王宮舞踏会殺人事件①
本編のはじまり、はじまり……
時は王暦644年、人類族と魔族との大戦から約200年後の世の中。
グレータス大陸の北部にある未開の大地に暮らす魔族と南部に暮らす人類族は、魔王擁する魔族の軍団と各国から集まった七大英雄擁する騎士団による激しい戦いの末、人類族の勝利をもって終結をしたのであった。
その後、グレータス大陸は平定され人類族、魔族ともに暮らす新たなる世界へと変わっていった。
そしてこれはグレータス大陸にある国でのお話である。
皆さん初めまして、僕の名前はナブー。ゴブリン族のいたって普通の14歳の男です。僕たちは元魔族と言って、二百年前の戦争で負けた魔王軍の子孫なんですけど、今は人類族と一緒に同じ国で一応仲良く暮らしています。
そして、そんな僕は《グレータス王国》の王都アルスで師匠の助手をしながら暮らしています。
そしてその師匠とは、頭脳明晰、運動神経抜群、容姿端麗と非の打ち所がない人間族の男性、その名もジャクリーヌさん!!
師匠の本業は歴史研究家なのですが、その類稀なる頭脳を頼って騎士団や貴族等から難事件の解決を依頼される事もしばしばで、研究の傍ら探偵業も営んでいるのです。
そして師匠はなんと二百年前の戦争で大活躍した七大英雄の一人、大賢者レイモンド様の子孫なんです。
その大賢者レイモンド様は幻のハイエルフと人間とのハーフで、古の大魔法で邪悪な魔力を封じ込める事に成功しました。そして、そのおかげで魔王を倒す事が出来たのだそうです。
僕はそんな凄い人と王都アルスで一緒にお仕事をしているのです。
これから話す出来事は名探偵のジャクリーヌさんと僕の解決した事件の全容です。ジャクリーヌさんと僕の活躍をとくとご覧ください。
その日王都アルスでは年に数回開かれる王宮での舞踏会が開かれていました。
そこでは、国王と貴族そして大きな商家の主人や奥方らが招待され、舞踏会の傍ら今後の経済やら国内政治について非公式に話される場になっているのです。
そんな最中の事でした。
「ドンッドンッドンッ!!」
「おーい!!ジャクリーヌ先生はいらっしゃるかっ!!」
それは午前十一時を過ぎた頃、僕たちが王都にあるこの街で評判のレストラン二階にある研究室兼探偵事務所で遅めの朝食後にのんびりしていた時でした。
「誰ですかねぇ?大声を上げて」
綺麗な金髪にグリーンの瞳の僕の師匠ジャクリーヌさんが自慢の紅茶を飲みながら、怪訝な顔で事務所の入り口ドアの方を見ながら言いました。
「は〜い。今行きますよ」
僕は師匠に僕が出ると合図を送り、奥にある研究室から声の聞こえた応接室にある入り口ドアを開けました。するとそこには騎士団が二人慌てた様子で息を切らせて立っていました。
「おいっゴブリンに用はない!先生はいらっしゃるのか!?」
騎士団は僕に向かって言うと、奥からジャクリーヌ師匠が騎士団に向かって声をかけるのでした。
「失礼な物言いはやめて頂けますか。彼は私の助手です、奴隷等ではありませんからね」
師匠は涼しげな顔で騎士団に向かって言ってくれました。
「むう、これは大変失礼した。決してその様な意図は無かったのですが、ただ可及の要件で参ったので……」
騎士団の一人がバツの悪そうな顔で師匠に謝ると、もう一人が話しに割って入ってくるのでした。
「大変申し訳ないが、とにかく我々と一緒に王宮に来て頂きたいっ!今すぐに!!もちろんゴブリン殿もお願い致す!」
話しに割って入った騎士団は僕がドアを開けた時と同様に慌て、そして半ば強引に僕たちに同行を求めてきました。
その口ぶりと様子から大変な事が起きたのだと僕は感じたのです。
「師匠!事件みたいですよっ!」
「ええ、その様ですね」
そしてジャクリーヌ師匠と僕は《グレータス王国》国王アルス八世のいる王宮へと足を運ぶ事になったのです。
師匠は外出するときのお決まりの腰丈までの短いコートを羽織り、瞳の色によく似た翠の宝玉の設えられたお気に入りのステッキを持つと、いつもの帽子と探偵道具を用意した僕と共にレストラン二階にある事務所から降りて行きました。
