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王宮舞踏会殺人事件⑥

 真相解明編です。次話にて王宮舞踏会殺人事件は完結します。


 閲覧いただきました皆さん、是非是非感想などお願いします。

 

 ギギとリリアン、そしてガルムを黙って見ていた師匠は、振り返ると口を開くのでした。


「さて、まずは今こちらに来て頂いたギギさんの事からお話しします。彼女は街中のある場所で私たちが発見しました。健康状態も良好で誰かに捉えられている訳でもありませんでした」


 師匠はその場にいる皆んなに向かって話しました。そして再びギギの方を向くと、笑顔で訊ねました。


「そうですねギギさん」


 ギギは申し訳なさそうな顔をして師匠の言葉に頷き答えました。


「はい、その通りでございます」


「それでは事件当日のギギさんの事をお話ししましょう。あの日彼女はガストンさんのある知人に紹介をされる予定でした」


「はい」


「ちなみに、それはどなたですか?」


 師匠は何かを含んだ瞳で訊ねました。


「そこにいらっしゃるコールウェル侯爵様でございます」


 ギギは当日の来客の一人で、アレス国王の臣下で王国の辺境を治めるコールウェル侯爵に身体を向けると頭を下げました。


「確かにガストン殿とは懇意にしてはおりましたが、それと今回の事件になんの関係があるのですかね?」


 ギギの返答を受けた師匠が侯爵に視線を向けると、彼は憮然とした態度で師匠に言葉を返すのでした。


「まぁ、まずはジャックの話しを聞こうではないか」


「はっ、アレス国王陛下」


 侯爵はアレス様に向かい大袈裟に首を垂れるのでした。

 そして、アレス様の一言に手を胸に当て会釈した師匠は話しを続けます。


「ありがとうございますアレス様。それでは続きをお話しします。今回の事件は二つの事柄が偶然重なった為に複雑になってしまったのです。一つはガストンさん殺害、そしてもう一つはギギさんの失踪。ですが、この二つには密接な関係があったのです」


「では、ギギは犯人ではないという事か?」


「はい、おっしゃる通りです。そして当日彼女はコールウェル卿に引き渡される約束になっていた……。そして侯爵と言えば北東部の辺境の地権をお持ちになられています。そちらでは最近新しい鉱山が発見されました」


「それらの鉱山の利権に絡んでマルタ商会とアトモス商会が揉めているのは我々の調べで明らかになっております」


 グスタフが口を開きました。


「おっしゃる通り、ただマルタ商会とライバル関係の商会は他にもありますね。それに当日招待された中にも、それらの商会の関係者はいらっしゃいました」


「確かにそうではあります」


 グスタフは師匠の言葉に頷きながら言いました。


「この数日、私たちがガストンさんを調べていくうちに彼は多くの恨みをかっている事が分かったのです。目立っているのは商会間の軋轢ですが、中にはこんなモノもありました。マルタ商会は地方の貧しい村から人材を鉱山に斡旋していました。しかしそこでの人々への待遇は決して充分な物ではない様でした」


「確かに商売を広げていく上で、同業者からの妬みは付き物じゃ、さらに人材斡旋でも労働者から不平不満があったという事か」


 アレス様は眉間に皺を寄せ険しい顔で師匠に頷きました。


「はい、まず今回の事件には大きく二つの背景があります。一つ目は鉱山の利権に関する事です。ガストンさんは以前から鉱山関係筋に不正に利益供与をし、その見返りに便宜を図ってもらっていたのではないでしょうか?」


「なんと!?そうなのかコール!」


 アレス様は目を見開き、コールウェル卿に問いただしました。


「さ、さあ?私の預かり知るところではありません」


 コールウェル卿は初めて聞いたとばかりに大袈裟に両手を広げて見せました。

 師匠は片手を侯爵に指し示すと答えました。


「そちらに関してはマルタ商会からコールウェル卿の関係筋への金銭の流れを調べて頂ければお分かりになるかと」


「何を根拠にその様な事をぬかすっ!貴様!!」


 侯爵は声を荒げて師匠を睨みつけるのでした。


「コールっ!黙れと言った!!」

「さあジャック続けるのじゃ」


 アレス様が一喝すると、侯爵は歯軋りを立て師匠を睨みつけるのでした。


「二つ目は、ガストンさんは辺境の村々の男たちを鉱山へとあてていました。村には年寄りと女子供が残る形になります。辺境の村は自給自足と出稼ぎで生計を立てている者が大半でしたが、男手の無くなった村は自給自足が出来なくなり、彼らの稼ぐ賃金をアテにするしかなくなっていったのです」


