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辺境鉱山の怪①


 それはガストン殺害事件が解決して数ヶ月経ったある日の事でした。


「おはようございまーす」


 朝食を終え師匠と僕は歴史の資料を片付けていた時でした。事務所の玄関ドアがノックされ聞き覚えのある声が聞こえてきました。


「はーい」


 奥にある研究室に師匠と一緒にいた僕はいつもの様に師匠に合図して、玄関ドアを開くとそこには新聞屋の青年が立っていたのです。


「やあナブー、先生はいるかい?」


「おはようピート、師匠ならいるよ」


 挨拶もそこそこにピートは部屋へと入ってくると、部屋の本棚を見て回るのでした。

 すると、そこへ師匠は姿を表すのでした。


「おはようピート君、私に何か用ですか?」


「あっ!おはようございます先生。最近噂になってる鉱山の話しってご存知ですか?」


 ピートは師匠の顔を見るなり質問をするのでした。


「鉱山って、魔鉱石の鉱山の事?」


 僕はピートの問いに答えました。そして僕の背後から師匠も答えました。


「ああ、旧コールウェル伯爵領の鉱山ですね」


「はい。マルタ商会の件が収まって鉱山の採掘が再開したんです。でもなんだか色々と噂があるみたいで採掘が出来てないらしいんですよ。で、その鉱山のある山には古い社と祠があるんですけどね、どうやらそこが、その色々に関係してる〜なんて噂がでてるんです」


「ほう」


「で、歴史学者のジャクリーヌ先生にその事を聞きに来たってわけなんです」


 師匠は、本棚の沢山ある資料の中からザイオン地方の地図と関係書類を持ってくると、応接室のテーブルに地図を拡げました。

 そして地図を見ながら、新しい鉱山の場所を指差すと話しを始めました。


「ザイオン地方ヅゥタの村の近くの鉱山ですね。この地方に伝わる話しだとこの辺りの祠にはかつての大戦で倒された魔族が祀られているそうです。その魔物は魔王の四天王と呼ばれた者の一人で大戦前にこの地方を含む北東の領土を治めていた魔族だったみたいですよ」


 師匠の話しを聞いたピートは、今度は自分が調べて聞いた事を師匠に話すのでした。


「ヅゥタの住人曰く、その魔物が怒ってて色々やってんじゃないかって、もっぱらの噂になってるんですよ。どう思います?先生」


「今の話しだけでは分かりませんねえ。ピート君色々と聞かせてもらえますか?」


 そして新聞屋のピートは、色々と教えてくれました。

 社の近くには、新規の鉱山が開拓され最近その付近の森は伐採が進んでいるそうで、その付近の静かだった森にも、開拓者や新規の鉱夫などのキャンプ地が設営され騒がしくなったのだそうです。

