40.始まりの場所
なんと100話目です!
記念にいつもの倍、文字数あります笑
翌朝、出かける支度を終えるとケイレブと連れ立ってテセウスさんの執務室へ向かう。
「おはよーございます、ケイレブです」
「……シノブです」
入室の許可を得て部屋の奥へと足を進めると、すでにメンバーは揃っていた。
今日出かけるのは僕たち二人とエレン、それとバリーさんだ。
あまり人数を多くしたくないらしく、このメンツになったらしい。
「おはよう、二人とも。じゃあ早速シノブは闇の鎧を身につけてもらっていいかな」
テセウスさんに手招きされ、奥の隠し扉の部屋で鎧を身につけていく。
──うむ、やはり鎧を纏った時の魔力の流れは心地よいな。
久々に胸の所定の場所へ嵌め込まれた鎧の魔石はご機嫌だ。
全てのパーツを纏うと、元の部屋へ顔を出す。
「あの、このままだとすごく目立つと思うんですけど……」
「あ、着替え終わった?じゃあこれを上から羽織ってみてくれる?」
バサッと黒いローブのような物を手渡され、言われるがまま袖を通し、フードを被ると……
「なんかこれ……不審者になってません?」
頭からすっぽりと黒い布に覆われ、それはまるで逮捕されて連行される人のような出で立ちになってしまった。
「……似合ってるぜ!」
ケイレブが親指を立てて、いいね!とジェスチャーを送ってくるけど、その笑いこらえてる顔見えてるからね!
視界も悪くなったので、とりあえず直ぐに脱いでおく。
「似合ってたのになぁ」
「笑ってたでしょ……」
ケイレブとのやり取りを見つつテセウスさんが「困ったなぁ」とあごに手をやっている。
「お披露目前だからまだあまり他の人にその姿は見せたくないんだけどね」
「あれ、そういや……」
悩むテセウスさんの横で、バリーさんがぽんと手を打った。
「シノブ、初めて会った時気配消すの上手かったよな?その姿で気配消してみてくれねぇか?」
「気配を消す?」
「あーたしかに!初めはそのスキル見て王立騎士団に入れようと思ってたんだった」
え?!初耳なんですけど?!
てか気配を消す、ねぇ。バリーさんやケイレブと会った時そこまで気にしてなかったんだけど……
とりあえず、学校でクラスのみんなを驚かせないよう気配を殺していた時を思い出していると……
「え、あれ?!」
バシン!
「痛っ!」
「あれ?いるよな?!」
突然ケイレブがキョロキョロしたかと思うといきなり僕の背中を叩いてきた。
まぁビックリしただけで実際は鎧着てるから痛くなかったんだけど、うっかり出ちゃう言葉ってあるよね……
「てかいきなり何するの……」
「いや、今隣にいたはずのシノブが急に見えなくなったんだよ!いや、見えないってのもなんか違うか?見えてるけど気にしなくなったというか、存在を感じなくなった?」
なおも首を傾げながら、「やべー、不思議だー」と言いつつ僕の肩や背中をバシバシ叩いてくる。
……手の平痛くなんないのかな?
「確かに今、一瞬シノブの気配が気薄になったな。ケイレブが叩かなければもっと長い間見つけられなかったかもしれない」
「これなら周りに気付かれなく移動できますね。問題はどれだけの期間、その効果が持続するかですが……」
「魔力を使ったような反応はなかった。恐らく身体的なスキルのひとつだろう。普段からシノブを気にしていれば気づきやすいが、そうでなければかなり長い間気づかれなさそうだ」
「では、これで守護の森まで出ても大丈夫そうですね」
テセウスさんとバリーさんで話がどんどん進んでいく。
……そういえば。
「エレン、おはよう。大人しいけど……もしかして寝てない?」
「おはよう……いや、少しは寝たんだが……」
部屋に入った時から、ぼーっとしているエレンに声をかけてみると、珍しく半分寝ぼけたような顔のまま返事が返ってくる。
「守護の森まで出るのは久々でな。あそこにしか生えていない薬草もあるからついでに採取してこようと色々準備をしていたんだ」
「貴重な薬草ってこと?」
「まぁそうだな。あそこでしか育たないので研究棟の温室では育てられないんだ」
「へぇ。じゃあそれ僕も持ち帰るの手伝うよ」
「悪いな、頼めるか」
「いいよー」
僕とエレンで薬草の話をして盛り上がっていると、それを見ていたテセウスさんが満面の笑みを浮かべて走り寄ってきた。
「薬草の話?!いいねー、素晴らしい話題だよ!守護の森の薬草の話かい?」
「え、あ、はい」
「うんうん、あそこは貴重な種類の薬草が揃ってるからね!あ、そうだこれ!」
割り込んできたテセウスさんは、隠し扉の方へ行き、戻ってきた手には小さめのリュックサックのようなものを持っていた。
「シノブくん、このバッグ渡すからこれに薬草採ってきてもらっていいかな?!」
「このバッグに、ですか?」
「そう。これはマジックバッグなんだ。しかも空間拡張と状態固定がかかってるからいい状態のものがたくさん持って帰って来れるよ」
マジックバッグ?!
えー、すごい!
──なんだ、それならこの鎧にもあるぞ。
え?!
