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The Bottleneck of Love Affair(不倫の歯止め)

 嫌な夢を見てた。何かに追い立てられて焦っている夢だ。きっと、新年度が始まったばかりでやらないといけない仕事が多い時期だから、そんな夢を見たのだろう。

 夢の具体的な内容は覚えていないが、追い立てられて、そしていよいよにっちもさっちも行かない状況に追い詰められたところで、ウンゴという自分自身のイビキの破裂音で目を覚ました。

 あぁ、びっくりした、と声も出さずに呟いて、枕元のスマホを確認すると、まだ5時前だった。もう少し寝たかったが、眠れそうになかった。どうしようかなと悩んでいて、隣で寝ている千紗の方から不穏な空気が漂ってきていることに気がついた。

「あ、ごめん、今ので起きた?」

 完全に目が覚めて、慌ててフォローを入れた。

「起きた。って言うか、一晩中ずっとイビキの騒音で寝れてない」

「ずっと?」

「ずっと」

「ここのところ、仕事が忙しいからな」

「別に、ここのところだけの話でもないけどね」

 言葉は冷たかったが、それほど機嫌が悪くなってる感じはなかった。

「この間さ」

 それどころか、どこか可笑しそうに、千紗は切り出した。

「大学時代のテニス部の友達とテニス旅行に行ったでしょ。あの時、3人ずつの部屋割りだったんだけど、私と違う方の部屋に佳子っていう子が泊まってて。その佳子のイビキがうるさいから寝れなかったって。ほら、結婚式にも来てくれてた茉莉奈がカンカンに怒って。

 佳子はそんなわけないって言い返して、ホテルのロビーで大声で喧嘩になって。他のお客さんの目も合ったから恥ずかしくて、まあ大変だったんだけど、あまりに茉莉奈の怒り方が真剣で。あのときのことを思い出すと、ちょっと笑えるんだよね」

 実際、小さく鼻で笑ったような気配がして、暗い部屋の中の空気が振動した。

「まあ、別にイビキって、中年親父だけのものじゃないからな。だし、もちろん太ってる人の方がかきやすいとかっていうのはあるんだろうけど、別にすらっとしたイケメン、例えばわかりやすく言えばキムタクとかでも、イビキはかくんだろうしな」

「そりゃ、かくでしょ」

「へえ、キムタク様はイビキなんてかかないっていうのかと思った」

「イビキはかくわよ。人間なんだから。ただ、キムタク様はイビキをかいてても格好良い」

「さいですか。・・・まあ、キムタクはともかくとしてさ、」

 ふと思いついたことがあった。

「不倫カップルってどうしてるんだろうな」

「どういうこと?」

「いや、不倫っていわゆる色っぽいことだろ。単なる恋愛よりも背徳感もあるし。でも、基本的には中年のまぐわいだ。そうなると行為自体は百歩譲って味があるとしてもさ、その後寝てるときにイビキとか歯ぎしりとかしたら興醒めだろ。うわあ、そう考えると、不倫なんてとてもできないな」

 やましいことなんてない。残念なくらいにまるでない。そもそもイビキの話だ。

 それなのに、言葉の最後の方がどこか言い訳みたいな響きになって、それでまた、その響きを千紗が変な風に受け取ったんじゃないかと勝手に焦って、脇に嫌な汗をかいた。

「それは大丈夫よ」

 でも、千紗はそんな俺の独り大相撲になんてまるで気がつく風もなく、あっさりと言った。

「なんで?」

「だって、不倫ってことは家族がいるってことでしょ。ということは、泊まりの密会なんてそもそもそうそう出来ないじゃない。家庭が崩壊してるんだったら別だけど。ということは、楽しむだけ楽しんだら何食わぬ顔で家に戻るだけ。ドラマと違って実際の不倫なんてロマンスなんて洒落たもんじゃなくて、単なる肉体的な快楽とストレス解消なんだから、無用なリスクがあるイビキ付き添い寝のことなんて心配する必要ないのよ」

「そんなもんかな?」

「そんなもんよ」

「そうか・・・」

 そんな風に言われると、千紗の言う通りのような気がした。納得もした。ただ、そんなことより何より、千紗の切り返しの早さと答えの力強さ、それから妙な説得力が少しだけ気になった。

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