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異世界行ったら……  作者: 片馳 琉花
第2章 王立騎士団 編
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44.エレンの楽しみ

何となく気まずい雰囲気を払拭するように、ケイレブが「そういえば」と僕に声をかける。


「シノブの落し物見つかったのか?」

「あ、うん。一部だけね」

「なんだ、全部は見つからなかったのかよ。もう少し探していくか?」


水際をエレンと二人で探したけどカバンらしき物は見当たらなかったのできっと水の底にでも沈んでしまったんだろう。

どうせスマホも財布もここでは使えないし、僕はカバンは諦めた。


「ううん、大丈夫。ありがとう」

「そっか。もし探すなら休息所でもう一泊しようかと思ったんだけど。なら今回はもう王都に戻ってもいいか?」

「いいよー」


今から帰れば、飛ばせば日付が変わるくらいには王都に着くとの事で、まだ少し落ち込んでいるエレンをどうにか馬に乗せ僕達は帰路に着いた。


僕はケイレブの操る馬の上から道順を頭に叩き込んでいく。

この守護の森の辺りに疾風(はやて)がいるかもしれない。まずは馬の乗り方を覚えて、時々ここに探しに来よう。

ランプの街から守護の森まではほぼ街道一本道みたいだから、馬にさえ乗れれば道に迷う心配は無さそうだ。


馬は順調に道を駆け抜け、深夜ケインさんのいる検問所を通過した。戻った時、ケインさんは目を凝らし僕を見つけていたので、いることがわかっていれば気配消していても、もしかしたら気づかれるかもしれないなー。


僕を見つけることが出来て嬉しそうなケインさんに挨拶をしてから検問所を離れる。

厩舎に着いたのは夜もすっかり更けた頃だった。

馬から降り、ギギギ……と鎧を軋ませながら背中を伸ばす。


「ケイレブ、乗せてくれてありがとう」

「おう、たいしたことじゃねぇよ」


ケイレブにお礼を言っていると、すすす、とエレンが近づいてくる。


「シノブ、今日のことは聞かなかったことにしてくれ」

「今日のこと……ジェシカさんのこと?」

「……あぁ。アレは私の黒歴史なんだ。出来ればなかったことにしたい……」


ぐぬぬ、と普段のエレンからは想像もつかないような表情をしていたので、僕としては色々なエレンの表情が見れて楽しいんだけどなぁ。まぁ本人が嫌がってるしね。


「わかったよ」

「ありがとう。……そうだ、シノブの明日の予定はどうなっているんだ?」

「明日?明日は……ケイレブ!明日はなんかあったっけ?」


スケジュールはケイレブに丸投げなので、確認すると明日は特に急ぎの予定はないとの事。


「そしたら明日はケイレブと一緒に朝の訓練出た後、乗馬の練習をするくらいかな?」

「それ、私もついて行っていいか?」

「エレンも?」


どことなくワクワクした感じを醸し出しつつ、エレンが聞くので「いいよ」と返事をしたけど……何がそんなに楽しみなんだろう?

明日の約束をすると、先程までの眉間のシワは消え去り、ニコニコしながら「じゃあ明日!周りの反応が楽しみだ!」と言いながら研究棟へ帰って行った。


「なんだ?エレンのやつ……」


その姿を一緒に見送ったケイレブも首を傾げている。

そこへ、馬たちを厩舎に戻しに行っていたバリーさんが戻ってきた。


「お、お前たちもおつかれ!今日はここで解散でいいぞ」


……解散、と言われても……


「あの、闇の鎧をテセウスさんに返しに行かなくてもいいんですか?」

「あぁ、それな。どうせ誰にも持ち出せねえならシノブの部屋に置いておいてくれってよ。誰かが無断で部屋に入って部屋を漁らない限り、闇の鎧がシノブの部屋にあるなんて思わねぇしな」

