表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界行ったら……  作者: 片馳 琉花
第2章 王立騎士団 編
114/226

54.まずは一人目

「あぁ……」


僕の問いかけにエレンは少し考える素振りをする。


「確か……シノブと同じように魔力を魔石から薬草に移せるようにしてもらっただろ?あれから、ハッキリと聞き取れるわけではないんだがなんとなくの意思の疎通はできるようになったな」

「え?!初耳なんですけど?」


まぁ確かにあの時のエレンの様子を思い返してみると、なんとなく会話が成立していたような気もしないでもない。


「でもなんで急に声が届くようになったんだろ?」


僕の独り言に鎧の魔石が答えた。


──そんなもの、眷属になったからに決まっているだろう。


「「眷属?!」」


見事に僕とエレンの声が重なった。


「え?眷属って確か黒の大陸に行くのに必要なやつで……闇の魔力が必要、とか言ってなかった?エレン、闇の魔力使えるの?!」

「いや、試してみたことはないが……」


そう言ってエレンは手のひらを見てなにやら集中し始める。ただ、いくら待っても変化は見られなかった。


「やはり、私には使えないみたいだが……」

「いや、ちょっと待って……」


パッと見エレンの手のひらにはなんの変化もみられなかったけど、よく目を凝らしてみるとうっすらと黒いモヤを纏っている。


──具現化できるほどの闇の魔力は元々ないんだろうな。その魔石を使えば多少は目に見えると思うが。


鎧の魔石に言われた通りに今度は魔石を握って同じように集中する。するとじわりと漏れ出た黒いモヤが少しづつ形を作り始め黒い塊になる。


──それを使って魔力を吸うんだ。魔石から薬草に魔力を移せるようになっていただろう?


「だが、元々は闇の魔力はなかったんだろう?ならどうして……」


エレンの疑問はもっともだ。

もし闇の魔力がなくても眷属になれるのなら、黒の大陸の同行者探しもこんなに大変なことになってなかっただろう。

そう思っていたら、その疑問にも鎧の魔石は答えてくれた。


──その魔石に何日もかけて闇の魔力を蓄積していたのだろう。一度に放出する魔力は小さくとも、溜まった闇の魔力で鎧の魔力と同調することが出来た。


「何日も……あ、そうか。エレンその石、お守り代わりに祈りを込めてたんだろ?」

「そうだな、何かある度無意識に握りこんでいたかもしれない」

「その時に魔力が蓄積されてたのか……てことは、もしかしてエレン、黒の大陸の同行者になっちゃうんじゃない?」


確か眷属になれることが条件だったはず……

エレンはかなり腕がたつし、薬も作れるから一緒にいて心強いけど……まだ14歳の子供なんだよな……

忘れそうになるけど。


「同行者?それは……シノブと一緒に黒の大陸に渡れるということか?」

「あ、そうか!エレンあの時一緒にいなかったんだっけ。そう、たしかそんな話になってたはず……」


エレンには同行者の件は初耳だったみたいで、黒の大陸に渡れる条件を満たしたことに高揚しているみたいだった。


「シノブ、ワタリビトの友達との話はまた今度でもいいか?」

「え?」

「今すぐ王都に戻り、テセウスにその話を通してもらいたい」

「わ、わかった」


真剣な表情のエレンに、僕はつい頷いた。

まぁ居場所はわかったから今度は誰かと一緒に来れば時間も気にしなくていいしな。

今日は一旦エレンと王都に戻るか。


疾風(はやて)に元の世界に戻る話はまた時間を作って来ることにし、僕達はそのまま王都へ馬を走らせた。休息所で一晩を明かし、翌日王都まで駆け戻る。

検問所が見えてきたところで、僕は大事なことを思い出してエレンを引き止めた。


「ごめん、エレン!ちょっと待って!」

「どうした?」

「実は……」


僕は検問所を通る時、正規の手続きをしないで抜けたことを伝える。


「あぁ、なるほど。そうやって出たのか」

「だから今回もマシロだけ連れ帰ったってことにして検問抜けて欲しいんだ……」

「わかったよ、じゃあ少し気配を消してもらっていいか?」

「うん、ごめん。よろしく」


僕はマシロに跨ったまま、エレンの後をついて行く。

検問所の担当は今日はケインさんに変わっていた。


「ケインただいま」

「お、エレンおかえり。シノブは見つかったか?」

「いや……やはりいなかった。ただ、守護の森でマシロは見つけたから引き取ってきた」

「記録簿にシノブの名前がなかったからな。王都のどこかにいるだろう」

「あぁ、もう一度探してみる」


あ、このやり取り……もしかしてエレン、検問所(ここ)抜ける時僕が通ったか確認してたのかな……

黙って通ったことがバレたら大事になるんじゃ……


冷や汗を流しつつ、エレンとケインさんのやり取りを見守っていると、バチ!とケインさんと目が合った……気がした。


「もしシノブを見つけたら、あまりみんなに心配をかけるなと伝えてくれ」

「わかった」


ケインさんは()()()()()()()()エレンにそう言うと、ニヤッと笑った。


あぁ、これ完全にバレてる気がするぅ……


検問を抜け、検問所が見えなくなったところで脱力する。


「あぁ、あとが怖い……」

「まぁ、ケインにはバレてるだろうな。でも、黙ってくれてたってことは今回は見逃してもらえるだろ」

「そうかなぁ?そうだといいな……」


ここ最近で一番疲れた……

どうにか気合いで王都まで戻り、マシロを厩舎に戻すと、そのまま気配を消しつつテセウスさんの執務室へ向かう。

途中で会った騎士団員に、エレンが「シノブは見つかったのか」と聞かれていて、僕が行方不明扱いになっていることを知った。

それに対してエレンは、


「あぁ、見つかった。研究棟に向かう途中で迷子になって温室で力尽きて眠っていたらしい。今は部屋で寝ているよ」


と答えていた。


「何だ、迷子かー!シノブも人騒がせだなー。今度から迷ったら誰かに道聞けよって言ってやってくれ。じゃあな」


とその場を去る騎士団員。


(え、待って、僕迷子になってるって言って納得されちゃうの?!)


今後の僕の立ち位置が危ぶまれてきたところで、テセウスさんの部屋の前に着いた。

エレンは僕が迷子キャラでショックを受けていることなど知る由もなく、コンコンとドアをノックし、中の返事を待たずドアを開け部屋へと足を踏み入れる。


「いやエレン、返事待って開けないと……」


慌てて僕も後を追い、ドアを閉めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