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第三話 紫苑の花が咲くお庭

またアース皇国での朝、今日も昨日と同じように起きて部家で朝ご飯を食べて、一樹お兄ちゃんことアース皇国の皇帝に用意してもらったドレスに着替えさせてもらう…のだけれど。


「雅己様とはどこまでいったのですか!?ルーナ様!」


「特に何もないわよ」


毎回毎回、飽きないのかしら?同じ質問をことあるごとに投げ掛けてくる彼女は一樹お兄ちゃんが私につけたお世話係で、アース皇国では“メイド”と言うのだったかしら…名前は確か、エナリーだったはずだわ。

たとえ一樹お兄ちゃんの策略であろうとも、私は深紅の炎皇とどうこうなる気なんて無いのよ!

早く皆のところに、惨月(つき)の家に帰りたくて仕方ないわ!リェナだって、きっと今の私と同じように…1人で不安なはずよ。


「昨日は雅己様に“お姫様抱っこ”をされていたではありませんか!!」


彼女は、本当に何をそんなに楽しそうに聞いてくるのかしら…と言うか、あれを見られていたの!?

恥ずかしい…恥ずかしすぎるわ!


「あっ…ルーナ様、動かないで下さい」


ドレスを着終わり、髪をとかしていたエナリーが言う…だって、あんな醜態を見られていたなんて…ダメに決まっているじゃない!!

そう思っていると、エナリーは私の後ろで鏡を持って結い終わった髪を正面の鏡越しに見せてくれる。本当に、見事に結い上げられて、紅いキラキラした髪飾りが美しい…ただ、この紅い髪飾りもドレスも、()()深紅の炎皇を思わせる色なのが気に入らないわ。


ーーー“(あか)”は私の色でもあるのよ


そう思っていると、この部屋の扉がノックされたわ。

失礼しますと入ってきたのは深紅の炎皇に元々ついていたメイド…メローネ、彼女は私が月の一族で捕虜だということを知っていて、いったいどう思っているのかしら。


「ルーナ様、本日は雅己様とお庭を散歩されてきてはいかがでしょうか?」


「王宮のお庭ですね!ルーナ様、きっと綺麗な花が咲いていますわ」


行きましょう!とエナリーはいつの間にか私の支度を終えているわ…え?私は行くなんて返事をしていないのだけど!?

メローネもその気らしく、この部屋の外…と言っても、ここもまだ深紅の炎皇の部屋であることに変わりはないのだけれど。昨日と同じように不機嫌な顔をしている深紅の炎皇がいたわ。


「この俺が、王宮自慢の庭を案内してやる」


いつも通りの、上から物を言うこの態度が気に入らないのよ。

私は月の一族の捕虜であり、一樹お兄ちゃんことアース皇国皇帝の策略にはまりこんでいるわ…ここは大人しく、この男の誘いを()()()受けて立つことにするわ!






◇◇◆◇◇

あの後、一樹お兄ちゃんに言われた“婚約者”を装いながら深紅の炎皇と共に部屋を出たわ。

そして、皇族の専用のお城を出る。ここからが、“婚約者ごっこ”の本番の舞台なのよ!


「行くぞ、くそ生意気女」


そう言いながら深紅の炎皇は、()()()()()()皇帝の妹()に手を差し出してきたわ。

私も、その手を迷い無く取ることにする。


「それは私の台詞だわ。深紅の炎皇」


昨日、深紅の炎皇に絵本のお姫様みたいに抱っこされて帰ってきた廊下…でも()()は決して絵本の中みたいな可愛くて憧れる内容では決して無いわ!


「ところで、その“くそ生意気な女”とはいったい誰のことなのかしら?」


昨日のお茶会の時くらいから、よく聞く言葉なのよ。そのくそ生意気って私のことなのかしら!?だとしたら解せないわよ!


「私の()()()くそ生意気なのかしら?」


しまったわね…この男の言葉を聞く前に、勢いがあまって次の言葉が出てしまったわ。

でも、そのくらい気分のいい言葉ではないのよ。


「何だ、分かってるじゃねーか…わざわざ分かりきっていることを俺に聞くな」


ーーームカつくわ!笑いすぎよ!失礼すぎるわ!!


そんな感情と共に私の手を引いて少し前を歩く深紅の炎皇を睨みながら見上げる…手を繋いで、“とても仲の良い婚約者”を演じているのに、これではきっと意味がないわ。


「いいかげん、その顔をやめろ。もう人目がある場所なんだからな」


「そんなこと、私には関係ないわ」


言い合いながら、廊下の角を曲がると…ふわりと、風に乗って花々の良い香りがしたわ。

だんだんと目の前に広がる、とても綺麗に左右対称に整えられている庭…惨月の家の庭とはとても似ていない。

だけれど木々も花々も生き生きと咲き誇っている…思わず私は見とれてしまい、足を止めてしまっていたわ。


「…きれい・・・」


ただ、そんな言葉しか私は言えなかった。だって本当に綺麗なのよ。

それ以外の言葉が見つからないくらい…って、もう!私は止まって見ているのに!真紅の炎皇は繋いだ手をそのままにして前に進むから私も付いて歩かないといけないわ。

真紅の炎皇が迷いなく進んだその先に見えてきた花壇には赤、紫、白、ピンクと花びらの多い花が特に目についたわ。この花は私達の部屋の外にも咲いている花で、名前は紫苑だったはずだわ…ずっと前に、一樹お兄ちゃんに教えてもらったことがあるもの。


「この花だ。お前だって花ぐらい見るだろうと思ってつれてきてやったんだ」


深紅の炎皇が止まったのは、ちょうど私が目を奪われていた紫苑の咲く花壇の前だった…と言うか、そんな態度と言葉ですべてが台無しだわ。


「その言葉さえなければ、絵本の中の“王子様”なのに残念な人ね」


嫌味を込めて私がそう言えば、深紅の炎皇の顔はとても嫌そうに歪んでいく…とてもいいきみだわ。

私はそう思うと、紫苑の花壇の前に屈んだ…もっと近くでこの綺麗な紫苑を見ていたい。後ろでぶつぶつ言っている深紅の炎皇なんて邪魔なだけよ。


「お前なあ!本当にくそ生意気な女だなあ!」


そう言って不貞腐れるように、深紅の炎皇は後ろの花壇の所にどかりと座り込んだ…どこまでも絵本の中の王子様とは似ていないわね。

私はそんな深紅の炎皇を無視して紫苑の花を楽しむことにしたわ。

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