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王宮舞踏会殺人事件②

 

「それで、事件発生時刻とその時の詳細をお聞かせいただけますか?」


 師匠が騎士団に訊ねると、騎士団の一人が説明をしてくれました。


「事件発生時刻は、今から約二時間前の午前十時頃です」


 事件の起きた時、舞踏会に訪れた客達は用意されたお菓子や飲み物を楽しみながら、大広間に居たそうです。


 そこへ今年20歳になるガストンの一人娘のアイシャール・マルタが遅れて広間に入ってきました。彼女は今日の為に仕立てられたドレスを身に纏い、僕たちが入ってきた豪華でとても大きな扉から姿を現したのです。

 彼女の美貌は街でも有名でした。ですがそれ以上に聡明で人としての芯の強さも持ち合わせているのだとか。


「おお、アイシャール様だ!相変わらずお美しい!」


「ドレスがよくお似合いだわ。素敵ねぇ」


 豪華な大扉の前に現れたアイシャールに来客が振り向き、その視線を釘付けにしたその時でした。


「うぁっ、うぐぐぐぅぅ………。」


 ガシャ、ガシャンッ、もたれかかったテーブルの上の皿やグラスが床に落ち、割れる音と共にガストンが膝から崩れ落ちると、彼はそのまま床に突っ伏したのでした。

 そう、会場の来客達が彼女に見惚れていたその時、突然ガストンは倒れたのです。


「あなたっ!どうされたのですかっ!?」


「いかがされました!?旦那さまっ!」


 そばにいたマルタ婦人と侍従の獣人の男が駆け寄り、侍従が彼を抱き起こすと婦人は悲鳴を上げるのでした。


「きゃーーーっ!!」


「だ、だ、旦那さまっ!!」


「お父様!?」


 悲鳴を上げた婦人は、胸にナイフの刺さったガストンを見て、そのまま気を失ってしまいました。

 そして婦人は未だ意識を失っており、別の部屋で休んでいるそうです。


 これが今回の事件のあらましだと騎士団は僕たちに話しました。


「そうですか、なるほど……」


「これは、見事に心臓を一付きだ。即死ですね。なんまんだぶ、なんまんだぶ……」


 騎士団の説明を聞いた僕たちは、ガストンの遺体を調べる事にしました。


 師匠はナイフの刺さったガストンの遺体に手を触れると、あちこち確認する様に動かしたり、服をめくっては丹念に調べるのでした。


「ありがとうございました。検分は終わりましたので、ご遺体は移動していただいて構いません」


 師匠が騎士団に告げると、ガストンの遺体はその場から運ばれて行き、周囲ではその様子を来客達が話しをしながら眺めていました。


「師匠、何か分かりましたか?」


「そうですねぇ……」


 師匠はひとこと言うと、ステッキの宝玉を両手で握りそっと両目を閉じるのでした。

 これは師匠の癖で考え事をする時のお決まりのポーズなのです。

 そして目を開けた師匠は僕に告げました。


「うん、まずはここに居る皆さんに聞き込みですね」


「はいっ!」


「まずは、この広間からにしましょう」


「終わったら、別室の商人ですねっ」


「はい」


 僕たちは来客達にその時の様子を聞いて回り、その後に別室に移動させられた容疑者のライバル商店の商人に話しを聞きに向かうのでした。


「殺されたガストンさんて、いい噂のない人みたいですねぇ師匠」


「その様だね。だがナブー、貴族や商人という人種は常にライバルを蹴落とそうと企んでいる者達が多いからね。今の段階で全てを鵜呑みにはしかねるかな」


「そうなんですね。分かりました師匠!とは言えガストンさんは相当恨みを買ってるみたいですよね」


「そうだね、それは間違いないだろうね」


 そして僕たちが廊下を進むと、部屋の前には二人の騎士団がいました。


「お待ちしてました、ジャクリーヌ先生。只今こちらで取調べを行なってます」


 そして僕たちが到着すると、中から取り調べの声が聞こえたのです。


「あのナイフの紋章はあんたの商店のだったよな?」


「しかもマルタ商会とは、新しい鉱山の魔鉱石の扱いで揉めてるんだろ?」


「私は関係ないっ!あのナイフだって、うちで取り扱ってるだけで普通に売ってる物だ!」


「しらばっくれるなっ!!」

「日頃の恨みと言い争いでカッとなったお前は、会場の皆んながガストンの娘に注目した隙に、護身用のナイフをガストンめがけて投げた。それが見事心臓を一突き。そうなんだろう?」


