辺境鉱山の怪⑥
そして翌日の朝、僕たちが朝食を終え部屋で今日からの調査の予定を考えていた時でした。
「さて、今日から調査ですが、何から調べていきましょうね?」
「やっぱり現地調査からですかねぇ」
「そうですね。まずは事件の起きた鉱山からですね」
「はいっ!」
師匠は昨日ダグストンが用意してくれた資料にあったこの付近の地図を眺めながら、今日の方針を決めるのでした。
すると、「コンコン」と部屋の入り口からノックする音が聞こえてきました。
「ダグストンです。先生いらっしゃいますか?」
「はーい」
僕が返事をすると、入り口からダグストンが姿を見せました。
「おはようございます先生、ナブー君。早速なんですが今日は何か予定はありますか?」
「はい、今日から調査をはじめるつもりです。まずは鉱山に行くつもりでしたが、何かご用ですか?」
「昨日話しに出た怪物の事ですが、警備していた者たちに連絡をしておいたのでその件もあわせて話しを聞きに行ってはどうかと思いまして」
「そうですか、ありがとうございます。是非伺いたいので伺います」
「あの、ダグストンさん、怪物って今までも出た事があるんですか?」
「いや私が知る限り、そんな事はなかったんだよ。まあ時折グレートボアなどの野生動物が出たけど、マサたち狩人が駆除してくれてたからね。ちなみにその警備をしてくれてたのは国外から来た商会の関係者なんだよ」
「そーなんですね」
「ザイオンは辺境ですが、コールウェル卿の頃から平和なものでしたし、ヅゥタにいる騎士団も数が少ないので、その商会が警備を連れて来てくれてちょうど助かったんですよ」
「そうだったのですね。ちなみにその商会はどちらからいらっしゃったのです?」
「隣りのゴーザです。ヴィ王家に近いエセル商会から推薦されたグース商会と言います」
「確かにゴーザとグレータスは良好な関係ですしね」
「ですが、私どもの様に近い場所におりますと隣りの話しはちらほらと聞こえてまいりまして、現国王レイバック・ヴィ様に関しては黒い噂も……」
「その様ですね。先代とは異なる政策をされていると伺ってますが、今回の事業に関しても何かしらあるのでしょうか……」
「まあ何にせよ、我々庶民には伺い知るところではないのですけれどね」
「ふ〜ん」
「話しがそれましたね。それでどうされます?今から向かいますか?」
「はい。行かせて頂きます」
「村の入り口付近にあったキャンプ地に彼らはおりますので参りましょう。ついでにお昼ごはんも村で食べますか」
「そうですね。村の方々にも色々と伺いたいですしね。出かける前に女将さんたちにその旨を伝えておいて下さい、ナブー」
「はい師匠」
僕たちは身支度を整え、鉱山に行く前に怪物を目撃した警備の人たちに会いに行く事になり宿を出ました。
そして僕たちは、村の入り口付近にある広場に広がる露店と宿営キャンプにある警備の人たちのテントにやって来ました。
「おはよう。昨日話したジャクリーヌ先生をお連れしたがジャンはいるかい?」
ダグストンはテントに入っていくと警備の責任者を呼びました。
「おはようございますダグストンさん。ジャン主任を呼んできます」
「おはようございます。ダグストンさん」
テントからは体格の良い屈強な男が現れました。
「やあ、おはようジャン。こちらは昨日話したジャクリーヌ先生と助手のナブー君だよ。例の怪物の事を聞きたいのだがよいかな?」
「ええ。大丈夫ですよ」
僕たちは、テントのそばにあるテーブルと椅子に促され話しを聞く事にしました。
「初めてまして、私はアルスより参りましたジャクリーヌと言います。こちらは助手のナブーです」
「よろしくお願いします」
「初めまして私はジャンと申します。ゴーザのカードン社からグース商会護衛の為、こちらに派遣されて参りました」
「それでは、その怪物の事をお伺いします。聞いた話しですと森に入っていく姿を見たそうですが、貴方がご覧になったのですか?それと具体的にどんな姿だったのですか?」
「姿を見たのは私とギークです。警備の者も数名いましたが他の場所にいたので見てはいないです。あの日、キャンプ地の見回りをしていたギークが物音に気付いて私を呼びに来ました。そして現場に行ってみたら酷い有様になってました。で、その先にある森で大きな怪物の姿を目撃しました」
「どんな姿でしたか?」
