表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
汚された聖地 ~Life Goes On~  作者: 神波 由那
第1章
1/14

突然の出会い




「太郎、元気してたか?」


駿は実家の親愛なるペットである亀を、ゲージの外から眺めては大層機嫌がよい。


その様は、とても今年怪我が元でプロに入ってから最悪の成績を残した投手とは

思えないほど明るいくらいだ。


「兄貴さ、いい加減俺は兄貴の亀まで面倒見るんは嫌だよ。

 来年には寮も退寮するんでしょ?だったら亀ごと持っていってくれない?」

駿の弟である大吾が呆れて文句をいう。


同じことは母からも苦情が来てるのは分かっていた。


そんな事には、頑固である駿には耳を貸さず、彼はすぐに

「ちょっと、ランニング行ってくるわ。コンビニに寄るから、

 なんか買ってきてほしいものないの?」


駿にしては家族にたいするちょっとしたご機嫌取りだ。


「今は別にいいよ、行ってらっしゃい」


この季節、今日は一番の冷え込みだった。

駿が実家に帰った時のランニングルートはだいたい決まっている。

高校時代、よくランニングした風景が今でも残っている。


ふと踏切地点に彼が辿りついたときに、道端で黒く小さな人物がうずくまっている人間がいる。


「ホームレスかな」


なんせ、暗くてはっきり見えない。


踏切の閉まる音が聞こえる。

その瞬間だ。

その黒くて小さな人間がとっさに動き出したのは。


よく見ると、マフラーに制服を着ている。


「女の子か?えっ?!」

彼が叫び声をあげたのは、その「女の子」が踏切をくぐろうをしたからだ。


もうすぐ電車がくる気配がする。

「危ない!」


駿はとっさに彼女の後を追って踏切の中に入り、彼女の手を引いた。


「いや、離して」


しかし電車はもう見えるとこまで来ている。このまま見殺しには出来ない。


「いいから!」


駿はありったけの力を振り絞って彼女を抱きしめ、なんとか踏切の外へ押しやったが。

とたんに二人とも地面に倒れこんだ。


その直後に列車は何事もなかったように通過した。


「何やってんだよ!」

「うるさい!」

彼女も思い切って、駿を突き飛ばした。

ふいをつかれた駿は、バランスを崩して傍に並んで駐輪されていた自転車の山に突っ込んでしまった。


「全く…」


彼女はまた動くことなく、そのままじっとして次の展開を待っているかのようだった。


駿は少し考えた。


「死にたいんだろ?何で死にたいの?」


彼女は当然ながらうつむく。その瞳には少し涙がにじんでいるかのように見える。


また駿は考えて、言った。


「良ければ、俺について来るか・・・?」


彼女はびっくりしたような目つきで駿を眺めた。


どうやら、彼女は駿が野球選手という認識がないということだけは理解した。

 

「どうせ死のうと思ってるくらいなら、俺にさらわれてもいいんじゃない?」


駿はどうこうするつもりは全くないのだが、自分では正論を言ったかのように思っていた。


彼女は少し黙りこんでから、頷いた。


駿は座り込んだままの彼女の手を引き、とりあえずこの先どうするかを考えざるを得なかった。


連れていくのは構わないのだが、さてどうやってこれから彼女を保護していけば良いのだろうか…?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