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辺境鉱山の怪⑦


 僕たちはヅゥタの長老からこの村にまつわる話しを聞いていました。

 それはこの地域と鬼の関係についてでした。


「では、鬼は元々この地方で皆さんと一緒に暮らしていたという事なんですね」


「そうじゃ、儂の曾祖父さんたちの頃にはこの一帯で仲良く生活しておったんじゃ」


「それで大戦が始まって、彼らは村に要らぬ疑いがかからない様にとこの土地から出て行ったと」


「その様じゃ。温泉も鬼たちが掘ってくれてな。人類族も魔族も仲良くやっておったそうじゃ」


「そして、その時の鬼の長は鬼女だったのですね」


「うむ、彼女はこの土地の守り主として、今も山の祠で祀られておるよ」


「女の鬼だったんですね」


「うむ、曾祖父さんの話しじゃとそれはそれは美しくてグラマーなお姉ちゃんだったそうじゃぞ」


 長老は嬉しそうな顔で僕たちに話しました。


「本当なのかい?ゲンブさん」


「わしゃ見とらんから分からんが、うちは代々女好きじゃ、曾祖父さんが言っておったんじゃから間違いなかろうて。曾祖父さんは長生きでな、こんな話しもしてくれたぞ」


 それはとても不思議な話しでした。


 それは長老の曾祖父さんがまだ若い頃の話しだそうで、山に狩りに行った時の事でした。


「コイツはまずいな……」


 曾祖父さんは、山でグレートボアを狩っていました。しかし彼は岩熊と呼ばれる魔獣に出くわしてしまったのだそうです。

 その岩熊は立ち上がると2mを優に超える大きさで、その全身を岩の様な硬い表皮に覆われており、普通の矢などではとても歯が立たない相手でした。

 そして案の定曾祖父さんは岩熊の餌食となりあと一嬲りされたら絶命してしまう状況になってしまったそうです。

 しかし、その時鬼女が現れたそうです。


「あれあれ、どうしたんだい?こんなところでこんなに血を流して、今にもおっ死んじまいそうじゃないかい」


 涼しげな声と共に彼女は、曾祖父さんの下に現れました。

 身体のあちこちから血を流し、項垂れ動く事のできない曾祖父さんは、美しい鬼女を眺める事しかできず森の中で横たわっていると、曾祖父さんの血で興奮した岩熊はその鬼女に凶暴で太く硬い腕を振り下ろしたのでした。


「グワァオッ!!」


 唸り声とともに振り下ろされた腕は、ピタリととまり、岩熊は動きを止めました。


「グェェェ……」


 岩熊をよく見ると、その胸の中心を鬼女の腕に貫かれていたのでした。

 そして、岩熊の口からは赤色の血が滴り落ち、手足は力無くだらりと落ち、鬼女の細い腕を突き刺されたまま、そこにぶら下がる様に絶命するのでした。


「これだから獣は嫌いなんだよ」


 貫いた岩熊をひょいと投げ飛ばした鬼女はそのまま振り向くと、血の滴る腕を振り血糊を飛ばしながら曾祖父さんに訊ねたそうです。


「あんた大丈夫かい?って大丈夫じゃないわよねぇ」


 そして曾祖父さんは、鬼女に抱きかかえられるとそのふくよかな胸の感触を感じながら気を失ったのだそうです。

 そして彼が目を覚ますと、そこは今社が建てられている場所だったそうです。しかも瀕死の状態だった曾祖父さんの怪我はうその様に治っていたそうでした。


「そんな事があって、曾祖父さんたちは社を建て貢物を納める様になったんじゃ」


「今となっては鬼たちの姿を一人も見んようになってしまったが、いつ彼らが戻ってきてもいいように彼らが掘ってくれた温泉を大事にしとるんじゃ、昔のように皆んなで入れる様にな」


 そんな話しを聞き、僕たちは長老の家を後にしました。


「いい時間になりましたし、昼ごはんにしましょう。せっかくなのでこの地方の郷土料理を頂きましょうね」


 そして僕たちはダグストンに連れられ村の食堂に向かいました。


「それにしても意外でしたね〜」


「元々は魔族の治めていた土地ですからね。しかも同じ土地で暮らしていたとは聞いていましたが、思っていた以上に親密な関係だったようですね」


「いやぁ、私も初めて聞く話しでしたよ。祀られているのが鬼だとはねぇ」


「大戦の所為でしょう。鬼たちが自分たちの為に身を引いてくれた事もあって余り表立って真実を語らない様にしていたのだと思います。ですが、今の世の中になって少しづつ真実を語れる様になってきたというところなんでしょうね」


