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汚された聖地 ~Life Goes On~  作者: 神波 由那
第1章
4/14

過去の夢

綾は、約半年前の記憶を蘇らせていた。

インターハイに出れなくなった事件。

そして最愛の人が突如なくなったあの日の事。


綾と──恋人の聡也は、彼の車に乗りドライブをしていた。

二人にとって厳しい練習の合間を縫った一日。

そして綾にとっては特別になった日。


二人が初めて身も心も愛し合えた日の事だ。


それは帰り道に起きた。

車のブレーキが突然壊れたのだ。


カーブを曲がり切れず、二人の目の前が真っ暗になる。


「怖い、やめて!」


───はっと綾が目が覚めた瞬間、彼女はまた悪夢を見た事に落胆した。

だが、周りの風景がいつもと違う。

そばには、つい数時間前に初めて出会った人物がベッドに腰かけていた。


「シャワーから出てきたら寝てたみたいだけど、随分魘されてたから

 気になったんだよ」


「そ、そうですか…」


「いい夢じゃなさそうだったね」


「大丈夫です、たまになので」


そういって、綾は頭から布団を被って丸くなってしまった。


「あ、明日なんだけど…ちょっと球団の用事があるから、昼間はいないよ。

 大分疲れてるみたいだし、ちゃんと食事とってるの?」


「最近は…」


「それなら、せっかくここに来たんだから明日は、美味しいものでも頼んでやるよ」


「あ、ありがとう」


「俺も寝るから」


そう言って、もう一つのベッドに駿は入り込んだ。


「綾ちゃんって、呼んでいいかな」


駿は背を向けたまま。訊いた。


「…俺のことはなんて呼んでもいいよ?」


駿は先ほどの綾の魘されようを見て、彼女を少しでもリラックスさせようと考えていた。


「そう呼んでいいですよ。

 あなたの事は…茅原さんでいいです」


「できれば、下の名前で呼んでほしいかな…」


綾は少し考えた。この人は何で私の面倒をやさしくみてくれるのだろうか。


「な、なら駿さんで」


「オッケー。綾ちゃん。

 ……悪い夢見ても、今綾ちゃんがいるところは、俺のいるところだから」


駿は精一杯そう言った。

というか、そうしか言えなかった。


まだこの子の事をあまり知らない。

けれど知りたい。


そんな気持ちがあった。


「おやすみ」


そう言ったかどうか、お互いまた眠りについていた。


翌朝。


綾が目を覚ますと、駿はもう着替えていて、外出の支度を初めていた。

駿はスーツを着ていたので、綾は少し彼を見間違えるかのように眺めている。


「おはよう。二度目はよく眠れたみたいだな。顔色が昨日より全然いいんじゃないの」


「ありがとうございます…」


「じゃ、昨日言ったとおりにしといて。後で飯食いにいきなよ。

 殆ど食べてなさそうだから。行ってくるわ。

 あと、これ」


一枚の紙きれには、駿のLINEIDが記されていた。


「登録しといてよ。俺なんも隠すことないから」


そうは言っても、昨晩女友達とのやりとりで、適当な理由をつけて

服を借りることは黙っていた。


「…わかりました」


「じゃ、行ってくるから」


そう言い残して、駿が消えたあとに綾は部屋に一人になった。

あまり食欲はない。


綾はとりあえずテレビをつけた。

チャンネルを変えてもワイドショーみたいなものばかりだったが、

とあるチャンネルでスポーツコーナーが始まった。


プロ野球、再起をかける選手。

茅原俊。


その名前が確かにテレビから流れてくる。


走り込み、ウエイトトレーニング、そして投げ込み。

昨年、肩の怪我から復活なるのか。


綾はなんともいえない複雑な気持ちになり、

そして自分の過去を再度見つめていた。


あの時のわたしは…?


それが何なのかは、まだ駿は知らない事だった。

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