王宮舞踏会殺人事件④
「なんかガルムさんて怖くなかったです?師匠」
「うん。険しい表情でしたね。それと何かを知っている様子でした。あと気になったのは婦人の身体に出ていた模様ですね……」
「師匠にも見えたんですね!首筋にありましたよね!僕も何だろうって思ったんです」
僕たちは屋敷からの帰り道で今まで調べた事をまとめながら話し合っていました。
「街で聞いた情報は本当の様でしたね。それにお二人とギギさんは故郷が同じ、ギギさんは当時まだ赤ん坊ということは、今の年齢は13、4歳ぐらいでしょうか……」
「ギギさんは大丈夫なんですかね?誰かに捕まってるんですかね?」
「どうでしょうか?」
そんな話しをしながら、僕たちは事務所へと帰るのでした。
事務所に帰った僕たちは行方不明のギギ、そしてガストン殺害の犯人を追い求め集めた情報を元に現状をまとめるのでした。(まぁ、ほとんど師匠なんですが……)
「昨日の聞き込みでのガストンさんの身辺情報だと、新規鉱山絡みで役人との繋がりが分かりました。そしてライバル商会との軋轢が以前からあったと」
「それに奥さんと侍従のガルムさん、行方不明のギギさんが同じ村の出身だったんですよね」
「はい、そして例の役人とガストンさんの間で何かしらの裏取引があった様でしたね」
それは昨日の聞き込みでの話しでした。
「はい。ガストンさんはよくウチの店に来ていただいておりました。お金払いの良い太客でしたけど困ったお客さんでしたよ。女の子にすぐ手を出すんでねぇ」
その店は獣人の娘ばかりを集めた夜の酒場でした。
「たまにお知り合いを連れて来て頂いてましたよ。その方はウチみたいな獣人の娘にはご興味はないみたいでしたし、なにより成人した娘はお好みではないとおっしゃってましたけどね」
「その時にガストンさんの接客された方はいらっしゃいますか?」
「今日は休みで明日なら出勤しますよ」
「分かりました。また明日伺ってもよろしいですか?」
「早い時間なら構いませんよ。お客さんが来る時間は遠慮して下さいね」
「もちろんです。ではまた明日お願いします」
昨日の聞き込みでは、ガストンと役人が繋がりがある事が判明し、僕はそれを根に持ったライバル商会が犯行に及んだのだと考えました。
「やっぱり、ライバル商会の仕業じゃないですか?騎士団が言ってた様にアトモス商会のルイーズが怪しいですよ!」
「では、ギギさんは今どこにいるのでしょう?」
「ルイーズ単独の犯行じゃなくて、仲間がいて殺害現場を見たとか、計画を知られたから捕まってるって事じゃないですかね?」
「すると、言い争いでの衝動的な犯行ではないという事ですね。だとしたら、なぜ舞踏会のような捕まる可能性の高い場所で犯行に及んだのですかね?」
「う〜ん………。分かりませんっ!」
「そうですよね。行方不明のギギさん、そして真犯人……。この二つは必ず関係があるはず」
「じゃあ、ギギさんが見つかれば色々とわかるんですか!?」
「それは私にも分かりませんが、あくまで推測ですが、何かしらの事情は知っているのでしょう」
そして僕たちは昼食を食べに事務所一階にあるレストランに行きました。
「いらっしゃい先生、ナブー」
給仕をしているレストランのアンナが僕たちを見て招き入れてくれました。
「お邪魔します」
「こんにちはー」
「いらっしゃい、今日は何にします?」
オープンキッチンからは、この店の主人でシェフのゴメスが顔を覗かせメニューを訊ねるのでした。
「僕はいつもの特製ハンバーグセットでお願いします!!」
「はいよ!人参は大盛だろ?」
「ええぇっ!?」
「ありゃ?こないだ人参嫌いは克服したって言ってなかったかい?」
「いやぁ〜……」
僕は先日見栄を張って人参嫌いを克服したとウソをついたのですが、その事を聞かれて、つい目を逸らしてしまいました。
「相変わらず分かり易いヤツだな。嫌いでも少しは食べなきゃダメだぞ!」
「は〜い」
「私はスモークサーモンのクリームスパゲティをお願いします」
「はいよっ!」
「なんでバレたんだろ?」
「誰しもウソをつく時、態度に出るものですよ。ナブーはとても分かり易いですけど。そうマルタ家の方々の様にね。」
「え!?」
「私がギギさん事を訊ねた時、アイシャールさんは一瞬ですが目を逸らしました。多分、彼女は事件の前にギギさんに会っていたのでしょう」
「えぇ!?なんでウソをついたんです?」
「それは分かりません。ですから昼食を済ませたらナブーに仕事をお願いしようと思ってます」
「了解です!なんなりと言って下さいっ!」
「マルタ家の方々はそれぞれの事情を隠している様子でした。私は聞き込みの裏付けとさらなる調査をします。ナブーはマルタ家を見張っていて下さい。特にアイシャールさんが一人で出かける様子でしたら、行き先を突き止めて下さい」
師匠は僕に、ガストンの一人娘アイシャールを動向をしばらく見張る様にと言いました。
「はいっ、お待たせしました。特製ハンバーグセットとスモークサーモンのクリームスパゲティだよ」
「わーい!美味しそうっ!いただきまーす」
出来たてでまだ湯気の立つハンバーグにナイフを刺すと、中から肉汁が溢れるように流れ出るとソースと相まってさながらお皿の上はソースの温泉にハンバーグが浸かっているみたいでした。
僕が夢中になって食べていると、ゴメスさんが師匠に話しかけてきました。
「毎日忙しいみたいだね、先生」
「はい。最近では自由な世の中になってきましたが、その裏で色々とありますね」
「その為に先生みたいな優秀な人が必要なんじゃないのかい?」
「少しづつでも皆が自由に、そして平等に暮らせる世の中になればよいのですが……。その役に立つ事を願って私は研究をしているのですけれど、なかなか難しいですね」
「今までだって先生は充分やってるよ。なかなか研究は進まないかもしれないけど、俺は応援してるぜ」
師匠とレストランの主人ゴメスさんの会話を聞きながら、僕は師匠との出会いを思い出していました。
僕はガルム達獣人の暮らす高地よりもっと北の土地が故郷でした。
僕たちの村もこれといった産業もなく、仲間達は出稼ぎの為に大きな街に働きに行っていました。
僕も同じように、この王都アレスに1年前に来たのでした。しかし僕たち元魔族には日雇いで身体を使う力仕事しかなく、身体の大きくない僕はどこに行っても足手まといでなかなか仕事が見つからなかったのです。
そんな時、僕は泥棒の容疑をかけられてしまったのです。
もちろん僕は何もしていませんでした。そして、そんな僕をたまたま通りかかった師匠が救ってくれたのでした。
それがきっかけで僕は師匠のお仕事を手伝う様になったのです。
「そうですよ。僕も師匠に助けてもらいました!だからこれからも僕は師匠のお手伝いをさせてもらいますし、僕も師匠と一緒に世の中の困っている人を助けたいです!」
「えらいぞナブー。先生をしっかり助けてやれよ」
「はい!ゴメスさん」
「よろしく頼みますよ、ナブー」
そして僕たちは昼食を済ませると、それぞれに別れて事件の調査を続けるのでした。
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