「賃金が安いのであれば、坑夫をやめて畑を耕せばよいのではないか?」


「確かに、ですがガストンは村の大半が坑夫として生計を立てさせるのと同時に村への物資の販売も始めたのです。初めのうちは安く品物を販売していたのでしょう。元々貧しかった彼らはガストンの甘言にそそのかされ、やがて自分たちの田畑が使えなくなる頃にはマルタ商会の鉱山からの賃金でマルタ商会の販売する品を買って暮らすという生活に変わっていったのです。そして狙いはそれだったのです」


「そうか!村人はマルタ商会に依存せざるを得ん状況になったという事かっ!やつは巧妙に村を牛耳る為に生活基盤を掌握したという事だな」


「さすがアレス様おっしゃる通りです。多分、彼らが反抗すれば生活物資を盾に脅すなどを考えていたのでしょう。そして政の役人には金を掴ませ目をつぶらせていた、といったところかと」


「では、不満を募らせたその辺境の村の者の犯行だという事か?」


「いいえ、犯人は鉱山で働いている者でもなければその家族たちでもありません。温厚で愛情深い彼らは村や家族に不利益の及ばない様に反抗はしなかったのでしょう。ですが、この事件の動機はそんな彼らだからこそ生まれたのではないでしょうか?そしてそれはギギさん貴女の存在も関係している。そうですよねマルタ家の皆さん」


 それまでアレス様を見ながら話していた師匠は、マルタ家の者たちの方を振り向くと彼らに訊ねました。


「そ、それは……」


 ガルムが何か言いかけたのですが、次の言葉は出て来ませんでした。

 リリアンとアイシャールそしてギギもガルムを黙って見つめていました。


「………」


 少しの沈黙の後、師匠はリリアンに視線を合わせるのでした。


「おそらく、ギギさんはリリアンさん貴女の娘さんではありませんか?」


「「!!」」


 師匠の言葉にマルタ家の者たちは皆、表情を硬くするのでした。


「18年前、マルタ家で働いていた貴女は一度故郷へ戻っています。それは彼女を身籠ったから、そして貴女は彼女を産み故郷で暮らしていた。そんな時ガストンさんから後妻にと話しが出た。ギギさんも一緒にと、違いますか?」


 師匠の問いに、リリアンはしばらく顔を伏せていました。そして顔を上げた時には何かを決意した目を師匠に向けたのです。


「ジャクリーヌさん、貴方のおっしゃる通りです。ギギは私の娘です。ガストンからの後妻のお話しは複雑な思いでした。ですが、アイシャさんやギギ、そしてガルムと一緒に再び暮らせると思うと、正直心の中に喜びや嬉しさが込み上げてきたのです」


「ガストンさんは、貴女に皆で暮らせばよいなどと言ったのでしょう。ですが、本当は違った」


「はい、あの男は初めからあの子をコールウェル侯爵に差し出すつもりだったのです。もちろん侯爵の噂は私も聞き及んでおりました。だから私は強く反対したのですが聞き入れてはいただけなかったのです」


 師匠の話しとリリアンの告白を聞いた一同は、ざわついていました。

 ガストンと侯爵の癒着と地方での不正行為、それらが白日の下に晒された事をアレス様は非常に険しい面持ちで受け止めていました。


 そしてリリアンの告白を聞いたアイシャールが当日の事を話すのでした。


「そうです!あの子は私の妹同然、いえリリアン母様の娘ならば私の妹です。だから私は彼女を匿ったのです。私はあの日ギギを迎えに寄越す様にガルムに頼みました。私の迎えにきたギギをそのまま馬車に乗せ街の安全なところに匿ったのです」


「昨日、貴女はギギの下へ向かいましたね。実はナブーには貴方たちを見張ってもらっていたのです。そしてギギさんからお話しを聞きました。そしてアイシャールさんは当日その事実をアレス様に話してギギをマルタ家の正式な一員として迎えようと考えたのではないのでしょうか?」


「はい、アレス国王に認めて頂ければ、その者を他家に出すなどは出来なくなると考えました。ですがあの様な事になってしまい彼女に容疑がかけられてしまいました。ですので、ほとぼりが冷めた後ギギを故郷に帰そうと思ったのです」


 その場の皆んなは、アイシャールの話しを黙って聞いていました。

 しかし、ギギの失踪の件は関係者の告白から解明はされました。しかし、それではガストン殺害犯はいったい誰なのか?と皆がざわつきだすと、グスタフがその疑問を口に出すのでした。


「では、誰がガストン殿を殺害したのです?そしてどのように?」


 アレス様をはじめ、その場の皆んなが師匠に視線を集めると、師匠はステッキを握り、ゆっくりと歩きだしました。


 閲覧ありがとうございました。


 よかったら、ブクマ、感想などお願いします。

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