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東の城が落ちた  作者: 中山ヨウスケ
 第二部  双子の城
29/64

29  密会は夜がおすすめ

 ライン城近くの森林でロザリオ・フーバーほか二名の遺体が見つかった日の夜、城主の部屋にはダグラスとヘンクが集められていた。城主ロイドは一人椅子に座って机で何やら書き物を、ほか二人は彼の机の前に座ってロイドの言葉をじっと待っていた。夜も深まり、部屋の明かりはロウソクだけだ。お互いの表情を読み取るにも、それなりの苦労を要する。


「ロイドさん、御用はなんでしょうか」


 最初に口を開いたのはヘンクだった。城主はその声を聞いて書き物をやめ、一度椅子に座り直すと、少しの間を置いてからこう言った。


「悪いね、仕事が立て込んでいて。ちょうど今終わったところだ」


「いえいえ、むしろお手を止めてしまい申し訳ありません」


「心配いらないよ。それよりも、こんな時間に二人を呼んだ理由、知りたいだろう?」


「ああその通りだともロイド。説明してもらおうじゃないか」


「焦るなダグラス。ちゃんと説明するさ。まあ、平たく言えば犯人の目星がついたんだ。そしてどうやら、この事件が単純な殺しではない、ということも分かった」


「それは興味深い。聞かせてもらおうじゃないか」


「いいとも。まずは、今朝遺体で見つかったロザリオ・フーバーという男について。彼はご存命の頃執事だったそうだ。そこで思い立った私は、王都に連絡をして、ロザリオ・フーバーについて少々尋ねてみた。するとこう返答があった。


『ロザリオ・フーバーは、先日ライン城に派遣された執事ですが、まだそちらに向かわれていないのですか?』


 私は『いいや、来ていない』と答えた。実はね、君たちには話していなかったが、私はこの前新しい執事を雇おうと思って、王都に執事の派遣を要請していたんだ。そしてその数日後、今この城で執事を務めているヘリスがやって来た。私はてっきり彼が王都から来た執事だと思っていたが、どうやら違ったようだ。まあ、私が『執事なら誰でもいい』と言ったのが良くなかったみたいだね」


「ということは、本来王都からライン城に来る予定だったのは、ヘリスさんではなくロザリオという方だったわけですね?」


「その通りだヘンクくん。そしてそのロザリオは遺体で見つかった。もう分かるね?」


「あの執事がロザリオを殺し、自分が王都から派遣された執事だと偽ってこの城にやって来た……」


「ダグラス、大正解だ。こうなると、失踪した騎士が森で拾われた際に言った、『騎士がたくさん』というセリフ、これにも説明がつくだろう? 恐らく、ヘリスは五十人の騎士を連れてロザリオを森の中で殺したんだ。もちろんロザリオ付きの騎士数名もまとめてね。ただし、一人だけ殺し損ねた。それが君たち先遣隊の拾った彼だ」


「なるほど。となればヘリスさんには、ロザリオ氏を殺してライン城執事の座を奪ってまでこの城に来る、何か大切な理由があったのですね?」


「そうだろうな。ただし、私にもその理由までは分からない。一つ言えるのは、彼がこの城にとって間違いなく敵であるということだ。恐らく騎士二人が失踪した――いや、もう殺されているだろうが、とにかく彼らが消えた理由は、ロザリオを殺したことの口封じだったと考えるのが自然だ」


「じゃあ、ヘリスをとっ捕まえて拷問でもするのか?」


「馬鹿を言うなダグラス。彼が拷問なんぞで目的を吐くような人間に思えるか? そもそも彼は治癒術師だ。拷問は効かん。今現在私たちが知っていることは、少なくとも彼には、数人を殺してまでこの城に来る理由があった、と言う事だ。だから彼をしっかり追及するためには、彼が殺しの犯人だという、明確な証拠を見つけなければならない」


「それは分かるがロイド、どうやって証拠を見つけるんだ?」


「私には作戦がある。だからヘンクくんを呼んだんだ」


「私ですか? 私に何をしろと……」


「簡単だ。ヘリス含め彼が連れてきた騎士五十人の、誘導をしてもらいたい」


「誘導?」


「ああ、この作戦で最も重要な任務だ。私の推測だが、ヘリスは帝国の人間だろう」


「まさか!」


「そのまさかだ。城に潜入するという重役を担っているのだから、彼は相当有能なのだろう。よって作戦には細心の注意を払わなければならない。そのためにはまず、内容の説明からだ……おっとその前に、二人に見て欲しいものがあるんだった」


 そう言ってロイドが机の引き出しから取り出したのは、なぜか赤色のトランプだった。


「ほら見ろ、このトランプは赤色のトランプだ」


 ロイドがそう言って二人にトランプの裏面を見せる。


「さて、一旦これは閉まっておこう。次に別のトランプを出す。これだ」


 今度二人に示されたのは、青いトランプだった。これまた裏面しか見せない。


「この青いトランプ、さっきのトランプとは別物だと思うだろう?――残念、実はさっきの赤いトランプに細工をして、裏面を青いトランプにしておいたんだ。まあ、要するに赤と青のトランプの絵の面を貼り合わせただけなんだがね。一度机にしまったふりをして、違うトランプに見せていたというわけだ」


「ただの子供騙しじゃないか」


「そうそう、その言葉を待っていたよ! しかしこれが役に立つんだ。何せこの城はただの城ではない。少し長くなるが、説明を聞いておくれ……」


 そう言ってロイドは、ここから長いこと二人に作戦の説明をした。どうやら古くから伝わるライン城の「ある仕掛け」を利用するらしい。


 しばらくして一通りの説明を終えたロイドは、ようやく満足したのか、椅子にふんぞり返って嬉々と笑った。


「名付けて『双子の城』作戦だ」


 最後、決めゼリフのように作戦名を宣言したロイドは、少年の如くにやりと笑って見せた。


「ホントにそんな上手くいくかね?」そう言ってダグラスが首を傾げる。


「まあ、少し無理がある部分もある。しかし成否はやってみなければ分からない。というより、この作戦にはちょっと自分の自己満足も入っていてだね」


「ほう? でもまあ、あんたのことだ。それなりに練ってあるんだろう?」


「そりゃそうとも」


「なるほど、そうと決まればあとはやるだけだ。私は避難民たちへの説明を引き受けよう」そう言ってダグラスが自らの胸を叩いた。


「それはありがたい。何を伝えて何を伝えないかの取捨選択は、あとで私からきっちり説明する」


「それは助かる。ところでロイド、そう言うお前は何をするんだ?」


「私? 私はヘリスに話を通しておく」


「これまた重要な仕事を引き受けるね」


「なあに、城主が重要な仕事をやらなくてどうする」


「それもそうだな」


「心配はいらない。私はあくまで当然のことをするまでさ……ほらもう夜も遅い。今日は一旦ここまでにしよう。今後ともよろしく頼むよ、ダグラス。それとヘンクくん、君はまだ残ること。誘導の手順をみっちり頭に叩き込んでもらうよ。君の役職は失敗が許されないからね」


「はい、身の引き締まる思いです」


「いい返事だ。期待できるね」


 この後ロイドとヘンクは、夜が明けるまで作戦の打ち合わせをしたと言う。さてこの城主、一体なにを企んでいるのだろうか。そしてあのヘリスという執事、一体何のためにこの城に来たというのだろうか。さあ、勝負の本番はこれからである。


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