 そしてその頃から怪事件が起こる様になったのだとピートは話しました。


「幸い怪我人は出てないんですけど、設備が壊れたり、道具が無くなったりしてるみたいです。それに怪物を見たなんて人もいるらしいですよ」


「怪物!?」


 怪物という言葉に僕はつい声を上げてさまいました。

 そんな僕にピートは人指し指を向けると話しを続けるのでした。


「そうっ!そんな話しも出ているから最近雇われた鉱夫は怖がってるみたいでさ、採掘が進んでないんだよ」


「へぇ〜そうなんだ」


 その時、入り口ドアからノックの音が聞こえてきました。


「コンコン」

「ごめん下さい。ジャクリーヌさんはいらっしゃいますか?」


 聞き覚えのある女の人の声がすると、その声の主は師匠を訪ねてきたと告げるのでした。


「はーい」


「いらっしゃいっ、あれ〜ご無沙汰してますアイシャさん」


 開いたドアの向こうには美しい女性がお供と一緒に立っていました。その女性は王宮で殺害されたマルタ商会前会長ガストンの一人娘のアイシャールでした。


「おはようナブーお久しぶりね。先生も父の件ではお世話になりました。改めてありがとうございました」


「いえいえ、とんでもない。あれから如何でしたか?お仕事を引き継がれて忙しくしてらっしゃると伺っておりましたが」


「はい。まだまだではありますが商会の者たちと頑張っております」


「そうですか、アイシャさんでしたら立派に務まると思いますよ」


「ありがとうございます。あら、ごめんなさい。先客がいらっしゃいましたのね」


 アイシャは師匠と挨拶を交わすと、ピートに気付きました。


「いえいえお構いなく。僕は野暮用で話しに来ただけですから」


 ピートは師匠の持ってきた地図と資料を見ながら返事を返すのでした。


「そうですか、それでは失礼して。今日は先生にお願いがありまして……、実は新規の鉱山で問題が起きておりまして……」


「とりあえず立ち話もあれなんで、ソファに座って下さいよ」


「ありがとうナブー」


 僕はアイシャを部屋に招いてソファに案内しました。

 アイシャは先に座っていたピートの隣りに腰を下ろすと先程の地図をしげしげと見つめるのでした。


「アイシャさん、その鉱山ってもしかしてヅゥタの鉱山ですか?」


「えっ!なんで知ってるの?ナブー」


「ちょうど今新聞屋のピートから、その話しを聞いてたんですよ」


 なんと、アイシャはピートから話しがあった鉱山の件で師匠を訪ねて来たのでした。


「そうなんですね。ではお話しはもう伺っていらっしゃるのかしら?」


「はい。鉱山で色々と問題が起きているみたいですね」


「ええ……、その所為で採掘が出来ずにいまして困っているのです。ですので本来ならば私が現地へ行って調べなければいけないのですが、なにぶん商会の仕事の引き継ぎなどで手が空きません。それで現地調査をジャクリーヌさんに依頼したく今日はお邪魔した次第ですの」


「へえ、そりゃちょうどいいやっ」


 資料を見ていたピートはアイシャと師匠を交互に見て嬉しそうに言いました。


「なるほど分かりました。その依頼引き受けさせて頂きます」


「本当ですかっ、助かりますジャクリーヌさん」


「では早速準備に取り掛かりましょう。いいねナブー?」


「了解しましたっ!僕街を離れるの初めてなんで楽しみです!!」


「そういえばそうですね。私もしばらく現地調査が出来なかったのでちょうどよかったですよ」


「では、旅の手配はマルタ商会でさせて頂きますので出発の日取りが決まりましたらご連絡下さいませ」


 そして、僕たちは鉱山調査を引き受ける事になりました。

 それから出発の日取りをマルタ商会に連絡し当日の朝が訪れました。


 師匠はいつもの様に短いコートにステッキ、僕はいつもの帽子に探偵道具、それと二人分のお泊まりセットを持って一階レストランの前でアイシャを待っていると、街道の向こうからマルタ商会の馬車が姿を現すのでした。

 すると同じタイミングでピートも僕たちの前に現れたのです。


「やあ、おはようナブー。先生もおはようございます」


「おはよ〜ピート」

「おはようございますピート君」


 そしてマルタ商会の馬車からはアイシャが降りてきました。


「おはようございますジャクリーヌさん。まずは長旅になりますので路銀と、麓の街までの列車の券です」


「え!?列車に乗れるんですかっ!」


「そういえば、ナブーは列車は初めてだったね。さすがにヅゥタまでは距離があるから途中まで列車で、そこからは馬車に乗って移動ですね」


「やったー!」


 列車の旅に僕が興奮して喜んでいるとピートが声をかけてきました。


「よかったなナブー、先生しっかり頼みますよっ」


「なんでピートが言うの?」


「今回の鉱山の件を新聞にしたんだ。向こうでの事もしっかり記事にさせてもらうよ。だから先生には是非とも今回の事件も解決してもらわないとね。ちなみにアイシャールさんにもきちんと許可をもらったんだぜ」


「はい。辺境の村や山の事も街の方々に知ってもらうのはとても良い事ですからね」


 アイシャはピートの話しに笑顔で答えました。そしてピートは手に持っていた出来立ての新聞を僕たちに見せてくれました。


『辺境鉱山の怪!?』

『今回も名探偵が謎を解く?現在現地調査中、怪物が出るか魔物がでるか!?』


「しっかり頼むぜナブー」


「はいはい。師匠が居るんだから今回もバッチリ任せといてよ。怪事件の真相を解明するぞー!!」


「いつも通りですねナブーは。必ず事件を解明してきますね。それでは行きましょう」


「は〜い」


「ではお二人とも馬車にお乗り下さいね」


 アイシャが僕たちに促すと、ピートが口を開きました。


「気をつけて下行って来て下さい。先生、ナブー」


「ありがとうピート君」

「いってきま〜す」


 そして僕たちはアイシャに供にマルタ商会の馬車に乗り込むと、馬車は僕たちを乗せて動き出しました。


「いってらっしゃーい」


 ピートはそんな僕たちに手を振り、見えなくなるまで見送ってくれました。

 そして僕たちは初めての列車の旅へと出発したのでした。


 閲覧ありがとうございます。


 よかったら、ブクマ、感想などおねがいしますね。

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