第一話 深紅の炎皇狙いのお嬢様!?
ルーナと雅己の章です
“黙っていろ”。そう耳元で私に命令した深紅の炎皇に内心イラっとしながらもその言葉に従ったわ。
少し前からこちらの様子を伺い、誰かが近付いてきていたから…。
「何の用だ」
「ごきげんよう、雅己様!ディアンサ・ペトルですわ」
そこにはまるで、絵本から出てきたかのようなお姫様がいた。おそらく、このアース皇国の女性の挨拶でこの皇子に挨拶をしている。
何かしら…何だか、何かが、決定的にこの“お姫様”に負けた気がするのは…。
「早く用件を言え。ペトル嬢」
「あら、いやですわ。雅己様。私のことはディアと呼んでくださいと何度も申し上げておりますのに…」
お姫様のような可愛らしい仕草で深紅の炎皇に近づいている彼女は、この男の殺気を含む視線に気づいていないのか神経が図太いのか理解できない行動をしているわ。
…って、私の方が落ち着かないわよ!?
「希の婚約者候補の令嬢と必要以上に関わる気はない」
「意地悪ですわ~雅己様!」
深紅の炎皇に、可愛く魅せようとしているわね…それでいて、この男に不本意ながらお姫様抱っこをされている私が邪魔で邪魔でしかたないって顔を、心の奥底でしているわ。
「俺には用事がある」
“失礼する”と、深紅の炎皇はそう言いながら私を抱く手に少し力を入れたかと思うと、そのまま歩いて立ち去る。
私達の後ろになった彼女を見ると、とてもとても怖い顔をしているわ。
「…るさないわよ」
ーー雅己様と結婚するのはこの私なのよ!!
月の一族の霊力を制御されている状態にも関わらず、とても良く聞こえた彼女の感情…それだけ、想いが強いということだわ。
「彼女は追って来ないみたいね」
「ここから先は皇族専用の区域だからな」
彼女は入れないのね…と思いながら、私は“おろして”と深紅の炎皇に抵抗する。
もう先ほどのお姫様はいないのだから、深紅の炎皇の言葉に従う理由なんて無いわ。
「暴れるな、落とすぞ」
「ふん、エスコート?できない男だと思われればいいわ!」
私がそう言い放ちながら深紅の炎皇の腕の中からヒラリと下り立つ。決まったわ…そう心の中で思うのと同時に、慣れる気のしないヒールが邪魔をする。
綺麗に着地できたと思ったのに、私はバランスを崩して前に倒れ込んでいた。
「だから…俺に恥をかかせるのもいいが、お前だって恥をかくんだからな」
いい加減にしろと、深紅の炎皇の心が伝わってくる…地面に倒れ込む直前、また深紅の炎皇に腕を掴まれてつい先程までいた彼の腕の中へと収まっていた。
ーーームカつくわ。
私の心を支配するのは、その感情だけのはずなのに…妙な感じがするのは何故かしら?
自分の感情が月の一族としてここまで理解できないのは初めてだわ。
「部屋に戻るぞ。この金髪のくそ生意気女」
深紅の炎皇はそう言うと、もうずっと一緒に過ごしている彼の部屋へと足を向けていた。一樹お兄ちゃんは婚約者だから一緒に過ごすのは当然と言っていたけれど…私は嫌に決まっているわ!
部屋に戻っても、監視と言って深紅の炎皇は部屋から出ていかないし、やることもあるわけじゃないわ。
「戻っても何も変わらないじゃない」
これ以上、抵抗してもこの忌々しいヒールで転けるだけだろう…私はそう思って深紅の炎皇に運ばれながら目を合わせず、不機嫌な態度をとることしかできなかったわ。




