47.黒珠の欠片の作り方
コンコン。
「失礼します、アレックスです」
「入っていいよ」
テセウスさんからそんな衝撃的な話を聞いていると、広間の方の話は纏まったのかアレックスさん、バリーさん、ケイレブが執務室へ戻ってきた。
「シノブおつかれ!やっぱあの登場の仕方良かったぜー!周りの団員たちのテンションやばかったわー!」
そう言うケイレブも少しテンションが上がっているのかいつもよりウキウキしていた。
「テセウス様、同行者の件ですが条件は如何致しますか」
アレックスさんはそんなケイレブを気にすることなく、仕事モードでテセウスさんに話しかけている。
先程までソファでだらけていたテセウスさんも、居住まいを直しソファにしっかりと腰掛け直すと、うーん、と悩み始めた。
「とりあえず戦闘になった時に、シノブくんを援護できる能力があることと、魔法アレルギーを持っていないことは最低条件かな」
「そうですね、黒の魔石の浄化作業のことを考えるとシノブの代わりに魔石を扱えるといいと思います。あとは自力で回復魔法が使えることと……」
テセウスさんとアレックスさんで話が長くなりそうだったので、僕はソファをアレックスさんに譲り、ケイレブとバリーさんと一緒に壁際に立つ。
「なぁ」
バリーさんが、ふと思いついたように僕に声をかけた。
「シノブはその鎧があるから黒の大陸に上陸することができるだろ?同行者ってのはその鎧のそばにいるだけで一緒に上陸できるもんなのか?」
──恐らく弾かれるだろうな。
「え?!」
──主たちの話を聞くに、かなり長い間誰も近づけて居ないのだろう?恐らく適正の無いものは黒の宝珠には近づけんだろうな。
適正?
──あぁ。黒の宝珠の欠片がないと今はあの大陸は受け入れないんだろう。
えぇ……
僕が黙り込んだのを見て、闇の魔石とコンタクトを取っているのがわかったのかバリーさんは口を挟むことなく黙って見守ってくれている。
黒の宝珠の欠片ってどこにあるんだろ。それを先ず探さなきゃいけないってことか。
──近いものなら作れんこともない。
え、作れるの?!
──闇の鎧を介して魔力を抜いた黒い魔石があっただろう。あれを使う。
「あの!」
突然声を張り上げた僕に、テセウスさんとアレックスさんもこちらを向く。
「同行者、黒の宝珠の欠片が必要だそうです……」
「え!」
「黒の宝珠の欠片?!そんなもん用意できないぞ……」
僕はあの黒い、魔力の抜けた石が必要なことをみんなに伝えた。
「それなら、魔力の詰まった魔石なら沢山ある。それの魔力をその闇の鎧に抜いてもらおう。アレックス」
「は!」
返事をするなり、アレックスさんは部屋を飛び出していった。
「今から魔石を用意する。闇の鎧には魔力を抜いてその黒の宝珠の欠片にしてもらいたい。これがあれば黒の大陸へ一緒に渡ることができるんだな?」
テセウスさんが僕に、というか闇の鎧の魔石へ問い掛けた。
──あぁ。その魔石へ闇の魔力を馴染ませれば完成だ。そして闇の魔力を馴染ませた本人と、この鎧の魔力回路をその魔石を通じて繋ぐ。まぁ所謂眷属だな。主従関係を結ぶ訳では無いが、魔力を繋ぐことにより、黒の宝珠に弾かれることなくあの大陸へと行けるだろう。
「闇の……魔力……?」
「シノブくん、闇の鎧の魔石はなんて……?」
心配げに覗き込むテセウスさんに、今聞いたことを一言一句漏らさず伝える。
「闇の魔力だって?!そんな……」
何故かショックを受けているテセウスさんの横で、ケイレブも渋い顔をしていた。
「よりにもよって闇の魔力かよ……俺、同行者としてシノブについて行くつもりだったのに……」
「闇の魔力ってそんなに探すの大変なの?」
思わず問いかけると、ケイレブが頭を抱えて教えてくれた。
「レアすぎる魔力だよ……その闇の鎧の適合者を探すくらいにな」
「え?!そんなに?!」
あれほど沢山いた団員の中に一人も現れなかったのがこの闇の鎧の適合者だ。それと同じくらいって……
同行者見つかるの、いつになるんだろう……
「テセウス様、魔石持って来ましたよ」
少し空気が沈んだ所へ、先程部屋を飛び出していったアレックスさんが魔石を持って戻ってきた。それを見てテセウスさんは
「まぁ、またイチから探すしかないな。とりあえず今ここにある魔石をありったけ黒い魔石に変えてもらって、各部署に回して闇の魔力を馴染ませることができるものがいるか探してもらおう。各地の守護団にもその内協力要請出さないとな」
と、テキパキと机に魔石を並べ、その魔力を吸い取るよう闇の鎧にお願いしていた。
闇の鎧はと言うと、思ってもみないところで沢山魔力を吸えてご機嫌になっていた。
──ふむ。悪くないな。いくらでも魔力を吸い取ってやるからたくさん魔石を持ってくるがいい。
……もう!魔力吸いすぎて太っても知らないからね!
太るかどうかは知らんけど。