バッグに飾られた意味
テレビを見ながら綾は思っていた。
「あの人、かなり有名な選手なのかな。テレビに取り上げられるくらいだし。
だけど、そんな人が何で私を助けたんだろう?
言ってたとおり見殺しに出来なかったから?それとも正義感か何か?」
そう疑問符ばかりが並んだ事は確かだった。
「でも、あの人は復活しようと多分してるんだ…」
それでも、綾に何が起きたのかもまだ駿は知らない。
何かトラウマになっている夢を見たのを眺めていただけだ。
「有名なプロ野球選手って、どんなんなんだろう。
若いから、遊んでるイメージしかわかないけど、遊ばれるのかな?
ま、いいか…」
何ともいえない気持ちになって、綾はベッドの端っこに座っていた。
その日の綾は昼間、ホテルのコンビニで食べれそうなものと下着を買っただけで
後は部屋に閉じこもっていた。
昨日までの悪い勇気は消え、どうして駿が助けてくれたのかを考えていた。
「あの人は、どんな人なんだろうな」
そこに、おそらく駿を知りたい気持ちがあることにも綾は気づいていなかった。
夕方。駿は朝より多くの荷物を抱えて部屋に戻ってきた。
「これ。大吾の友達が貸してくれたから気に入ったなら使って。
サイズが合えばいいんだけど」
そう言うと、綾に女性ものの洋服が入った紙袋を渡した。
とは言っても、自分が女友達から事実だけを隠して借りたものだが。
「ありがとうございます。可愛い…」
「着てみなよ」
「…!出ていくか、バスルームにいてください…」
綾は突然恥ずかしそうな表情をした。
「分かったよ。バスルームにいるから着替え終わったらノックして」
綾は紙袋の中から自分に合いそうなサイズのものを探すと、それに着替えた。
「着替えましたけど…」
そう言われた駿は綾を見て少しびっくりした。
やや大人もののシンプルなワンピースを着た彼女は、長身も相まってスマートさがあり
最初に逢った時よりも、かなり違って見える。
(こう見ると普通に可愛いし…)
「…どうしたんですか?」
「あ?いや…。普通に可愛いんだなと思ったから」
「野球選手だからそう、簡単に口説くもんなんですか?」
「違うって。正直に言っただけ」
気づけばお互いに照れているのははっきりしていた。
「最上階のレストランに案内するからこれから食事に行こうよ。
せっかくなんだし」
黙ってる彼女に、駿は言った。
「食べれなくてもいいよ。俺が全部食べるから。綾ちゃん?」
これ以上気遣いが出来ないので、駿は真面目に言った。
綾に伝わったのか分からないが、彼女は同意した。
「あ、カバンも借りたんだ。その学生バッグじゃどこにもってわけにいかないでしょ」
そういって、彼女から学生バッグを受け取ろうとしたとき、駿は気が付いた。
彼女の学生バッグにはバスケットボールのキーホルダーがついていた。
それと、十字架のペンダントを取っ手に括り付けていた。
ペンダントの方はかなり良い品に見える。
駿は少し何かを考えたが、何も言わずそのバッグを受け取ると、もうひとつ用意してあった
そのワンピースに合いそうなショルダーバッグを渡した。
彼女は駿が見たものには気づかず、バッグをゴソゴソとしているだけだ。
(あの飾りには何か意味があるのかな)
そう思っているうちに彼女の外出の準備は出来上がっていた。
「じゃ行く?本当に食べるのは無理しなくていいからさ」
「はい。ありがとうございます」
出会った頃よりずっと謙虚になった綾はそう答えて、二人は部屋を出た。