「そういえば師匠が言ってましたよね。魔王の部下の四天王の一人が祀られているって」


「はい。以前歴史調査の際に資料で知っておりましたよ。鬼とは知りませんでしたし、しかも女性だったと。畏怖の念からの信仰の対象かと勘違いしてましたが、どうやらそうではない様ですね」


「師匠でも知らない事があるんですね」


「それはそうですよ。その為の研究なのですから」


「そうでしたー」


 長老の話しの感想を話していると、僕たちの前に注文した料理が運ばれて来ました。


「お待たせしました〜。ヅゥタ名物の肉うどんです」


「わーっ!美味しそう!!」


「このうどんも鬼たちから伝えられたのかもしれませんね」


「そうかもしれませんね」


 僕たちはそんな事を感じながら昼ごはんを食べるのでした。


 そして食事を終えた僕たちは、マルタ商会の管理する鉱山へ向かいました。


「そういえば、今警備してるのは鬼をみたギークさんでしたよね?」


「ジャンさんはその様におっしゃってましたね」


「そうそう、ギークはこの村の者ですよ。元々ウチの鉱夫をしてもらってたのですけどこの有様なのでカードン社に仕事の斡旋をお願いしたんです」


「そうでしたか、では食糧がなくなった頃の事もご存知なのですか?」


「はい、設備が壊された時もその場におりましたよ」


「それはちょうど良かった。色々と伺いましょう」


 そして僕たちは鉱山に到着しました。壊された設備は回収され、剥き出しの洞窟とその前には、いまだに採掘用の道具や設備が置かれていました。

 近くにはテントが数張りあり、再開の為の用意がされていました。


「おーい、ギーク!ギークはいるかー!!」


 ダグストンが姿の見えないギークを呼ぶと、洞窟の中から彼は姿を現すのでした。


「こんちはっ!どうしたんです?ダグの旦那」


「アレスから来てもらった探偵の先生を連れて来たんだよ。お前からも話しを聞きたくてな」


「そうでしたか、分かりました。ここの案内がてらお話ししますね」


 僕たちはギークに鉱山を案内してもらいながら、彼の話しを聞く事にしました。


「せっかくわたしらが組んだ足場も壊されちまって参っちまったんだ」


 鉱山の内部は片付けられてはいたものの未だに壊された足場が残っており、とても採掘作業の出来る状態ではありませんでした。

 そしてギークは鉱山の片付けを兼ねて、警備をしているのだそうです。


「初めは食い物がちょこちょことなくなっていって、しまいには足場や魔鉱灯やらが壊されちまって参っちまいましたよ。しかもあんな怪物が出ちまって」


「怪物とは鬼の事ですよね?」


 僕たちはギークに怪物の詳細を訊ねました。しかし彼の口からは意外な言葉が出たのです。


「んにゃ、ありゃ鬼じゃねえと思いますよ」


「え?」


「いや、わたしゃあれ見たときにグレートボアのデカいのが出たと思ったんですよ」


「ジャンさんは鬼、オーガだと言ってましたよ」


「鬼?いやあ、それはないと思うけどなあ」


「いや、しかしジャンはツノがあってデカい奴が歩いて森の中に入って行ったと言っていたぞ」


 ギークの話しにダグストンが口をはさみました。


「確かにその通りですよダグの旦那。でもね、アレはわたしらの知ってる鬼とは別物だ」


「どうゆう事ですか?」


「いやわたしらこの村の者なら、アレを見ても鬼とは思わないはずだ。わたしらの知ってる鬼はちゃんと服着てるはずだし、髪の毛も綺麗な黒髪で、あんな獣みたいな格好はしてねぇはずだ」


 ギークいわく、代々村に伝えられてきた鬼はきちんとした身なりで体躯が良く、皆一様に黒髪の一族なのだそうでした。


「ここで暮らしていた鬼ではないという事ですか」

 

「そうだよ。だもんでわたしゃグレートボアかなんかだと思ったんだ。だって頭から背中まで灰色の毛に覆われてっからさ。とは言えグレートボアは二足で歩かねえからさ、オークなんじゃないかってな。だけんどオークなんて見た事ねぇから知らねぇんだけどな」


「オークですか……」


「師匠、オークって魔族のオークですよね?」


「はい、ですがオークにツノはありませんし、彼らの生活領域はもっと東、ゴーザの北東部から東のはずですね」


「そうなんですか」


「彼らも集団で生活しているので、もしかするとはぐれオークかもしれませんね」


 そんな鬼の話しを聞きながら、僕たちは鉱山の採掘場を離れ道具などを保管しているテントの方に向かいました。

 そしてその時です。テントのある森の方から何かの唸り声が聞こえきました。


「グワァァァウッ!!」


 そして「ガシャッ」と何かが崩れる音が聞こえてくるのでした。



 いつも閲覧すまないねぇ


 あんたたち、よかったら、ブクマ、感想なんかを頼むよ

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