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汚された聖地 ~Life Goes On~  作者: 神波 由那
第1章
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はじめての会話

彼女がバスルームから出てくる前に、駿は対策を心で巡らせていた。


「彼女のことを訊くには、俺の事をまず話すべきだよな。

 何者か知らない人間に、色々聞かれるのは嫌だろうし…」


という結論に、駿は達したらしい。

ホテルの窓際のソファーに座り、駿の目線は夜景を彷徨っている。


そのうち、バスルームの扉がかたんと空いた。


彼女は、渡された男物のTシャツと短パンを着ていたが、

駿は、彼女が女子高生にしてはかなり背が高いのに初めて気がついた。


170弱位はあるだろうか?


駿もさすが野球選手なので、180は優にクリアしていたが、彼女をさほど

見下ろすほどでもない。


「少しはすっきりした?」


彼女は俯きがちに、こっくり頷いた。


そして彼女は初めてまともとも言える言葉を発した。


「あ。あの…。助けてくれてありがとう」


駿は彼女の口からそんな言葉が出るとも思わず戸惑いながらながら答えた。


「そんなの、いいから」


続けて駿は言った。


「また自殺行為に走られると困るから」


彼女は初めてまっすぐ駿の方をみていた。


「あの。どうしてこんないいホテルに泊めて貰えるの…?」


どうやら本当に駿がかなり有名な野球選手なのは全く知らないようだ。


話すきっかけが出来てるのだから、今言った方がいい。


「俺、一応これでもプロ野球選手なんだよね」


グラブや野球道具が入った球団のロゴ入りである大きなバッグを指して、駿は言った。


「野球選手…」


「だから俺だって警察に突き出したくなかったんだよ。ここは球団のお抱えホテルだし、

 マスコミにバレたりもしない。いたいならゆっくりすればいい。

 できればもっとあんたの事、聞きたいけど。

 名前はなんて言うの?

 俺は、茅原俊って言うんだけど」


そういいながら、バッグから自身のグラブを取り出して名前が縫い付けてある部分を見せた。


「わたしは…綾。柏木綾。17歳。

 あなた…茅原さんはいくつなの?」


駿の差し出したグラブを見つめながら、綾は初めて自己紹介らしい自己紹介をした。


「…俺は、来年で高卒4年目だよ」


ゆっくりしたテンポで、二人の会話は続く。駿は続ける。


「どこからきたの…?」


「神戸から」


そんな遠いところから、この東京に来てまで自殺したいと思うのは、

かなりの理由があったのだろう、と駿は思った。

だが、自殺の理由まで聞くのは早い。


「そういう訳だから、俺は実家に帰ってる間、ランニングに出たら

 君がいたんだよ。実家も球団も地元だけど、トレーニングがあるから

 しばらく面倒は見るけど、いつも一緒にはいられない」


「……」


「ただひとつ約束しろ。逃げ出すなよ」


「わかった。ここで殺されても別にいいのだもの」


「そんなこと出来るかよ」


急にぶっきらぼうに駿は言う。


「とりあえず俺持ちで朝食とかはラウンジで食べて。

 夕食までにはなるべく帰るようにするから、昼は1階のコンビニで好きなの食べて。

 お金はここに置いておくから」


駿は何枚か財布から札を出して、テーブルの上に置いた。


「とにかく今日は寝ろよ。疲れてるだろ。俺はこれからシャワー浴びるけど、

 本当に何もしないから」


綾の表情は最初頑なにしか見えなかったが、今はやや柔らかい顔つきに変わっている。


「じゃ、おやすみ」


そう言って、駿はバスルームに消えたと同時に、綾もベッドに潜り込んだ。

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