第二話 皇子達の部屋はまるで絵物語の舞台(保護者の監視付き)
次の日。ルーナクレシエンテと雅己の部屋は相変わらずの朝を迎えたが、隣のルナリェナと希の部屋は…やはり違う展開になっていた。
「純黒の姫君、おれと朝食をご一緒していただけますか?」
邪すぎる感情を隠しながら、皇子を演じる希はルナリェナの前に跪いて朝食に誘っていた。
いったい、何処のプリンセスの物語だろうか?ルナリェナはこの目の前の状況にも、着替えさせられたアース皇国の着物…いや、これは“ドレス”と言うらしい青と白のひらひらの服を、この状況をどうしたらいいのかと強く握り締めていた。
ーーー下から見上げる彼女もとても可愛い…
最初はまだ“可愛い”だけだったはずなのに、返事に戸惑った今では、この目の前の男は本当に“変態皇子”と呼ばれるに相応しい感情を心の中に秘めていた。
だが、月の一族であるルナリェナは能力を隠蔽されてはいるが大半を残している状態でこんな所にいるために、この敵であるはずの疾風の氷皇の心の中が分かってしまう。
「っ…嫌です!私はルーナと一緒にいます!!」
そう悲鳴のように叫んで、彼の手も制止の声も振り払って逃げるのが精一杯だった。ルナリェナは希の部屋を飛び出して隣のルーナクレシエンテがいる部屋へと向かって勢い良く扉を開けた。
部屋の中には、違うテーブルでそれぞれ朝食を食べている2人の姿があった。
「どうしたの?リェナ」
「ルーナはどうして!そんなにくつろいでいるのよ!!?」
「え!?本当にどうしたの…?」
後ろの、逃げてきたはずの気配を察知したルナリェナは、サッと部屋の中に入るとルーナクレシエンテのいる大きなテーブルとソファーの方へ突撃するように隣に座った。
“どうして”と食事中の自分の体をパタパタ叩くルナリェナに、ルーナクレシエンテはどうしたものかと少し考えて…自分が口に入れようとしていた“おにぎり”を何故だか妙に顔の赤い片割れの口に入れた。これで少しは静かになるだろうか。
「少しは落ち着いたかしら?リェナ」
「もうもぎゅもぐ」
何か言っているようだが、口の中がいっぱいで何を言っているのか分からない。それでも、月の一族の能力を封じられていたとしても、長い時間一緒にいるルナリェナの言いたいことは理解できていた。
うん、どうしてかしら…私と深紅の炎皇とはまったく違うことをしているのね。まるで、少し大人向けの絵物語に出てくるような…そんな、関係。
「希、お前…」
「どうして雅己がそんなにも平然としていられるのかが疑問だ」
皇子は皇子同士でお互いの、“好きな子に対しての行動”に引いている。一樹お兄ちゃんこと皇帝兼父親によって作り出された同じ状況のはずなのに、兄弟でまったく違う恋物語が紡がれている。
ちなみにこの状況はすべて、メイドや皇帝直属の暗殺部隊によって一樹お兄ちゃんに報告されている。
「ずっと見られているのが嫌だわ、ルーナ」
「私もそう思うわよ…」
「「だけど、今の私達にはどうすることもできないわ」」
捕虜として捕まっている(はず)のルーナクレシエンテには霊力を封じられている。そしてルナリェナはここに連れて来られた時に霊力を隠す作用が高い忌々しい首飾りに半分ほど霊力を封じられていた。
それにこの首飾りは、用意したのは一樹お兄ちゃんだが…使用するにあたり、あの変態皇子の魔力を使用しているために魔力を込める玉の部分がこの目の前の男、疾風の氷皇の色をしている。
「…はぁ、おれに向けるそんな視線すら純黒の姫君は愛らしい…!」
だから、ずっと私達を見る変態皇子達の視線も鬱陶しいのよ。そして何だか気持ち悪いわ。綺麗な顔が見事に歪んでいるのだから。
それでも、だからこそ、自分達にはどうすることもできないのだと結論を出す双子…いつの間にか運ばれて来ていたルナリェナ分の朝食は、ルーナクレシエンテが先に食べていた。
「純黒の姫君!おれがあなたを見ている視線がいけないのですか!?」
何を勘違いしたのか、変態皇子はさらに頭をたれてルーナクレシエンテに跪いてきた。
ーーーこの男はいったい、何をしているのだろう?
その文化がない月の一族のルナリェナには理解できなかった。
それを見てさらにルーナクレシエンテは口元を押さえて頭の中で混乱する。ルーナクレシエンテはルナリェナとは違い、“姉達の部屋にある絵物語の中みたいね”とまだ口の中をもぐもぐしながら思っていた。
朝食を終えたルーナクレシエンテは、ルナリェナの気を紛らわせようと散歩に誘っていた。
深紅の炎皇と来ていた、いつもの庭である。
後ろには当然と言うように皇子達が付いてきていた。
「まだ後ろに気配がするわ…」
「そんなことを気にするだけムダじゃないかしら?」
もういい加減、ルナリェナには諦めて欲しい。なんて思ってしまうルーナクレシエンテは、目の前の花達に視線を移していた。
「そんなことより、ここの紫苑は綺麗じゃない?」
「…そうね、もういろいろ気にするだけムダよね…」
ーーーだって、一樹お兄ちゃんの手のひらの上だもの
双子の言葉が、心の中で一致していた。