「え?!僕の部屋に置いておくんですか?!」


──ほう。それは確かに都合がいいな。主も鎧本体が近くにある方が魔力の馴染みもあがるだろう。


鎧の魔石まで賛成していたので、僕は仕方なく宿舎の部屋まで気配を消して戻る羽目になった。

ケイレブが時々僕がいるか確認しつつ部屋へ戻る。


「気配のないシノブと歩くのなんか変な感じだな……」


鎧が脱げないので部屋の中に入るまで気配を消していく。自分の部屋のドアを開けると、ケイレブはそれに気づき、「おやすみ、また明日な」と声をかけてくれた。


「おやすみ」


返事をし、ドアを閉めると……


「はー!やっと脱げる!重くはなかったけどなんか開放感ー!」


と、僕は兜を外し、次々と鎧のパーツも身体から外していった。


鎧自体はつけてても軽いし、なんなら身体の動きも軽くなるし、兜も視界が狭くなるどころか何故か感覚が研ぎ澄まされていつもより視野が広がる気がするし、何故か鎧の中も暑くもなく快適で脱いだ方が暑いくらいだけど……


「まぁそこは気持ちの問題だよねー」


と独り言を言いながら、桶に張った水をお湯にしてそこにタオルを浸して身体を吹く。


こっちの世界、お風呂がないのが不便だよなぁ。明日訓練の後乗馬の練習する前に湯浴み室行ってお湯浴びてこよう。


思っていたよりも疲れていたみたいで、身体を拭くと僕は鏡を見る間もなくベッドで眠りについていた。

この時に鏡を見ていれば少しは心構えもできていたのに……

まさか、あんな騒ぎになるなんて……


次の日の朝は、エレンが部屋をノックする音で起きた。


「……エレン、まだ早くない……?」


何の準備も出来てないのでとりあえず部屋の中へ入ってもらうと、


「おはよう!シノブの準備を手伝ってやろうと思ってな」


と、朝から元気いっぱいにキラキラしていた。


「えぇ……なんでそんなに元気なの?昨日のエレンはどこに行ったの……?てか準備って……?」


まだ寝ぼけている僕を椅子へ座らせると、何故か髪にクシを通し始め、魔力で温めたタオルで顔を拭き、机の上に僕のものでは無い服をバサッと置く。


「シノブに似合いそうなものを何着か見繕ってきた!好きなものを着てくれ」

「え?これエレンの服?」


エレンが持ってきてくれた服は、動きやすそうだけどセンスのいいシャツと、細身のパンツ、それに革のブーツ。


普段の僕は、まだサイズが大きかった頃の服を紐で絞って着ていたのでダボダボだったけど、この服は痩せた今の僕の身体にピッタリのサイズだった。


「着替え終わったか?サイズはどうだ?」


僕が着替えている間、律儀に部屋の外で待っていたエレンが顔を覗かせる。


「うん、ちょうどいいみたい」

「似合ってるじゃないか」


用意された服一式に袖を通し、ブーツを履いた僕の姿を見たエレンは、花が舞い散っているんじゃないかと思うほどの満面の笑みを浮かべてご満悦だ。


「でもエレン、この後訓練だよ?せっかくこんないい服着ても汗でベトベトになっちゃうんじゃ……」

「そしたらその時はまた着替えればいいさ。よし、完璧!これはみんな驚くぞ……!」


何が何だかわからないまま、僕はエレンに言われるがまま訓練場へ向かう。

ケイレブは、さっき僕が着替えてる時に部屋の外で会ったようで、先に訓練場へ行っているとの事。


訓練場に着くと、エレンが扉の前で立ち止まる。


「さぁ、お楽しみの時間だ!」


エレンに扉を開けてもらい、何故か先に入るよう促されるので首をひねりながら訓練場の中へ足を踏み入れる。


ワァァァァ!ヤァァァァ!!


いつものように、扉の中に入れば掛け声が凄まじい。

その中でリアンらしき人が僕に気づき駆け寄ってくる。


「おおーい!シノブ!おは……よ……」


何故かリアンの動きが固まった。






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