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第四話 華救夜の子守歌

本陣で深都に報告をして、ルーナクレシエンテとルナリェナは三日月にある(女子力低下中の生活感あふれる)屋敷に戻って来ていた。屋敷の外の庭では水の流れる音、一定のリズムでししおどしの音が響く。

そして、ししおどしの隣にある池、その手前には大きな松の木が綺麗に整えられている。そんな庭に面したとても広い畳のしかれた部屋でルーナクレシエンテとルナリェナは畳の上に座りながら外を眺めていた。


「さすがに疲れたわね、ルーナ」


「そうね…今度は無影の雷皇に、新しい敵が2人でしょう」


ルナリェナの隣にいたルーナクレシエンテは畳の上に仰向けに寝転んだ。頭の上に手を伸ばし、近くに適当に置いてあった水色のタオルケットを手に取り、ルーナクレシエンテはそれを自分にかけた。


「ルーナそれは私のタオルケット」


今さら自分の物をルーナクレシエンテが使おうと気にするような事もないのだが一応、ルナリェナは自分の物だと主張した。基本的に水色系の物はルナリェナのであり、紅色系の物はルーナクレシエンテの物という区別をしている。


「いいじゃない。リェナには私のを貸すわ」


ルーナクレシエンテは水色のタオルケットを持ち主であるルナリェナに返す気はなく、頭まですっぽりとタオルケットの中にくるまった。

これもいつものパターンなのでルナリェナもあまり気にしてはいないが、こういう時のルーナクレシエンテはめんどくさがり屋の確信犯であることは知っている。


「ルーナのどこに置いたの?」


少し周りを探してもルーナクレシエンテの紅色のタオルケットは見当たらない。いったいどこにあるのだろうか、とルナリェナがキョロキョロと部屋の中を探すが…見えるのはお互いのめちゃくちゃに積み上がっただけの服達と、低い足のテーブルの上にある食べ掛けのお菓子や片付けていない茶碗とフォークやスプーンにはし、それにコップ達だけだった。


「さすがに片付けないとダメよね…」


ルナリェナは“女子力”以前の問題である自分達の部屋を冷静に見て、その結論にたどり着いた。だが、生まれた時から自分達はアース皇国の地球人達とずっと戦い続けている現実しか知らない。部屋を片付けるなんてそんな時間はきっと無い…深都と蛍の部屋が綺麗に片付いているのはきっと気のせいだと思いたい。


「ごめん、リェナ。一昨日グラタンをこぼして深都に洗濯してもらってるのを思い出したわ」


ルーナクレシエンテがタオルケットから顔を出して恥ずかしそうに言った。そういえばそんな事もあったなとルナリェナは苦笑すると、自分も入れてとルーナクレシエンテがくるまる水色のタオルケットの中にもぐり込んだ。

今から深都達の部屋に取りに行くのも面倒だ。それに今の時間も彼らは戦い続けているために部屋にはいないのだから。


「さすがにせまいわ」


「昔みたいに私達は小さくないもの」


やはりタオルケットが縦では2人で入るのは無理だ。もうすでに斜めになっているタオルケットをルナリェナが横にして2人でそれをかけた。外は太陽の光で明るい。でも、夜戦を終えてきた自分達はもう眠い。


「ねえ…これからの戦いは、私達の霊力(ちから)だけじゃ足りなくなるかしら…」


「どうかしら…でも、もしも今日出てきた皇子(仮)達が夜に出てくるなら私達の全力で倒すだけでしょ?」


不安そうな顔をして言うルーナクレシエンテにルナリェナも不安に思いながらも笑ってみせる。

どうやっても、あのアース皇国の皇子達を倒せるのは自分達しかいないのだから。“できない”なんて“倒せない”なんて言えない(いわない)


「そうね…まだ私達は全力を出してないわ」


ルーナクレシエンテは右手を天井に掲げて強く握り締める。先程まで弱気の色が映っていたライトブルーの瞳には、いつもの自信が灯る。

そんなルーナクレシエンテを見てルナリェナも自分の右手を掲げ、それを見詰めてから強く握り締めてルーナクレシエンテの右手にコツンと当てた。


「「私達なら、きっとできる」」


重なった言葉はお互いを励ますための言葉だと知るのは自分達だけだ。

すると廊下の板がきしむ音が聞こえ、そちらを2人が顔だけ動かして見れば自分達の産みの親であり月夜の神である華救夜が人の姿でそこにいた。


「お前達がそう決めたのなら、わたしは何も言わぬとしよう」


華救夜が意味ありげに、そう言いながら微笑んでいる。だが、その笑みには何処かかなしい色が入り交じっている気がした。

そんな事を思っていると華救夜はすっとルーナクレシエンテとルナリェナに近付き、彼女達の頭の方に座る。


「わたしの可愛い子、久しぶりにわたしの子守歌をきいて安心して眠るといい」


華救夜が歌う子守歌は月の光と同じように加護を、そして守護を与える効果がある。それに、華救夜は月の一族の産みの親であるのだから…母親が傍にいる安らぎも感じられる。


「私達、もう子供じゃないわ」


「でも、すごく安心できるの」


ルーナクレシエンテは小さな反抗を、そしてルナリェナは“ごめんなさい”と謝るように言葉を続けた。

華救夜はそんな2人に優しく微笑むと愛しい娘達の頭を撫でながら鼻歌まじりに子守歌を歌った。


「ルルール、ルー…あなたの願いを叶える それがわたしにできること」


華救夜が気付けば、ルーナクレシエンテもルナリェナも無防備な顔をして寝ていた。

これから、この子達はまた戦いに出なければならない。どうしてわたしの可愛い子供達は地球星に生きる子らと戦わねばならないのだろうか…はじまりは何だっただろう。わたしは争い事の願いは嫌いじゃ。


「叶えるのなら、もっと…」


ーーーそう、恋の願いがよい。


ルーナクレシエンテとルナリェナの頭を撫でる手を放して寝顔を見詰めた後、華救夜は泣きたそうな表情をして地球星のある方向を向いた。

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