外では騎士団が馬車に乗って待ち構えており、僕たちはいざ王宮へと馬車を走らせるのでした。
そして馬車の中で僕たちは騎士団から今回の出来事のあらましを聞きました。
「先程は誠に失礼致した。ナブー殿大変申し訳ない」
騎士団の一人は国王直属近衛兵副兵長のグスタフで、もう一人は部下のカールと言いました。グスタフが僕に頭を下げるとカールも一緒に頭を下げるのでした。
「それで可及の用件とはなんでしたか?」
「はいその件ですが、本日は王宮にて舞踏会が開かれておりました。ですが、そこで殺人が起きてしまったのです」
なんと、王宮舞踏会で殺人事件が起きたのでした。グスタフの説明では招待客の一人が心臓を刺され殺害されたというものでした。
殺されたのはこの街では名前を知らない者のいないマルタ商会の主人で、ガストン・マルタでした。
もちろん王宮でのパーティーということで警備もしっかりしていたのですが、その最中に事件は起きたのです。
そして、現在容疑者としてパーティーに招待されていたライバル商会の商人と行方をくらましたガストンの侍女が挙げられているそうでした。
僕たちが王宮に着き、真っ白で大きな壁に囲まれた城の門をくぐり抜けると、広々とした庭園には色とりどりの豪華な荷車が並んでいました。
それは国内の有力な貴族や豪商達の馬車で、王宮に集まり舞踏会が開かれていたのです。
僕たちを乗せた馬車は庭園の先にある王宮二階に繋がる正面大階段前に止まると先程の騎士団が馬車の扉を開くのでした。
「さあジャクリーヌ先生、こちらへっ!ナブー殿もお急ぎくだされ!」
僕たちは大階段を上り豪華な装飾の施されたとても大きな扉を開いて舞踏会の行われていた広間に入って行きました。
事件現場には数人の騎士団がガストンの遺体を囲む様に並んでおり、招待客は大きな広間のあちこちに散らばってざわざわと話しをしていました。そして入ってきた僕たち方を振り返って見るのでした。
「おお!ジャクリーヌさんだ。これで事件は解決するな」
「疑われるのは気分が悪い、さっさと犯人を探してもらいたいもんだっ」
「ホント早く帰らせて頂きたいわねっ」
招待客は口々に、本音を漏らしていました。そのほとんどがこの現状の不平不満で、殺害された商人とその関係者を気遣う様子はありませんでした。
「現場の確保と、招待客は待たせてあります。ただ被害者の連れていた獣人の娘が行方不明で現在捜索中ではあります」
「それと、ただ今容疑者の商人は別の部屋に勾留しております」
騎士団は現状を師匠に告げると、僕たちを遺体のそばへと連れて行くのでした。
遺体には白いシーツがかけられ、周りからは見えない様になっていたのですが、僕たちが殺害現場に招かれると、騎士団の一人がシーツを外しました。
「なるほど、ナイフで心臓を一突きですね。先程のお話しの通りですね」
そこには、まだナイフが突き刺さったままのガストンの遺体が仰向けに横たわっていたのです。そして豪華に仕立てられ煌びやかな刺繍の施された白地の上着には赤黒い血が滲んでいたのでした。
「おおジャックか。忙しいところをすまんなぁ」
「これはアルス様、ご挨拶が遅れまして申し訳ありません」
国王アルス八世が姿を現したのでした。騎士団は跪き、僕たちも国王に向かって頭を下げました。
「よいよい、騎士団がおったのにこの様じゃ。まったく情けない。お前達もジャクリーヌに協力してやるのじゃぞ」
「「はっ!!」」
「ジャックよ、お主を呼べと言ったのは儂じゃ、恥をかかすでないぞ」
「ご期待に添えますよう尽力致します」
「頼もしい言葉じゃ、しっかり頼む」
国王アルスはそう告げると、離れて行きました。そして僕たちは事件の調査を始めたのです。
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