「身の丈は2mを超えていたと思います。頭から二本のツノが見え、肩から背中を灰色の毛で覆われていて腰に布を巻き二足で歩いていました」
「ツノですか……」
「はい。私は鬼が現れたのではないかと考えております」
「オニってなんですか?師匠」
僕は話しをメモしながら、初めて聞いたオニについて師匠に訊ねました。
「鬼とはオーガの別名です。かつてザイオン地方を統治していた魔族はオーガ族の長だと言われています。しかしオーガ族はかの大戦時に姿を消し、人類族に倒されたと言い伝えられてます」
それを聞いたダグストンが師匠とジャンに訊ねるのでした。
「じゃあ、鬼が復活したんじゃないかって事ですか?」
「ふむ……」
「もしオーガだとすれば一般の方々では対応は難しいはずです。ですので、我々としてはゴーザから部隊を派遣して退治できればと考えております。私どもの会社であれば部隊を用意できますので」
「そうだな。ゴーザはグレータスよりもそういった軍備は整ってますから、お願いした方が良いのかもしれませんね」
ゴーザは今も周辺国との間で領土などを巡り継戦中で、グレータスよりも軍などの兵力は整っているのでした。
そしてダグストンは納得した顔で話すのでした。
「とは言え、現状では不明な事が多い様ですし私たちの調査結果と騎士団の判断を待ってから要請になるでしょうね」
「確かに、我らは国外の部隊ですので何かと手続きもありますからね」
「まあ友好国の部隊ですから、頼りにしてますよ」
「隣国の危機となればすぐに駆けつけます。ところでジャクリーヌさんたちはこれからどうされるのですか?」
「我々は現地調査を行う予定ですので、この後ジャンさんたちが鬼を見たという鉱山に向かうつもりです」
「そうですか、何かありましたらおっしゃって下さい。すぐに駆けつけます」
「それは心強いですな」
ダグストンは笑顔を浮かべ、頼りにしてるとばかりにジャンを見ると、ジャンもそれに応えるように笑顔で返すのでした。
「いやいや、ありがたい事ですな」
「ええ確かに」
師匠とジャン、そしてダグストンがそんな会話をしていると部下の一人がジャンを呼びに来るのでした。
「すいませんジャン主任、ちょっといいですか?」
「ああ」
ジャンの下に来た部下がジャンの耳元で話すとジャンはほんの少しだけ険しい表情を浮かべると、すぐに先程と同じ穏やかな顔を僕たちに向けると口を開くのでした。
「皆さんすみません用事が出来ましたので」
そしてジャンは僕たちに頭を下げると、席を離れました。
そんなジャンに師匠は訊ねました。
「すみません、ちなみにギークさんは今いらっしゃいますか?」
「ギークはちょうど例の鉱山の警備についてますよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「それでは、失礼します」
ジャンが向かった先には何人かの男たちが居ました。そしてジャンは男たちと共に僕たちから見えない場所へと移動して行くのでした。
「すいません。主任は現地採用の者たちと打ち合わせですので、今日はこのくらいで……」
「そうですか、それではこれで我々は失礼します。お忙しい中ありがとうございました。ジャンさんにもよろしくお伝え下さい」
そして僕たちはテントのある広場を離れ、村の中へと向かいました。
「さて、少し早いですがお昼にしますか?」
「いいですねー、僕もうお腹空きましたー」
ダグストンは僕たちにお昼ごはんを促しました。ですが師匠は何か考え込みながら返事をするのでした。
「その前に、鬼について詳しく調べたいのですが詳しい方をご存じではないですか?」
「そうですね……、村の長老であれば昔話も詳しいとは思いますが、行ってみますか?」
「はい、是非とも」
師匠の提案に僕たちは、ヅゥタの長老の家に向かうことにしました。
「こんにちは、マルタ商会のダグストンです。ゲンブさん居るかい?」
「はいはい、こんにちはダグストンさん。爺さんなら居るけど、どうしたんだい?」
「いや、こちらの先生が昔話を聞きたくてね。ゲンブさんなら詳しいだろ?」
「そうかい、呼んでくるから待ってておくれ」
突然の訪問にも関わらず、長老は僕たちに色々と話しを聞かせてくれるのでした。
そして、その話しは鬼とこの村の意外な関係だったのでした。
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