの掛け合いを黙って見ていたロバートは、何か納得したような顔で頷いた。
「わかった。そっか、じゃあ闇騎士もワタリビトってことだね」
「は?!」
「え?」
ワタリビトって、なんでロバートがその事を……?
「疾風、ロバートにはワタリビトだってもう話したの?」
「いや、それはもう少ししたら話そうかと……ロバート、なんで……?」
にーちゃんはさほど気にする様子もなく、俺が既に話したもんだと思ってるみたいだけど、俺はまだロバートには話せていない。
ロバートはそんな俺を見て、答えてくれた。
「まぁなんとなく薄々感じてはいたんだ。森の主に吹っ飛ばされて記憶を飛ばしたにしてはなんか変だったし。あとさっきケインに連れていかれた時に、ね」
「ケインさん?」
「うん。ワタリビトだとこっちの常識とかわからないことが沢山あるだろうから近くで色々助けてやってくれって」
「そうだったのか……ケインさんの言う通り、俺こっちのことまだよくわかってないとことかあるから色々聞くかも。そん時はよろしくな」
「任せて!もちろん闇騎士も、もし何かわからないことがあれば聞いてね」
「ありがとう」
頼もしいロバートの言葉に、にーちゃんも頷く。
あれ、そういえば……
「なぁ、にーちゃん。黒の大陸に行くのって俺たち三人だけ?」
「いや、あと一人いるよ。薬師なんだけど、武器の扱いも上手いから戦力としては頼もしい感じの人が。立ち振る舞いが凄いスマートで、まさに『理想の騎士様!』って感じのイケメンだから疾風ビックリすると思う」
「へぇ……」
え、待って。今目の前にイケメン二人いるんだけど、そこに更にイケメン増えるの?俺、立場なくない?
「僕、今預かったこのロバートの魔石をテセウスさんのところに届けに行かなくちゃなんだけど、時間があったら後で連れてくるよ」
「……ワカッタ」
心の準備しておく。
「じゃあ、一旦ここで失礼するね。ロバート、これからよろしく!」
「あぁ、闇騎士!こちらこそ」
にーちゃんは兜を被り直すと部屋のドアを開ける。
「あ、そうだ。あのね、一応闇騎士が僕だってことは大っぴらには公表してないから、二人もそのつもりでよろしく」
「あ、たしか『正体不明の闇騎士』って呼ばれてるんだっけ?」
「え、なにそれ初耳……てかそれ!闇騎士ってシノブの時に呼ばれると恥ずかしいから、みんなには内緒ね!じゃ、またあとで」
そう言うと、途端に闇騎士の姿が見えなくなる。
「え、すごくね?」
「神出鬼没って聞いたことあったけど、こういうことか……気配遮断能力が高いんだね」
とりあえず入口まで見送ろうと席を立った俺とロバートはしばし呆然と、闇騎士が出ていったドアを見つめていた。
「……それにしても薬師で戦闘能力が高い、かぁ」
何かを思い出すように、口を開いたのはロバートだった。
「さっき言ってたもう一人の人?それがどうかしたのか?」
「あー、その人じゃなくてさ。実は俺の幼馴染もそんな感じだったなーって思い出しただけ」
「それって……あの疫病が流行ったって言う生まれ故郷の……?」
「そう。俺の村、山に囲まれてたから薬草とか結構生えててさ。幼馴染は村長のとこの娘だったんだけど、村長が薬師だったから結構小さい時から山に連れていかれてたんだよね。だから薬草にも詳しくて、魔物とかも自分たちで退治してたから武器の扱いとかも上手くて」
昔を懐かしむようにロバートは話し続ける。
「あ、でも『立ち振る舞いがスマート』って言ってたからそこは違うかな?凄いお転婆で崖から飛び降りるわ登った木から降りられなくなるわ、ほんと手がかかってたんだよ」
「……仲、良かったんだな」
「まぁね。子供がそんなにいなかったから大人が忙しい時は俺がそいつの面倒見てたんだ。俺にとっては妹みたいな感じ」
へへ、と笑うロバートは本当に楽しそうだった。
そんな仲の良かった子も……疫病で……
俺がしんみりしていると、ロバートは肩を震わせ始める。
「ロバート……」
かける言葉が見つからなくて、俺はそっとロバートの肩に手をかけることしか出来なかった。すると……
「ぶはっ!!」
突然涙を流してロバートは爆笑し始めた。
え、泣いてたんじゃなくて笑ってたの?!
「悪い!その子のこと思い出してたら芋づる式にだんだん色々と思い出してきて……!」
「そんな爆笑するほど?!」
「いや、だって!そいつの初恋の相手、ジェシカだったんだよ!」
「ジェシカ?!」
思ってもみない話題にさっきまでのしんみりさは1ミリもなくなる。
「あの頃、騎士団の巡回で王都から何人か騎士団の団員が俺の村に派遣されてきててさ。ジェシカもそのうちの一人だったんだけど。その頃のジェシカは、騎士団に入ったばっかりでまだオネェなの隠してたっぽいんだよな。だから髪も短かったし、元々顔は整ってるし、雰囲気は柔らかいから村のおばさん達に『風の貴公子』とかって呼ばれてて……あれ?そう考えると理想の騎士って言われたらそれっぽいか?」
「風の貴公子?」
「あぁ。その頃から風魔法が得意だったからさ。んで、確か木に登って降りれなくなったその村長の娘を風魔法で木から降ろしてやったんだよ。そしたらそいつ、ジェシカに一目惚れしたらしくて『大きくなったら結婚する』ってずっと後をついてまわってたんだよな」
「へぇ、ジェシカモテモテじゃん」
髪の短いジェシカは想像が出来なかったけど、立ち振る舞いはイケメンだからちびっ子が一目惚れする気持ちはわかるなぁ。
「ただ、今のジェシカはアレだろ?なんか理想が崩れたらしくて、『最近は会ってもめちゃくちゃ塩対応されるのよぉ』ってジェシカが嘆いてたわ」
「ん?最近?あれ、その子生きてるの?!」
「生きてるよ?!」
勝手に殺すなよー、とロバートが言ってきたけど、だって前に村人のほとんどが疫病で……って言ってたからそう身構えちゃうのは仕方ないと思う。
「でもよかった、その子は回復したんだな」
「そう。村長は亡くなっちゃったんだけど確か、その知り合いに引き取られて王都に来たんだったと思う」
「じゃあその子ともここで再会出来るかもな!」
……まさか、そんな会話をしたすぐ後に再会することになるとは、この時の俺たちは微塵も思っていなかった。