「そんなわけないだろうっ!」


「奥方と侍従を除くと、お前はガストンの近くに居たそうじゃないか?来客からは、そう聞いてるぞ」


「観念するんだな」


「違うっ!私はやっていない!!」


 中からは騎士団と商人のやり取りが聞こえてきたのです。


「さあ、どうぞお入り下さい」


 騎士団に促され師匠と僕はドアをノックし中へと入りました。


「失礼します」


「失礼しま〜す」


「お待ちしてましたジャクリーヌ殿!!」


 中には二人の騎士団と一人の男が居て、テーブルを挟んで椅子に座っていました。

 騎士団は師匠を見ると待ってましたとばかりに椅子から立ち上がり声を上げるのでした。


「今取り調べ中であります。そちらに座っているのが容疑者のルイーズです」


 別室に勾留されていたのは、アトモス商会代表のアトモス・ルイーズでした。


 騎士団の話しだと、来客からの聞き込みの中に殺されたガストンとルイーズが言い争いをしていたのを見た人が居たそうです。

 それはガストンが倒れる少し前だったそうです。



「これは、これはルイーズさん、ご商売はいか、いかがかな?」


「何を白々しいっ!貴様のとこが魔鉱石を独り占めした所為でこっちは四苦八苦してるんだ!」


「言いがかりですなぁ。お、お役所からの規定通りに入荷しているだけ、今年は魔鉱石の量が少ないので、あちこち工面しただけ、だけの事、ただの企業努力というヤツじゃないですか?」


「どうせ関係筋に金をばら撒いて、流通量を絞ったんだろうっ!見え見えなんだよ!!」


「なん、なんとでも言えば良い。そんな証拠が出るわけが無いのだからなっ」


「クソッふざけやがって!!」


「あっはっはっはっ!」




 騎士団の聞き込みでも、ルイーズがガストンを睨みつけていたとの証言があったそうです。

 そして、遺体の胸に刺さっていたナイフから、最有力の容疑者となったそうです。

 

「私もルイーズさんとお話しさせてもらってよろしいですかな?」


「是非お願いします。白状させてやって下さい。先生!」


 師匠はルイーズとしばらく話しをすると、騎士団に告げました。


「状況証拠は揃っておりますが、彼が犯人かどうかはまだ分かりませんね」


「ほらみろっ!さっきから私じゃないと言ってるじゃないか!!」


 ルイーズは師匠の言葉に安堵の表情を浮かべながら騎士団に訴えるのでした。


「むう……、そうですか。しかし容疑が晴れるまで勾留はします」


「仕方ありませんね」


「そんな……」


 ルイーズは項垂れるのでした。


「それでは、私達は次の調査に参りますので失礼します。行くよナブー」


「えっ、どこ行くんですか?」


 師匠はそう言うと、僕たちは部屋をあとにしました。

 広間での聞き込みでは、先程のガストンとルイーズの言い争いの話しと、ガストンの評判について情報がありました。


 もともと、マルタ商会は街で日用品などの雑貨を扱う商店だったそうです。商店は戦前から続いていて、今の主人のガストンの代で一気に商売を広げ街一番の商会になりました。

 マルタ商会が大きくなった理由は、魔鉱石と呼ばれる魔力の元になる鉱石を扱う様になったからで、その魔鉱石はこの世界では色々な物に利用されていました。

 その為、魔鉱石の鉱山やその流通などは国で管理されていました。

 

 ちなみに、師匠のステッキに付いている宝玉も魔鉱石ではなく、純度が高いとても貴重な物だそうです。


 そして、その魔鉱石を利用した産業は大戦後に発展していきました。そしてこの五十年あまりで特に大きく発展したのです。

 マルタ商会はその時流に乗って商売を拡大させたのです。


 しかし、マルタ商会が大きくなるにつれ悪い評判も囁かれる様になり、会場の聞き込みでも僕たちはその話しを耳にしました。


 僕たちは城を後にし、街のガストン行きつけの店などを回ってはガストン本人の事や商売について調べたのです。


「城での聞き込みを裏付ける話しがたくさん聞けましたねぇ」


「そうですね。やっぱり噂のほとんどは本当みたいですね」


 そして翌日、ガストンの屋敷に向かい婦人と侍従達、そして一人娘から事情を聞く事にしました。

 閲覧ありがとうございます。


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