──胸のプレートが少し開くようになっているだろう。そこが収納になっている。まぁそんなにたくさんは入らないがな。そのカバンくらいなら入るだろう。
鎧の魔石に言われた通り、鎧の胸の部分に留め金で少し開くスペースがあった。……けど……
これ、ものを出し入れできるほど口が開かないんだけど……
──近くまでそのカバンを近づけてみろ。
テセウスさんに預かったカバンを胸の辺りへ近づける。すると……
シュン。
どういう原理か、胸のその小さなポケットへリュックサックが吸い込まれてしまった。
「え?!」
その場にいた全員がその光景に驚きの声を上げる。
一番驚いたのは僕だ。
ちょっと?!借り物のリュックサックが消えたんだけど?!
──落ち着け。先程のカバンを『出したい』と思えば出てくる。
思うだけ?
えっとじゃぁ、リュックサック出てこーい。
シュッ。
胸の前に突然現れたリュックサックは、ポトリと床に落ちた。
僕は慌ててそれを拾いホコリを叩く。
「わぁ、ごめんなさい!借りたものなのに落としてしまって……!」
慌てて謝ると、固まったままのテセウスさんがぎこちなくリュックを指差す。
「いや、それはいいんだけど、今のは……?」
「えー……と。闇の鎧の収納機能です」
「収納……」
「機能……」
テセウスさんとバリーさんが口を開けたまま、僕の言葉を繰り返した。
「そう、か。闇の鎧にはまだ知られざる能力が隠されていたんだな……」
「森に出る前にひとつわかりましたね……」
何やらテセウスさんはメモを取ると、再び僕たちに向き直る。
「ありがとう。こんな感じでその鎧の能力を色々調べてきてくれ」
「はい」
テセウスさんに見送られ、僕たちは守護の森へと出発した。
テセウスさんの部屋を出る前から僕は気配を消して、三人の後をついていく。
そして厩舎の前で一度気配を消すのをやめてみると、どうやら三人は僕に気づいたようで揃って安心した顔をした。
「良かった、着いてきてたよな……」
「本当に気配がしないな」
「森で会った時以上に気づかねぇな」
と、何故か順番に鎧を叩いてくる。
ちょ、ちゃんといるから叩かないで……!
「さて、ところで今気づいたんだが、シノブは馬に乗れるのか?」
「あ、ケイレブに乗せてもらうことになってます」
「あーいや、技術面じゃなくて、重さの方で、だな」
あ。
そうか、この鎧、僕以外にはすごく重く感じるんだっけ……
馬、潰れないかな……?
──別に問題は無い。主が纏っている間は魔力で制御してあるからな。
ほんと?じゃぁ試しに……
「ケイレブ、この馬だよね?魔石が大丈夫って言ってるから乗ってみる」
「お、おう。潰すなよ?」
みんなが見守る中、恐る恐る乗ってみると……
なんの問題もなく乗れた。と言うより、身体がいつもより軽く感じて馬に乗るのもすごく楽だった。
「これなら大丈夫そうだな。なら一気に森へ向かうぞ」
バリーさんはそう言うと颯爽と馬に跨り、直ぐに走り出す。ケイレブもエレンもすぐあとを追った。
みんなホントに馬を乗りこなしててすごいなぁ……
僕はケイレブの後ろでただ気配を消してのんびりと景色を堪能する。
ランプの街も、あっという間に駆け抜け、検問所へ着くとケインさんが待ち構えていた。
「おはよう、待ってたぜ。シノブは……?」
馬から降り、同時に気配を消すのを止めるとケインさんの眉が少し上がる。
「驚いたな、闇の鎧はそんな気配遮断もできるのか……」
「いや、これは元々シノブの能力」
「なに?!」
今度は目を見開き驚いた。
「すごいな、シノブ」
「いやー……」
純粋に尊敬の眼差しを向けられ、照れくさくなった僕は検問所の魔石登録を済ませると直ぐに馬に乗り気配を消す。
その姿を見てケインさんは面白そうに後ろで拍手を送っていた。
「気をつけて行ってこいよ」
ケインさんにも見送られ、馬は街道を猛スピードで駆け抜けていく。王都から守護の森までは馬車で約三日、普通の馬で二日、訓練されたこの騎士団の馬なら一日で辿り着くらしい。
そのまま馬は走り続け、一度休息所で仮眠を取り、翌朝に守護の森へと辿り着いた。
「よし、この辺で馬を降りて休憩するか。その後、鎧の能力確認始めるぞ」
「うー、背中痛い……」
馬から降りて背中をバキバキ鳴らしていると、ケイレブが
「気晴らしにその辺少し散歩してこいよ」
と提案してくれた。僕はお言葉に甘え、少し探検することにする。
「念の為、私もついて行こう」
と、護衛代わりにエレンも着いてきてくれることになり少し森の中を二人で歩いた。
特に会話もなく、ただ何となくブラブラしていると、ふと視界の端に気になるものが映った気がした。
思わずそちらに足を向ける。
「シノブ?」
エレンも特に止めるでもなく後をついてくる。
「それは?」
足元に落ちていたものを拾い上げ、じっと見つめる僕の手元をエレンが覗き込んだ。
僕が握りしめていたもの。
それは、今は懐かしいスマホと、『高槻 疾風』と名前の入った学生証が入ったボディバッグ。
握る手に力が入る。
……疾風もここに来ている、のか?
いつも読んでくださりありがとうございます!
なんととうとう100話になりました!
これからも面白いと思って頂けるよう頑張りますので、よろしくお願い致します(*´ω`*)
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