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 第4.5話 皇帝主催の夜会

いつものように執務室で、終わる気配のしない机の上に積み上がった各部署からの報告書のいくつもの山を見て、俺は何度目かのため息をつく。

ルーナにつけた護衛兼メイドのエナリーからの報告では、婚約者を装っているだけでルーナと雅己に恋人らしい進展は何もないらしい。

ずっと部屋に籠って()()をしているかと少し期待していたが…俺の気持ちを返してほしいところだ。


「失礼します、陛下」


気配なく、俺の前に現れたのは今思い出していた人物の1人だ。まだ報告の時間には早いはずだが…もしかして何かあの2人に進展でもあったのだろうか?

俺は少し期待を込めた目で次の言葉を待った。


「陛下、申し訳ありません。つい先ほどルーナ様を狙った刺客が現れました」


「は…?」


俺は随分と間抜けな声を出した気がする…この国の皇帝としてあるまじき顔をしていたに違いない。


「刺客は雅己様が対処され、逃走いたしました」


ああ、だが、相手がこの子で良かった。皇帝の威厳を損なうのは得策ではないからな。

それよりも、だ。このタイミングでルーナを狙った刺客が来るとは…想定の範囲内ではあるが、そうか俺の可愛いルーナ()を狙う奴がいるのか。


「その刺客について徹底的に調べあげろ。必ず俺の前に連れて来い」


この皇帝()が直々に始末してやろう。俺がそんなことを考えている間に、エナリーは命令を承諾して姿を消していた。

仕事が早くて助かるが、本当にエナリーは暗殺部隊しか知らない子だと思う。そこで生まれてそこの部隊の人間に育てられたのだから仕方ないとも思うが…一樹(昔の俺)は、もう少しどうにかしてやりたいとも思う。


「あれの日取りを明日の夜会にでも変えるか…」


政治的次の手を…と俺が考えていると、執務室のドアがノックされたかと思うと俺の返事も聞かずに入ってきたのはこのアース皇国の宰相をしている鷹之・グランノース公爵。

ちなみに、第1皇子である恭夜・アースの側近である鷹臣・グランノースが公爵家の嫡男である。


「陛下!陛下!!」


「聞こえている、いったいどうした?」


丁度いいところに宰相が来たなと思いながら聞くと、“落ち着いている場合ではない”と俺が怒られてしまった。

乳兄弟であり、従兄でもある鷹之は皇帝になった俺にさえ遠慮がない。


「グレイス!城内に刺客が現れたと報告を受けた」


ああ、その事かと、俺が知っていると言えば鷹之の顔はとても面白い。

すでに仕事の早い()()()からの報告をうけている。まさか、別の刺客ではあるまいな。さすがにそれは洒落にならない事態だ。


「ルーナを狙い、雅己が対処した刺客だろう?」


「ああ、そうだ。雅己様が撃退したと、報告を、だな…」


だんだんと勢いを失っていく鷹之が面白い。

本当に、別の刺客の話ではなくて良かったと思う。それにしても、この刺客はいったい何処から侵入したと言うのか…城の守りに何か問題があっただろうか、それともこの城の強固な結界をすり抜けられるような新しい魔法でも開発されたのか、特異な固有魔法を持つ者がいるのか。とても気になるところだが、今それを考えても仕方がない。


「鷹之、雅己とルーナの舞踏会を今日にでもずらせ」


「は?待て、さすがに準備が間に合わん」


こうなってしまった以上、後手にまわるわけにはいかない。

4日後に予定していたルーナと雅己のお披露目を兼ねた舞踏会も、早ければ早い方がいい。


「城の警備も見直さなければならないし、刺客がまた現れないとも限らないんだぞ」


「それについては俺がやる」


「それは皇帝のすることではない!グレイス、皇帝に過度な負担をかけるやり方はしないと誓ったのを忘れたのか!?」


ああ、その事かと俺は少し嬉しく思う。グレイス()の母であった先代の女帝マリアンヌが早くに死去した頃、俺が皇帝になる時に、まだ宰相になる前の雅之と“皇帝に依存する国政は行わない”と誓い合った。

マリアンヌの死因が過労死であることは、目に見えていた。当時の彼女の国政は、高いカリスマ性を誇る。戦場でも最前戦に立つ強い女帝に依存していた…何でもかんでも、優秀な彼女は自分で全てをこなしていたからだ。


「では近衛騎士団長と皇都軍騎士団長を呼び出して、城の警備を改めさせれば良いか?」


「それが妥当だろう。それと執事長とメイド長に準備を急ぐように言おう。おそらく、休みの者も呼び出して夜も返上で働いたとして…できるのは明日の夜くらいが限界だ」


俺の読み通りだな。

そう思いつつ、俺が近衛騎士団長と皇都軍騎士団長を通信魔法で呼ぼうとしたら、雅之に止められた。皇帝の威厳が何とかと言いながら宰相自ら呼び出したようだ。

だが、このままでは駄目だ。


「当日分を臨時で給仕を雇うにしても人が集まるかどうか…どうせなら、戦闘ができる奴の方が都合がいいんだが?」


「無茶を言うな。そんなすぐに戦闘ができるメイドや執事が集められる訳がないだろう」


難しいことは俺も理解しているが、守備はできるだけ万全にしたいところだ。

戦闘だけなら暗殺部隊でも可能なんだがな。


「皇帝直属の暗殺部隊を執事として出すか?」


「よしてくれ、それならまだ皇都騎士団を警備にまわす方が良い」


「だが、月の一族との前線を維持する皇都騎士団を呼び戻せば瞬時に我々の敗北が決定するだろう」


それだけの、戦闘特化の部隊だ。あれを下げるなど愚策にも程がある。

まあ、俺も雅之も本気でそれを考えているわけではないが…良い人材が何処かにいないものか。


「俺の個人的な()()をあたるしかないか…」


「俺も屋敷の者に余裕がないか確認しよう」


そう話していると、執務室のドアがノックされる。どうやら近衛騎士団長と皇都軍騎士団長が来たらしい。

宰相の鷹之が彼らに入るように言う。


「近衛騎士団長バーナード・ペトル、参上いたしました。陛下」


「失礼いたします、兄上。お呼びですか?」


先に口を開いたのは近衛騎士団長であるバーナード・ペトルであり、もう1人は俺()の弟でもある皇都軍騎士団長のルーク・春樹・アース。


「陛下、失礼いたします」


「失礼いたします」


執事長とメイド長も揃ったようだ。さて、明日に控えた夜会について作戦をねろうではないか。

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