序論
ついに始まりました探偵帖第二弾!!
どんな事件が彼らを待っているのか……、まずはプロローグからお楽しみ下さい。
ここは人とエルフ(妖精)、ドワーフ(亜人)たち人類族と、数多いる動物、そして異形の者たちの暮らす世界。
そしてこの世界には不思議な力が存在していた。その力はそこに在る物、生き物はもちろん、植物や鉱物全ての物に宿っていた。
木々は豊かに育ち、その実は大いに膨らみ、そして生き物たちはそのおかげで豊かに暮らしていた。
それぞれの種族は栄え、子を産み、次第にその数を増やしていくと小さな集落がいくつも出来た。
豊かな自然はその恩恵を全ての種族にあたえ、小さな集落は村になり文化、文明が発展していった。
しかし平和な時は、それぞれの種族が増えるにしたがって争いの時代へと移り変わっていく。
そして、人類族と魔族と呼ばれた異能を持つ異形の者たちは幾多の争いの時代を超え、今を遡る事約二百年前の大戦の後、お互いの手を取り合い共利共生の道を歩み出す事になる。
二百年前の大戦後、幾つかある国家の中で中心となっていたグレータス王国、国王アレス五世は人類族、そして共に暮らすようになった魔族たち全てに自由と平等を享受できる為政に勤しんでいた。
そんな中王宮舞踏会で事件が起きる。王国屈指の商会会長の殺人事件が起きたのだった。
この事件はジャクリーヌと言う非常に優秀な歴史学者と、その助手を務めるゴブリン族のナブーと言う少年の活躍により無事に解決したのであった。
しかし彼らが事件を調査する中で、中央そして辺境領での貴族と役人そして商会の不正が明るみに出る事になったのであった。
国王アレス五世は政治や行政の腐敗を一掃すべく改革を行う事を決め、事件に関与したコールウェル侯爵の治める辺境領の没収、地方行政の大幅な改革を進める。
そんな折、旧侯爵領辺境のザイオン地方にある新規鉱山で怪事件が続発したのだった。
旧侯爵領ザイオン、鉱山近くにあるヅゥタの村での出来事である。
「なあ、今日は何して遊ぼうか?」
「裏山のほこらに行こうぜ!」
「えー、あそこはここら辺の守り主の祠だろ?父ちゃんたちがイタズラすると主が怒るから近寄るなって言ってたぜ」
「そんなの大丈夫だって。オレこの前、ほこらの裏にどうくつ見つけたんだぜっ、たんけんに行こうよ」
「本当っ!?行きたい!」
「すげー、僕も行きたーい!」
自然に囲まれたヅゥタの村では子供たちが元気に遊んでいた。その中の一人が洞窟を見つけたと自慢げに仲間に話していたのだ。
ザイオンで最近発見された鉱山の裏手に、この土地の守り主を祀った祠があり、彼らはそこに遊びに行く事にしたのだった。
村から続く山道を進んだ先には木々で覆われた山があり、その麓には木で作られた円柱二本に頂上部を二本の柱を繋げた古くて赤い門があり、そこから石階段を登ると木造の小さな社がありその中に祠があった。
子供たちは楽しそうに階段をかけ上がると、皆社の中へと入って行くのだった。
「なあ、どこにどうくつなんてあるんだ?」
「こっちこっち」
男の子の語った洞窟は社の奥、祠の後ろに隠れる様にぽっかりと口を開けそこにあり、入り口には祭壇が置かれ今でも時おり人の手が入っている事を伺わせていた。
「さっ、行こうぜっ!」
「すっげ〜な!どこまで繋がってんのかな?」
「え〜、奥の方まっくらだよ。怖いよ〜」
「なあ、この《まこうとう》使えそうだぞ」
子供たちの一人が入り口付近にあった灯りを見つけると仲間に手渡し、それぞれ灯りを手に洞窟を進んでいった。
その洞窟の広さは入り口からしばらくは人が立って歩ける程度の大きさだったが、奥に進むほどに狭くなり最奥は特に狭く、ほどなく行き止まりになっていた。
「なんだよ、わりとすぐ行き止まりだったな」
しかしその先には大人では入れない大きさの狭い横穴がまだあったのだ。
「なあ、この先はまだ行けそうだぜ」
子供たちの一人がそう言うと、その小さな横穴に這いつくばって入って行った。
「おいムゥっ!そっちはあぶなそうだからやめとけって!」
