王宮舞踏会殺人事件⑦
王宮舞踏会殺人事件、完結!!
「そう、ではいったい誰がガストンさんを殺害したのか……、ですがその前にガストンさんの死因についてお話しせなければなりません」
「先程おぬしは刺殺ではないと言っておったが、死因は何だというのじゃ?」
アレス様が堪らず口にしました。
師匠は、その場の皆んなを見回すと口を開くのでした。
「そう。それは、………魔法です」
「「魔法?」」
師匠の口から出た言葉に、グスタフとカールたち騎士団をはじめ、国王アレス様も虚をつかれた顔をするのでした。
「ガストンさんにかけられた魔法とは、死者を甦らせる魔法、それも動く死者として甦らせる屍人返りの禁呪ではないかと」
「馬鹿なっ!その様な魔法はとうの昔に失われたはず、今の世にそんな危険な魔法はあり得ない!」
「確かに、200年前の大戦以降、強大な魔力を必要とする魔法は失われたはずでした。ですが、それらは完全に姿を消したわけではありません」
師匠の話しにグスタフは驚きの表情を浮かべ返事を返しました。そんなグスタフにアレス様が口を開きました。
「魔石じゃよグスタフ。そうであろうジャック?」
アレス様の口から出た魔石と言う聞きなれない言葉に困惑したグスタフはそれが何かと訊ねるのでした。
「魔石とは何のことですか?国王陛下」
「流石アレス様。皆さん魔鉱石は当然ご存知かと思います。魔石とは、魔鉱石より魔力の純度の高い結晶【魔晶石】の欠片の事です」
グスタフの問いに師匠が答えると、その場にいる皆んなが訝しむ顔をするのでした。
「魔晶石……」
「そうです。その欠片は一粒で大量の魔力を持ち合わせており、その力の種類によって様々な輝きを放つ大変貴重な物。そしてそこに込められた魔力があれば古の魔法も使用できるのです」
師匠の話しにその場の皆んなは、ザワザワと推測を話し出しました。
「ではガストン殿は……」
「その何者かが魔石を使って屍人返りの魔法を使ったのか……?」
「そんな危険な物があったなんて恐ろしい」
「本来死体に使う魔法を生者に使うと、その対象者の精神、魂と呼ばれるモノは固定され、器の体は機能を停止し、心臓を始め全ての臓物、筋肉や皮膚もゆっくりと朽ちていき、脳が腐り果て、やがてただの動く死体、リビングデッドとなり果てます」
「そうか!ガストンの身体はすでに死んでおり、その為に遺体の検分結果がおかしかったということなのですね」
「その通りです。ガストンさんは10日ほど前に肩こりだけではなく全身が非常に凝ると言っていたそうです。おそらくその時に魔法をかけられていたのでしょう。」
グスタフは目を見開き、謎が解けたと声をあげました。しかしグスタフはすぐに眉間に皺を寄せ再び険しい面持ちになると、更に師匠に訊ねるのでした。
「ですが、魔法のかけられていたガストンは何故あの時倒れたのです?」
「それは屍人返りの魔法が解かれたからだと思います」
そこで今度はアレス様が二人の会話にはいっくると師匠に問いかけました。
「魔法を解けば息絶えるのに、なぜわざわざナイフを刺したのじゃ?ジャック」
そして師匠は答えます。
「はい、それは容疑を他の者に向けさせる為ではないかと」
「そうか、騎士団はまんまとそれにハマったというわけか」
「その通りです。……そして最近、私は魔法の痕跡を見ました。その昔、我々が魔族と読んでいた者たちには総じてその身体に紋様があったと聞いております。それは強い魔法を使う者ほど濃く広範囲に浮かび上がっていたと。争いの多かった時代魔力を用いて戦っていた人類族にも同じ様に紋様を持つ者たちもいたそうです。かの七大英雄もそうであったと伝えて聞いております。しかし魔族と違って我々が魔力を使うと耐性の低い者は身体に変調をきたし具合が悪くなる為に、強力な魔法を使える者は数少なかったそうです。リリアンさん、貴女もガストンさんが体調を崩されたと同じ時期に具合を悪くしていましたね?使用人からその様に聞いております」
「もしや奥様もその魔法が!?」
師匠の話しにその場がざわめきました。
