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インターリーグ

「ねえねえ、今月のアレ見た?」

 オフィスの給湯室で3時のコーヒーを飲みながら休憩していると、同期の風花が声をかけてきた。カップから口を離し、振り返って返事をしようとした次の瞬間。

「見た見た」

「ちょっと衝撃的だったよね」

「あれって、人事の高橋課長らしいよ」

「えー、人事なのに?」

「いやいや、ウチの人事はブラックだから」

「ブラックはコーヒーだけにしてよ」

「古っ!!」

 と、砂糖に群がる蟻のように、どこからか別の女子社員たちが集まってきたかと思う間もなくたちまち賑やかなゴシップ会議が始まり、その集団の渦に飲み込まれた私は逆に一人取り残された。

 ウチの会社には女子社員にとどまらず、社員全員が注目する社内ニュースがある。それが、イントラポータルに不定期に掲載される、『社員の懲戒処分に関するお知らせ』、通称『月刊チョーカイ』だ。

 内容は名前そのままで、会社で発生した懲戒案件と処分内容を公表するというもので、通称が揶揄する通り、不定期ではあるものの大体月一回のペースで発信されている。

 案件の内容は、飲酒運転や傷害事件のような警察にお世話になるようなものも稀にあるが、その多くは社内のセクハラ・パワハラだ。

 その内容や頻度を見ると、会社の行末が心配にもなるが、そう言った声が上げられる状況や、キチンとした処分がされて公表されているのは、それはそれで真っ当だなと感じたりもする。

 と、同時に、明らかに本来の趣旨とは違う理由で「月刊チョーカイ」に注目している輩(含む私)がこんなにも多くいかがなものかと思う。思うが、実際、それを楽しみにしている自分がいるのは事実だ。

 このときも 『月刊チョーカイ』フリークの女子社員たちの波が去り、ようやく二人きりになるやいなや、私は風花に尋ねた。

「それで、今月はセ・リーグ、パ・リーグ、どっち?」

「パ・リーグ。会議中でも、みんなの前に立たせて、会議室中に響き渡るくらい大っきい声で、叱責したんだって」

 ちなみにセ・リーグはセクハラ、パ・リーグはパワハラのことで、重たい話題を楽しいトピックに変えるための、フリーク御用達のポップワードだ。誰が言い出したのかは不明だが、今では社内用語としてすっかり定着し、新入社員やキャリア入社の社員への共有事項にさえなっている。

「うわあ、そりゃまたオールドファッションなパ・リーグだね。まだ、そんな人いるんだ」

「いるいる。しかも、この人、パ・リーグ認定、今回が初めてじゃないらしいの」

「悪いって思ってないんだろうね」

「むしろ、俺はこいつのためを思って言ってやってるのに、くらいな感じじゃない」

「その思いと方法がマッチしてないとか、結局は自分のエゴが入ってることに気がついてないんだ」

 こういう問題は双方に言い分があることも、問題に対する世間の反応が過剰になりつつあることも分かっている。それでも加害者に同情する気にはなれなかった。

 それよりも、今回の被害者や、こういうシステムがなかった頃の人たちの苦しみを思うと、心が痛くなった。

「ところでさ。噂で聞いたんだけど、来月のやつすごいらしいよ」

 私の心の訪れた小さな影になんてまるで気がつく風もなく、風花がニヤニヤと、声を潜めて私に顔を近づけてきた。

「え、何?」

 くすぐったさに少しのけぞりながら、それでも正直ちょっとワクワク聞き返した。

「なんだと思う?」

「えー、セ・リーグ、パ・リーグ?」

 甘い甘いという風に風花は人差し指を三回顔の前で振って、そして口を開いた。

「それがなんとセパ交流戦!」

「交流戦!?それって、パ・リーグとセ・リーグの合わせ技ってこと?」

「いや、どうも、セ・リーグが歪な恋愛関係に移行して、そこからさらにその関係がこじれた結果のパ・リーグらしい」

「何、それ。もはや昼ドラじゃん」

 顔面全体で「呆れた」を表現しつつ、これは絶対見逃せないなと心の手帳にチェックした。

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