ムゥと呼ばれた少年は灯りを顔の前に携え小さな50cmほどの横穴を這い進んでいく。すると穴を抜けた先には1m四方の空間があり、その空間はそのまま下へと繋がっていた。
「なあっ!こっちはまだ行けそうだぞー!下に続いてるー!」
ムゥは、まだ手前の洞窟にいる仲間に声をかけながら先を覗こうと下に続く穴に近づいていった。
「ムゥ、僕たちが行くまで待ってろよ!!一人で行くなよー!」
そしてムウは穴の外に居る仲間の忠告を無視して下へと続く穴の奥のをさらに覗き込もうと身体を前に出して穴の先を伺うのだった。
「大丈夫だよっ、それよりこの下でなんか光ってるぞ!」
ムゥの見ている穴の底には横に繋がる穴があり、微かに赤い光が揺らめいて見えたのだった。
「ちょっと見てくるっ!」
「おい、一人で行くなって!!」
ムゥはその光が気になり斜面を一人で降りてゆくのだった。
しかし人の出入りのないその穴は急斜面になっており足元は脆く、ムウが少し進んだところで崩れてしまう。
そして「ガラガラガラッ」と斜面の崩れる音がすると洞窟にムウの叫び声が響きわたるのだった。
「うわぁっ!!」
ムゥは高さ5m以上はある穴を転がり落ちてしまうのだった。
「おいっ!どうしたムゥ!?」
「おいっムゥ!返事しろっ!!」
仲間たちは急いで狭い横穴を這って行き、ムゥの落ちた縦穴を覗きこむのだった。
「おーい!ムゥ!大丈夫かー!!」
「おーい!」
しかしムゥの返事は返ってはこない。
「ヤバいぞっ!」
「おーい!ムゥ!返事しろー!!」
「助けにいかないとっ!」
「ダメだっ!オレたちまでおっこちちゃうだろっ、戻って大人を呼んでこようっ!」
「分かったっ!僕が行ってくる!!」
「オレたちはのこってムゥの様子を見てるからたのむよっ!」
子供たちの一人は洞窟を出ると村へと急いで帰るのだった。
「おーいっ!ムゥ返事しろー!!」
「おーい!おーい!!」
子供たちが代わる代わるムゥの落ちた穴に向かい声をかけたが、返事は一向に返ってはこなかった。
そしてしばらくすると、彼らの持っていた魔鉱灯の光が弱くなっていくのだった。
「ねぇねぇっ!灯りが消えそうだよ!」
「ヤバいじゃんかっ!灯りが消えたらまっくらだぞっ!!どうくつから出られなくなっちゃうよ!」
「どうしよう!?」
「しょうがない、外に出て大人がくるのをまつしかないよ」
子供たちは、しかなく洞窟を出て行くのだった。
その頃、洞窟奥に取り残されたムゥは転がり落ちた穴の先で声も出せずに横たわっていた。
彼の頭からは血が流れ、まだ幼い身体はあちこちぶつけた激痛と痺れで四肢を動かすことも出来ず、意識は朦朧となっていたのだ。
「いたいよ……、だれか……、たす、け、て……」
力無く横たわるムゥは微かに声を出したが、その声は仲間には届く事はなかった。
その時、洞窟の奥でほのかに煌めく赤い光が突如として強くなっていく。
赤い光の元には豊かな胸と瑞々しい果実を思わせる美しい曲線の腰と臀部が印象的な女性のシルエットが浮かび上がっていた。
そしてどこからか女の声が聞こえてくるのだった。
『なんだい?騒がしいねえ』
「だ、れ……?」
『ドワーフの子供?こんなとこで何してんのさ。それより酷い怪我じゃないか、早く治さないと死んじまうよ』
「やだよ……、死にたくない……」
『こんなとこで死なれちゃ目覚めが悪いよ。寝起きに参っちまうねえ』
赤い光がいっそう強くなると、ムゥの身体もほのかな桃色の光を放ちだす。するとムゥの身体に変化が現れるのだった。
頭から流れ出ていた血はとまり、傷はみるみる塞がっていった。そして身体中の痛みが無くなっていくと動かなかった手足に感覚が蘇っていく。
「………」
『なんだい、気を失っちまったのかい?まあでもこんなに小さいのによく頑張ったね、お前さん。あたしも残りカスの力を全部使っちまったみたいだねえ……、参っちまうよ……』
そして赤い光と桃色の光は消えるのだった。
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