「いえ、それは違います。奥様はガストンさんが倒れた当日も体調を崩されました」
「それは目の前で主人が殺害されたのですから当たり前じゃないですか?」
それまで黙って皆んなの話しを聞いていたカールが不思議そうな顔で訊ねると、師匠はついに犯人に言及するのでした。
「普通に考えるのであればその通りでしょう。ですが先程の話しでリリアンさんはガストンさんに対して愛情をお持ちだったでしょうか?私にはその様には感じられません。むしろギギさんの事でガストンさんに強い憤りを感じていたのてはないでしょうか?」
「では、ガストンに魔法をかけたのは奥様だと!?」
師匠の言葉の意味に気がついたカールの発言に、広間の皆んなは一際大きなどよめきを起こすのでした。
その時、声をあげる者がいたのです。
「それは違います!ガストンを殺したのは私です!!」
その言葉にマルタ家の皆んなが驚きの声を上げました。
「「ガルム!?」」
そして突然の告白に広間は静まりかえると、ガルムは強ばらせた表情のままアレス様に訴えるのでした。
「私は……、私はギギの父親です。そして奥様、いやリリィと私は恋仲でした。村にいた時からマルタ家に来てからも。あの男はそれを承知でリリィに手を出したのです。しかもギギまでもアイツの欲望の為に……。リリィが身籠った時、私は彼女を故郷に帰しました。家族は離れ離れでしたが、それでも私たちは幸せでした。ですがある時、あの男はリリアンを後妻に迎えると言い出したのです。そしてギギもマルタ家で務めさせると、私は心中複雑でしたが、それでも家族と一緒に過ごす事ができるとよろこんだのです。ですがヤツは娘をあの変態に差し出すと言ったのです。私は愕然としました。何度私たちは踏みつけられるのかと!!」
アレス様はガルムの訴えを真剣な顔で聞いていました。
「……そして私は決意したのです」
ガルムはアレス様に向かって膝を着き、首を垂れると侯爵が声を荒げるのでした。
「何をわけのわからん事をほざくかっ!我が侍女として迎えるだけの事を」
それまで黙ってガルムの話しを聞いていた師匠は、そこで侯爵に向かって話しだしました。
「コールウェル卿、貴方は他人には言えないご趣味がございますね」
「な、な、なんという事を!貴様、私を愚弄するつもりか!?」
「こちらに関してもいくつかの証言を頂いております。貴方は、ガストンさんからの利益供与と人材派遣の名目で年端もいかない少女たち斡旋させては、その毒牙にかけていらっしゃったのではありませんか?」
「ふざけるなっ!たかが平民の分際で何を言うかっ!!」
侯爵は師匠の話しに顔を真っ赤にし、再び声を張り上げると、師匠に掴みかかろうと近付いてきました。
「衛兵っ!!」
「「はっ!」」
「何をするっ!離せ!!」
しかしアレス様の一言で侯爵は騎士団に両脇から挟まれ腕を掴まれると動けなくなりました。そしてガルムは再びアレス様に訴えたのです。
「アレス国王!全ては私のしでかした事。リリアンもギギも、もちろんアイシャ様もなんの関係もございません。全ての罪は私にございます!私をっ!私を捕らえて下さいっ!!」
ガルムは頭を床に擦り付けアレス様に懇願するのでした。
そのときリリアンがひざまづくガルムに近づきその肩にそっと手を置き口を開きました。
「お待ち下さいアレス国王陛下」
「リリィ?」
「……ガルムもういいのよ、やめましょう。アレス様ガストンを殺したのは私です。私が古の魔法を使い彼を生きる屍にしました。そして舞踏会の日にその魔法を解いて皆さんの前で息絶えさせたのです。そしてガルムはそれを誤魔化す為にガストンの胸にナイフを突き立てました。ガストン殺害は私たち二人で共謀したのです。そして犯人を探している間に娘のギギを故郷に逃す為にこの様なマネをしたのです……」
「なんてこと……」
リリアンの話しにアイシャールは涙を流しギギを抱き締めるのでした。もちろんギギも声を上げ涙を流していました。
「グスタフ、二人を捕らえるのじゃ。コールウェルよ、其方にも色々と話してもらうぞ」
