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少女なる物との愛おしい一時

作者: 蝶々

※再UP

叶わない恋



「観葉植物を買い取りませんか?」


 秋の長雨を思わせる様な陰気な降り方をする雨日の中、屋敷に訪れた陰気な男はそう商談を持ち掛けて来る。

 観葉植物など屋敷の庭先に千万とあるのに、と内心呆れながらも耳を傾けた。


「少女…」


 実物を見た瞬間の私は嘸かし無様な顔をしていただろう、だが商人の言い草からしてそれは必然的だったのかも知れない。

 

 "薔薇に似た花飾りをした少女だった"


 少女が商人の荷車から降り立ったのだ。

 一目惚れ、なる感情をしていたのかも知れない、私は彼女を買い取ったのだ。


「旦那様…あの子は不気味です…」


 招き入れてから時間が経つと屋敷で働く召使達一同はそう抗議をして来る。

 

「言わなければ何もしませんし…それより体が変なんです」


 そう言われ見に行けば、頭飾りの花は少女から…言うなれば左足や左腕にも植物に似た様な物が少女自ら生えて来ている始末だ。

 最初は何かしらの妖かと疑った物の無垢な一人の少女を雨が降り頻る辺鄙な町の夜中に放り出すことも出来ない。


「私の部屋に連れておいで…何かあれば私自ら彼女を断ち切ろう」


 これでも国に仕えた一人の騎士なのだから。

 召使は困惑を浮かべながらも言う通りにした。

 

「…」


 笑顔を浮かべながら自室の椅子に腰掛ける彼女は無言である。

 売り飛ばされた先は不安そのものであろう。


「可愛いお嬢ちゃん…怖がらなくても良いのだよ?」


 不安を解く為に恐る恐る言葉を問い掛けてみると少女は顔をパッと明るくし何も変わらずと笑顔を保っていた。

 先程飯を食わせた時も大した反応を示さなかったのに。


「とりあえず今日はもう床に入って12時間睡眠でもしなさい。

 明日にでも引き取り先を探してやろう」


 刹那

 彼女の体は倒された、私を下敷きにこの部屋の床へ。

 まるで死んだかの如く彼女は息も立てずに昏睡をし始めた。


「…意外と可愛い顔立ちだな」


 先程述べた社交礼儀の飾りの言葉とは異なり今度は心からの褒め言葉が無意識に吐き出される。

 召使に見られる前に彼女をゆっくりとベットへと寝かせ自室を抜ける。


 …言葉を吐いたあの時彼女の顔に微笑みを浮かべた様な気がした。


「私今日以来ここを辞めさせて頂きます。

 お世話になりました」


 それは先日の事であった、医者を招き少女を見て貰った、声帯が存在しないなどと人間として中身が欠けていたのだ。

 召使達は嘸かし怖がったのだろう、これを機に屋敷から人気が一気に消え失せた。



 時は経つ、私は歳を取り36歳である。 

 いつしか彼女を眺めながら無人の屋敷で過ごすのが私の日常となっていた。

 彼女を観葉植物と例えた商人の言い草は正しかったのかも知れない、彼女は声だけではなく仕草その物が物静かだった。

 無人、とは大袈裟なのかも知れない。辞めていった召使の代わりに昔馴染の友人を頼り無口な女を二人召使として屋敷に招いた。だが…


「お食事です」

「掃除が終わりました」

「入浴の準備出来ます」

「失礼致します」


 彼女達が私と交わす言葉は単純で無な内容のものばかり、それのせいか私はより彼女に縋り付いていたのかも知れない。

 彼女も歳を取り、商人から買い取って3年もの歳月が経つのにも関わらず笑顔を絶やすことなく10代の姿であった。


 私は彼女に愛と言う名の心酔をしたのだろう。


「旦那様、客人のお見えです」


 無口な召使が初めて感情の篭った言葉を投げかけた…、背後に王国騎士団と総督を引き連れて。


「少しお待ち下さい、総督様」


 ドアを閉めるとひんやりとする重厚感と共に手汗が滲むのを感じる。

 …私は。

 ……私は少女と共に逃げた。


 何故逃げたのかは今では私にも分からなかった、植物を生やす彼女と言う存在は人としての在り方に反しているのだと、そう思ったのだろう。

  窓からツタを伝い彼女を抱きしめながら二階から降り立つ、近場の森へ身を潜めながら先を進んだ。

 追われているのとも関わらず、彼女と共にいるのが一番の心の拠り所であり何だが今までに無い高揚感が自分を襲う。


 だが夢とは一時の物…………

 ………

 ……

 …


「元王国騎士団の一員があろう事に逃げるとは随分と落ちぶれたものだな」


 総督の声が耳に届く、それは捕まったことを意味するのだ。


「…私は別に君は害するつもりは無い」


 溜息と共につかれた言葉に体が熱くなる。

 "別に君は"と。


「彼女に指一本触れたら殺すぞ」

「もはや廃人だな」


 即答で帰って来るのは私の脅迫に対する怒りでは無く、憐む様な啖呵の声だった。


「君の境遇は同情する、けれどそれがこの王国の理に反する理由にはならない。」


 昔に王国近衛騎士団の精鋭として名を轟かせた一人の男は女によって堕落した。

 今でも騎士団の笑い話または改過自新の為の伝え話となっているが、その男が私であったのだ。

 …だから私は今更彼女と言う存在に縋り付いたのかも知れない。


「美しい」


 唐突に告げられた言葉、何かと思えば総督は少女にそう言葉を掛けると…少女は私に普段見せる笑顔を総督に向けた。

 その笑顔が失望と虚無となって心を突き刺す。


「…花とは愛で愛される物だ、故に彼女も愛でる事が存在意義かも知れないな」


 総督の憐む様な啖呵の声は私だけで無く彼女へも吐き掛けられる。

 花を生やす少女の存在意義がそんな物の筈が無い、だがその激情を口から紡ぎ出すことは無い。


「…商人はもう既にほぼほぼ捕らえている、そして何よりも今さっきの瞬間がその証明に値する」


 何も行動出来なく言葉すら出ない私はただ総督の話を耳に通すだけだった。


「魔女か魔法だか異国の文化かは知らないが、彼女は人では無い。

 それが商人、贈品、密輸を通し今国中に存在している、私達はその掃討する為に来たのだ」 


 花が生え揃える植物を身に有する少女など人では無いと彼女を人外扱いをする、花が生えたからなんだ、植物を有するからなんだ、根本的な在り方は人では無いか。

 例え花が生え様と、人外扱いされようと、彼女を、私は…、俺は、愛すのだ。


 先程の激情がついに口から紡ぎ出される、

「彼女は人だッ、花が生えようと中身が無かろうと!俺は彼女を人として愛するのだァッ!!」


 縄を千切り、騎士を振り解く。


「少女から花が生える…か。

 いや違う」


 ……。


「花に少女の姿をした葉が生えたのだ」


 その言葉に身体が固まる。

 刹那…少女を、少女の姿をした植物は断ち切れた

 作者の蝶々と申します、この作品をタップして貰い最後まで読んでくれて嬉しいかぎりです!

 少女なる物、少女なる花、それでも愛を貫けるのならそれは悲恋では無く、もはや一種の美恋の話では無いでしょうか!

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