第3.5話 兄弟による、姉妹(×息子)を見守る会VS皇帝の玉座を狙う会
満円邸のルナリェナの部屋のベッドの上で、頭を抱えていたのは敵であるアース皇国の第二皇子、雅己・アースに殴り飛ばされて気絶した紀里弥だった。
目が覚めたら、姉のベッドの上なんて…ダサすぎるだろう?…って言うか、あれからどうなったんだ!?
「紀里弥、起きてるか~?」
部屋のドアがいきなり開いたかと思うと、隙間から顔を出したのは月の一族ではない兄…オレの記憶では昨日も会っていた、ということになるわけだが。
そんな紀里弥の表情を読み取ったのか、月の一族ではない兄は弟の心の声に答えていた。
「お前は2日寝てたんだ。疲れてたんだろうな」
その声を聞きつつ、紀里弥は家の中と外の気配を探っていた。アース皇国の感知結界に気取られない範囲はコントロールがとても難しい。
“やっぱり”と言うべきか、家の中にルーナクレシエンテとルナリェナの気配が全く感じられない。それどころかあの変態皇子の気配さえ無い…家の中にはこの部屋の中の2人分の気配しか感知できない。
「姉達は!?」
「春k…いや、皇都騎士団長のルーク・春樹・アースがお前以外を連れて城に帰ったからな」
「っ、お前は!姉達が連れて行かれるのをただ見てただけなのか!?」
紀里弥だけが、この状況に焦っていた。
それを月の一族の能力と直感で理解した紀里弥は、この目の前の兄…そしてこの兄の上にいるらしい、またさらに年上の兄の存在が恐い。
「まあ、その…なんだ、一樹本人がお前を呼んでるよ」
ーーー紀里弥を一樹側に引き込めれば、今よりも弟妹達の動向も把握しやすくなる
「…オレが、大人しくお前らの言うことを聞くと、本気で思ってるのか!?」
「思ってるよ。お前が“ 華月”だから…それでいて、華救夜に産み落とされた周期も一樹と一緒だからな」
ーーーそれに俺も、“ 波月”だから。
初めて聞く、名前。
そのはずなのに…オレは、オレの知らないような心の奥底で納得してしまっていた。
アース皇国、城の地下深くにあるとある部屋。
ここは現皇帝であるグレイス・一樹・アースの許可した者しか入れない、特別で秘密裏な部屋である。
そこに集まるのは現皇帝はもちろんのこと、他にも大臣や騎士長といった国の重鎮に当たる者や執事やメイドの制服を着ている者、皇帝直属の暗殺部隊所属の者…そして、普段は城にはいるはずの無いような身分の商人や民のような格好の者達が揃っていた。
「まさかこれ…全員が元、月の一族とか言わないよな?」
「この部屋に入る最低条件は、“ 一樹と兄姉弟妹関係に在る”ことなんだよ」
ーーーああ、全員兄姉だ。
紀里弥はもう、この状況を理解するのを諦めた。
こんなの、弟のオレが何を考えて動いても…兄達の手のひらの上で踊るだけだ。
「お前が紀里弥だな。まあ、そう警戒するな華月の仲だろ?」
この部屋で一番偉そうな服と態度の男が話すと、周りが一気に静かになった。
きっとこの男が、アース皇国の現皇帝のグレイス・一樹・アースであり、皆が言う“一樹お兄ちゃん”なのだろう。
「…月の一族が戦っている意味ってあるのかよ?」
「皇帝といっても全て好きなようにはできないからな。俺もまだまだ未熟だ」
嫌味のように、余裕そうに言っている顔なのに、心の中は苦労ばかりで頭が痛い…と、この男も嘆いている。
まるで、オレや深都みたいだ。やっぱりうちの…いや、元が同じ華月達の恒例行事らしい。
これじゃ、あいつの言った通りになるだろう?オレが華月だから…元が同じ一樹の考えを理解して、従うしかないだろう。
ーーーだって華月が望むのは、月の一族とアース皇国の人々が争わない世界なのだから・・・・・
同時刻。皇帝主催の秘密の会合が城で開れていることはここにいる誰もが知らずに、このアース皇国の第1皇子が城で縄張りとしている東塔の地下室で主催する皇帝に秘密裏の会合も存在していた。
議題はいつも、第1皇子である恭夜・アースを皇帝の座につけることである。そして今回は、別の議題が用意されていた。
「今回ばかりは皇帝陛下の考えを理解できませんな。恭夜様」
「父上が何を考えているか分からないのはいつものことだが、敵である忌々しい月の一族の姫を皇帝の妹などと偽り、民達を騙すやり方には俺も理解に苦しむ」
「そうですとも。この国の皇帝に相応しいのは民を思いやり、弱き民達のために戦場に立たれている恭夜様だけにございます」
現皇帝であるグレイス・一樹・アースに角に追いやられた前大臣達や元々少数派だった貴族達を味方に付けたこのアース皇国の第1皇子の派閥は、長年にわたりクーデターを企てている…が、果たして第1皇子が前大臣達の子飼か、それとも飼われているのは彼らのどちらか。
このとある地下の秘密の部屋の一番奥…一段上がったその場所で、第1皇子は皇帝及び月の一族の姫の暗殺を己が手を下すと声高々に宣言していた。