そしてその後の取り調べで、リリアンとガルムの二人は、娘のギギが無事に故郷に戻った後、自首するつもりだったと話したそうです。そして、容疑をかけられ拘束されたルイーズに大変申し訳ない事をしたと深く謝罪をしていたそうです。
アイシャールはそんな事とは知らずギギを侯爵の魔の手から守ろうとしたのでした。
彼女の行為が事件をより難解にしてしまいました。ですが、その件はお咎め無しとなったのだそうです。
後日、師匠と僕はアレス様に呼ばれ王宮に向かいました。
「此度はご苦労じゃった。ジャックそしてナブーよ」
「労いのお言葉痛み入ります。アレス様」
「ありがとうございます。アレス様」
「うむ。しかし今回の件、儂にも責任はあったと感じておる。とは言え事件が解決して本当によかった」
「お言葉を返す様ですが、このような件はまだまだあるのではないでしょうか?自由の下に力ある者がなき者を虐げ、私腹を肥やす様な政はあってはならぬと私は考えます。アレス様の政策は大変素晴らしいものです。しかし、それをいかに平等に国民に与えるか、それがアレス様の行う真の政かと存じます」
「耳が痛いな。じゃがおぬしの物言いはもっともじゃ。我が国は広い、しかし為政はまだまだ行き届いておらんのが現状。もっと世の真実を儂は知らねばならん」
「おっしゃる通り。今回の事件、彼ら二人に寛大な処分をお願い申し上げます。そして私腹を肥やす貴族や商人に対する罰則、それらを運用する制度をお考え下さい」
「権力と財を持つ者こそ、自らを律する事が出来ねばならん。今の貴族や豪商には腐った輩がまだまだおるようじゃ。そ奴等を見つけ国民に真の自由と平等をもたらす為に手を打つ事にした。そしてあの二人の事も儂に任せてもらおう」
「ご期待申し上げております。アレス様」
僕たちは褒賞金を受け取り王宮をあとにして事務所へと帰りました。
騎士団の馬車に揺られ帰路を進むと、馬車の窓から街道で新聞を配る青年の姿が見えました。
「さあさあ、皆んな見ておくれ!王宮舞踏会殺人事件の全貌だ!!」
「こっちにもおくれよっ」
「あの有名な名探偵ジャクリーヌが今回も大活躍っ!私腹を肥やした悪者侯爵の悪事を見事に暴いたよ!!国王アレス様は今回の件を踏まえて貴族と役人の取り締まりを厳しく行うそうだっ!詳しい内容は新聞で確認しておくれっ!!」
青年の周りには人だかりが出来、新聞を片手に青年の話しを真剣に聞くのでした。
「マルタ商会はどうなるんですかね?」
「アイシャールさんがいらっしゃるので、大丈夫でしょう。彼女なら不正な商売をやめて真っ当な商いをして頂けると私は信じますよ」
「そうですね。アイシャールさんならもっと街の人たちや、村の人たちの事を考えてくれますよね」
「ええ、今回の一連の件は大丈夫でしょう。ですが………」
これが今回の事件の全容で、僕はこれで全ては解決したと感じていました。しかし師匠の顔にはまだ思案の色が濃くありました。
「まだ何か気になる事があるんですか?」
「あの魔石……、何故彼女が持っていたのか?」
「そういえば、とっても貴重な物なんですよね。それにとても危険だって師匠は言ってましたね」
「この先、何も起こらなければよいのですけれど……」
「その時は、また師匠と僕で解決すればいいですよっ!ねっ師匠」
「相変わらずナブーは前向きで素晴らしいね。そうだね、その時はまた頑張りましょう」
「はいっ!じゃあ事件も解決したし、お祝いも兼ねてゴメスさんのレストランでお昼ごはんにしましょうよ!」
「そうですね。美味しい人参を用意してもらいましょうか」
「えぇっ!?美味しいハンバーグがいいですよー!」
そして王宮舞踏会殺人事件は幕を閉じたのでした。
閲覧ありがとうございました。
推理モノいかがだったでしょうか?
わたし如きには、まだ早かったかもしれませんが思い切って書いてみました。
疑問、批判、なんでもよろしいので感想頂けたら幸いです。もし、ご好評いただけましたら、続きを投稿しますので、皆さんの意見をよろしくお願いします。