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幕間(1)

 目を覚ましたのは、けたたましいアラーム音に起こされたからだった。

 覚醒しきらないまま手を伸ばし、私はスマホを持ち上げてアラームを止める。

「もう朝か……」

 遮光性能の高くないカーテンからは、昇り始めた日の光が差し込んでくる。

 代り映えのない、いつもの朝だ。


 ――いつもの?


 違和感にようやく気づき、私は飛び起きた。

 スマホの待ち受け画面が示す日時は、12月24日午前6時。


「戻ってる……」

 見慣れた自分の部屋。

 少しくたびれたいつものパジャマ。

 全身をぺたぺたと触る。体は確実に生身の自分だ。

 私は元の世界に戻っている。それだけではない――時間も戻っているのだ。

 私がこの部屋で空き巣に刺されたのはクリスマス・イヴの午後7時過ぎだった。

 だが、今時計が示すのは午前6時。

 半日以上の時が巻き戻っている。

「どういうこと……?」

 ナナキは私を元の世界に戻すと言っていた。それを実行してくれたのだろうが、時間もずれてしまうのだろうか。あちらの世界では数か月は経過していたはずなのに。

 だが、今は理由を考えても仕方がない。訊ける相手はこの世界にはいないのだ。

 それに――せっかく時間が巻き戻っているのだから、自分がやるべきことは一つしかない。

 私は決意を胸に、計画を練り始めた。



 午前9時少し前、私は始業直前に上司に休暇を申請した。

 理由は体調不良とした。

 イヴに唐突に休むなど、今までの私の行動パターンではありえないので、上司はズル休みとは思わなかったらしく、メールで体調を心配してくれた。少々罪悪感はあるが、これも仕方のないことだ。

 この日、私の家に空き巣が入り込むことはわかっている。ならばその時間帯に遭遇しなければ死を回避できるだろう。あわよくば空き巣侵入中に警察へ通報できれば捕まえることだってできるはずだ。

 そのため、私は丸一日休みを取り、自分の部屋を外から監視できる場所で夜まで過ごすことにした。

 その場所とは、マンションの真裏に建つ図書館である。

 図書館の4階には郷土資料室という、地元の文化資料を集めた部屋がある。ほとんど誰も入らないので、一日入り浸っていても問題はないだろう。

 図書館の閉館時刻は午後8時なので、空き巣に刺された時間帯まで充分粘れる。

 お金をかけずに読書を堪能するため、駅よりも図書館からの距離を重視して借りたマンションだったが、まさかこんなところで役に立つとは思わなかった。まさに人生塞翁が馬である。


 こうして私は、お昼時間だけ近所のコンビニのイートインで食事する以外、ほぼ丸一日を図書館の郷土資料室で過ごすことになった。

 クリスマス・イヴに独身のアラサー女性が過ごすにはあまりに切ないスケジュールだが、自分の命には代えられない。

 夕方になると、暖房があっても体が冷えてくる。何しろ窓の外を見たまま動けないのだ。寒さ対策に持ってきたカイロを貼り、フリースのブランケットを羽織る。

 手袋をした手でオペラグラスを持ち、自分の部屋を監視する。

 まるで探偵か刑事ドラマの張り込みのようだ。


 時刻は午後7時に差し掛かろうとしていた。

 すでに周囲はすっかり暗くなっている。部屋は自分で監視しやすくするため、あえてカーテンを少し開け、常夜灯をつけたままにしている。だが、いまだに誰も入ってくる気配はない。

 あの夜、部屋のガラス窓が割られていたので、玄関ではなくバルコニー側から侵入されていたはずだから、たとえ明かりがなくてもこちらからは丸見えのはずだ。

 いったい、いつになったら空き巣は入ってくるのだろう。


 午後7時。

 閉館一時間前を知らせるチャイムが鳴った。この図書館ではこれが30分前にも鳴り、15分前から閉館の音楽が流れる仕様になっている。眠っていたり、勉強に集中していて気づかない利用客が多いらしく、他の図書館よりも頻繁に退館を促しているようだ。

 その音のせいで、かすかな気配に気づかなかったのかもしれない。


 察知した時には、すでに遅かった。

 取り落としたオペラグラスが、足元に転がって割れる。

 それを見下ろした時、私の胸からは赤く染まった刃先が飛び出していた。

 背中から、一突き。

 深々と刺された長刃のナイフが、私の背から胸まで貫いたのである。


(――どうして……?)


 空き巣は私の部屋に現れて、偶然出くわした私を刺したのではなかったのか。

 なぜ、図書館で潜伏する私の背後から刺殺しようとするのだろう。

 振り返り、せめて相手の顔を確かめようと力を振り絞る。

 だが、頭を後ろから掴まれ、首を固定されてしまった。

 そして次の瞬間、その首に突き付けられた新たな刃が、喉の柔らかな肉に深く突き刺さるのを感じ、私の意識は闇の中へ消えた。

レイオール編が何となくいい感じに終了し、ようやくずっとスタンバっていたタイムリープネタをここで挟むことができました。

ネタバレになるのでタグにも入れられませんでしたし。

初めて詳細なプロットを立てずにライブ感で書いた連載で、いろいろと過不足のあるレイオール編でしたが、次章はもう少し詰めてから書こうと思います。

ひとまずここまでお読みいただきありがとうございます。

もし感想など(ツッコミどころも多いと思いますが)ありましたら是非よろしくお願いします。

次回からは新章のスタートです。

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