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異世界行ったら……  作者: 片馳 琉花
第2章 王立騎士団 編
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52.緊張

(あ……ホンモノの疾風(はやて)……だぁ)


「え、何?!どんな状況?!」


蹲ったままの疾風(はやて)は、驚きの声を上げつつも視線は、今僕が切りつけた森の狼(シルワルプス)たちに注がれている。

僕がさっき魔力で出した長剣(ロングソード)は、その森の狼(シルワルプス)たちの魔力を吸い尽くすと鎧の魔石の中に戻るように霧散していった。


(よし、これでひとまず大丈夫かな)


森の狼(シルワルプス)たちが動けなくなったことを確認して改めて疾風(はやて)のほうに向き直る。声をかけようとしてみたものの、久々に会ったせいか緊張して声が出ない。


(どうしよう)


視線を彷徨わせた時、疾風(はやて)が地図のようなものを握りしめていることに気がついた。


(あれって……地図?なら今疾風(はやて)がどこにいるのかわかるかも……)


そう思って、疾風(はやて)にそっと歩み寄ると、その手元の地図を指差す。


(ジェスチャーで伝わるかな)


頭に疑問符を一瞬浮かべた疾風(はやて)は、僕が地図を見たがっていることを察してくれたみたいで恐る恐るその手の地図を差し出した。


(ふはっ、握りしめてたから少しくちゃくちゃになってるじゃん)


僕はそっとシワを伸ばしながらその地図を眺めた。中心にあるのは守護の森みたいだ。ところどころに丸印が付いてるけど、これもしかしてケイレブの言ってた森の異変の起きてるところかな?

てことは疾風(はやて)は緑珠守護団の駐屯地に今いるってこと?


疾風(はやて)の今の居場所を確認できたっぽいので地図は疾風(はやて)に返す。


それを無言で受け取ると、疾風(はやて)は何か言いたげに口を開いた。


「あ……」

「ハヤテー!魔物の気配がしたけど大丈夫かー?!」


その言葉を遮るように、森の向こうから声が響く。

僕は反射的にジャンプして疾風(はやて)から距離をとるとそのまま反対方向へ逃げ出してしまった。


「ああああ、なんで逃げちゃったんだろう……」


マシロの元へ戻り、その首に抱きつきながらさっきの行動の反省をする。

もしかしたらまだいるかも、と再度改めてマシロを連れてさっき疾風(はやて)と会ったところに戻ってみたもののそこには当たり前だけど疾風(はやて)もさっき遭遇した森の狼(シルワルプス)の姿も綺麗さっぱり見当たらなかった。


「デスヨネー……ん、あれなんだ?」


砕かれた大岩の影になるところで、何かが光った気がした。

近寄ってみるとそこには綺麗な色の魔石のチョーカーが落ちていた。


──緑珠の欠片だな。主、その石には触れるなよ。


(あ、やっぱこれ僕が触ったらマズイ魔石なんだ。疾風(はやて)のかな?)


チョーカーの革紐部分を持ち、持ち上げてみるとターコイズブルーとブルーの混ざりあったような綺麗な色の魔石だった。

それをずっと見ていると、夏の爽やかな風が胸の中を駆け抜けていくようなイメージが沸く。


(なんか、疾風(はやて)っぽい)


僕は闇の鎧の収納空間へそのチョーカーを収めると、緑珠守護団の駐屯地へ足を向けた。


「え……なにこれ」


街道に戻り少し走ると、落石でなぎ倒された倒木が、街道を完全に封鎖していた。


(え、ケイレブどうやってここ通ったの?!)


──どうやらつい先程崖崩れが起きたようだな。馬を降りて身一つで木々の隙間を抜けて移動した方が早いと思うぞ。


(まじかぁ……)


僕はまたマシロをさっきの泉まで連れていき、そこで待たせると鎧の魔石の言う通り木々の間を走り抜けて行った。

この闇の鎧は本当に身につけている感覚がなくて、さらに身体は軽くなるし疲れにくくもなるみたいで、疲れ知らずでどこまでも走っていける。

そうしてしばらく走っていくと急に森をぬけた。

街道から離れたところに出たみたいだけど、よく目を凝らして周りを見てみれば地平線の辺りに小さく家のようなものが見える。

もしかしてあそこが駐屯地?


何となく気配を消してその中でもいちばん大きな家へと向かうと、反対の道からガヤガヤと人の話し声が近づいてくる。僕は思わず物陰へと身を潜めた。

そこにやってきたのは疾風(はやて)と、他にも見知った顔が。……あの人は確か……ニコラスさん?


「おれたち肉と素材置いてくるわ。ハヤテはちょっとこれ持っててくれ」


そう言うとニコラスさんは何かを疾風(はやて)に渡し、ほかの2人と家の中へ入っていった。


(あ、今ならチョーカー返せるし、話もできるかも……!)


僕は慌てて疾風(はやて)に近寄ると肩を叩き呼び止める。

それに驚いた疾風(はやて)は身をビクッと震わせると、僕の顔を見て叫びだしそうに大きく口を開けた。


(ダッ)……」


一瞬の判断でガントレットつけたままだと痛いのでは?!と思い素早くガントレットを外すと、疾風(はやて)の口を押さえる。

そしてそのまま建物の陰へと連れていった。

裏に回ると苦しそうな疾風(はやて)の口から手を外し、その手の人差し指を立て、「お願いだから叫ばないで……」の意味を込めて『シーッ』とジェスチャーをする。

そのまま胸元からさっき拾ったチョーカーを取りだした。


「あ!」


それを見て疾風(はやて)が自分の首元に手をやり声を上げる。やっぱりこれ、疾風(はやて)ので合ってたんだな。


「森で外れてたのか……もしかしてわざわざこれを届けに来てくれた……んですか?」


僕は頷くと緑珠の欠片に触れないようチョーカーの紐部分を持ち、疾風(はやて)へ渡す。

その時ウッカリ指先が少し欠片に触れてしまった。


(あつっ!)


疾風(はやて)へチョーカーを渡すと、慌てて手を引っこめる。

そこには小さな水脹れが出来ていたけど、これ、この後どんどん広がって酷くなるんだよな。早く薬飲まないと、と思って思い出す。


(あ、薬セット、マシロのところに置いてきた!)


せっかく疾風(はやて)に会えて、元の世界に戻る方法とか色々話したかったけど、このままだとこの場で倒れて迷惑かけちゃいそうだし今日は一旦戻ることにした。

僕は外したガントレットを付け直すと、何となく置き土産的に昔疾風(はやて)が好きだと言ってくれた月面宙返り(ムーンサルト)を披露してから、


(またね)


と声には出せず、視線だけを送りマシロの元へと急いで戻った。


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