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異世界行ったら……  作者: 片馳 琉花
第2章 王立騎士団 編
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45.別人

「え……だれ……?」


駆け寄ってきたリアンが訝しげな顔で後ずさる。

その様子に気づいた他の団員たちも「なんだなんだ」と集まってきて、何故か僕の周りに人だかりが出来ていた。


「あれ?新しく入った人?」

「今日新人が来るなんて隊長から聞いてなかったけどな」

「よ!はじめまして。名前はなんて言うんだ?」


代わる代わる声をかけてくるけど……

え?いつも食堂でご飯一緒に食べたり訓練場で会ったりしてるよね?!

みんな記憶喪失にでもなった?


「あ、あの……」


どうみんなに声をかけるべきか悩んでいると、後ろからエレンが肩を叩く。


「エ、エレン……みんな記憶喪失になっちゃった……」


どうしよう、とエレンに相談すると、それを聞いたエレンは声を出して笑い始めた。

その様子に、普段ここまで笑わないエレンの姿を見た団員たちにも動揺が走る。


「え?!あのエレン様が爆笑してるんだけど……」

「あんなに仲良さげなの、シノブ以外で初めて見たな」

「てかシノブ、一緒じゃないのか?」


団員たちのざわめきが耳に入り、アレ?と思う。


「え、まって……もしかして僕、忘れられてるんじゃなくて気づかれてない?」


未だ、楽しそうに笑っているエレンにそう問いかけると、ニコニコ顔のエレンが答える。


「だから言ったろ?みんなの反応が楽しみだって」

「え!そんなに僕の見た目変わってるの?!」


宿舎に備え付けの鏡は湯浴み室にしかないので僕はまだ髪を切ったあとの顔を見ていなかった。

髪を切っただけでこんなに周りに気づかれないなんて……


遠巻きに僕とエレンのやり取りを見ていたリアンが恐る恐る近づいてくる。


「あの、さ。もしかしてだけどシノブだったりする?」

「そうだよ、みんな酷いよ……」


リアンに文句を言うと、団員たちのざわめきはピークに達した。


「は!?シノブ?」

「あんな顔してたのか」

「あれ?!もっと丸っこくなかったか?」


と、この日は結局、用事で訓練場を離れていたケイレブが戻るまで質問攻めにあい、みんなに揉みくちゃにされて訓練どころではなかった。


そのケイレブは僕の顔を見て「お、髪切った?」とさほど態度が変わらなかったのでその態度に僕は救われた。

訓練場を後にし、「さて、シノブの変化に驚くみんなが見れて私は満足したからそろそろ薬作りに戻るよ」と、騒ぎの発端を作ったエレンが研究棟へ去った後ケイレブと乗馬の練習をする為に厩舎に向かう。


「ねぇ、僕そんなに別人?」


みんなの態度があまりにも違ったので思わずケイレブに確認する。


「ん?おー、そうだな。俺はほぼずっと一緒にいるからそんなに気になんなかったけど団員たち(あいつら)からしてみたら髪切っただけでも印象が全く違う別人に見えたんじゃねぇの?」

「そんなもんかな?もう、みんな酷いなー」


そんな特に話題らしい話題を話すことなく、雑談をしながらケイレブに乗馬のコツを教わる。


そんな風に、ケイレブから乗馬を教わること数日。

速度はまだそんなに出せないけどある程度なら馬を思うように操れるようになってきた。これなら上手くすればあの森まで疾風(はやて)探しに行けるかも……

問題は、いつ抜け出すかだよなー。

未だに一人歩きを禁じられているので、出かける時はケイレブか代わりの人が常に一緒に行動している。

そろそろ一人で行動してもいい許可出してくれないかなー。


そんなことを考えていたある日、テセウスさんに呼び出された。


「悪いね、突然呼び立ててしまって」

「いえ、大丈夫です。それより闇の鎧を纏って来てくれってことだったんで着てきましたけど……」


何故か鎧を着てくるよう指示があったので、部屋からテセウスさんの部屋まで気配を消してやってきた。ここに来るまでにすれ違う人は、一緒にいるケイレブには挨拶するけど僕には気づいていないようで、改めてケイレブがこの能力に感心していた。


「いやー、シノブのこの能力ほんとにすごいですよ。これなら魔物ともし戦闘になっても、相手の背後取れればあの闇の鎧の魔石の魔力吸い取る力でどうにかなるかも」

「とはいえ、彼一人を黒の大陸に行かせる訳には行かないからな。こちらとしてもシノブ一人に責任を押し付けることはしたくない。何より黒の宝珠に辿り着いたとしてもその近くにあると言う浄化の魔石、触れないだろう?」


鎧越しならもしかしたら大丈夫かもしれないけど、その浄化の魔石、というものがかなり強力なものらしく僕が触ったら何が起こるかわからないらしい。

そもそも魔法アレルギーがいつ発症するかわからないので、テセウスさん達はその対応をさせるにも同行者として何人か黒の大陸に向かわせたいと、以前から言っていた。

もしかしてその準備が整ったのかな?


「あの、テセウスさん。もしかして今日って……」


その準備の説明ですか?と聞こうとした僕に返ってきた返事は予想外のものだった。


「あぁ、そろそろ同行者も探したいからね。その為に今日は闇の鎧の適合者のお披露目をしようと思ってね」

「お披露目……って、今日?!」


心の準備が出来ておらず大声を上げた僕にケイレブが笑い声をあげる。


「お披露目っつっても、シノブはテセウス様の横に黙って立ってるだけでいいんだよ。闇騎士(ダークナイト)の正体は伏せるしな」

「そ、そんなこと急に言われても……!」

「大丈夫だって。あ、間違っても気配消すなよ?お披露目だからみんなにその姿見てもらわなきゃ、ホントに適合者が現れたって信じてもらえないだろ?」

「えええええ……」


その後、テセウスさんの準備を見ながら流れをザッと説明される。

とりあえずお披露目は今のところ騎士団内だけ、みんなには「重大発表がある」とだけ今は伝えてあり、集まっている人達にはまだ内容が知らされていないことを聞いた。


「シノブくんは初めは気配を消してもらって、私と一緒にみんなの前に出てもらう。そして、適合者が見つかったと発表したらみんなの前に姿を現して欲しい」

「その演出、必要ですか?」

「もちろん!いきなり現れる闇騎士(ダークナイト)、みんなのインパクトはすごいと思うよ!楽しみだなぁ……!」


最近どこかで見たな、この表情……

どこだっけ?


と現実逃避をしている間にテセウスさんはバッチリ準備を終わらせていた。

そして先程までの普段のユルっとした雰囲気を引っ込め、今目の前には国の偉い人の雰囲気を纏ったキリッとした表情のテセウスさんが立っている。


「では、行こうかシノブ」

「……はい」


見えないと心配だから、という理由で手を繋がれそのまま数百人の騎士団員達の前に出る。

どうやら僕が普段生活している他にも何ヶ所か部署があり、その部署ごとに宿舎がわかれているそうで僕の知らない人たちもたくさんいた。


団員ってこんなに沢山いたんだ……

そしてこの中にはこの鎧の適合者は一人もいなかった……

改めて考えてみると僕、かなり責任重大だよな……


思わずテセウスさんの手を強く握ってしまった。

緊張が伝わったのか、そっと安心させるように手を握り返してくれる。


そして、広間にテセウスさんの声が響いた。



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