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第三話 無影の雷皇

夕日の沈んだ海上で、ルーナクレシエンテとルナリェナは港に戻って行くアース皇国の仮皇子達の遠くて小さな姿を、傷付いた体を背中合わせにして見送っていた。


「新しい敵の顔を見る前に退かれたわね」


「そうね、たぶん太陽の加護がある昼間に戦わせるつもりなんだと思うわ…やっぱり無影の雷皇の弟皇子ということかしら」


「その可能性が高いかも……ちょっとあれ雷魔法!?」


会話の途中、誰にも関知されずに突然に港の方から無数の稲妻が枝分かれを繰り返して駆けてきた…魔力感知をすり抜けて、的確に味方を傷付けずに敵だけを攻撃するこの魔法は敵の皇子である“無影の雷皇”のお得意の雷魔法だ。


「くっ、みんな後ろに!結界をはるわ!!」


稲妻が当たる直前に、ルナリェナは結界術を使って自分と近くにいた仲間を守る。ルーナクレシエンテは双剣で前方をガードしながら、楯術を使って巨大な立体的な三日月型の紅い半透明の楯を造り出してその中に入り自分と仲間を守る。


ーーー紅玉の三日月楯ルビームーンエスクード


「本当に厄介な存在よね、無影の雷皇は…!」


〈今のは無影の雷皇!?相変わらず気配が読めないよ〉


今の無影の雷皇の攻撃で、味方が地球広海に多く沈められたのが伝わったのだろう。本陣の通信術士である蛍から慌てる声が届いた。


「ええ、おかげで私達の側にいなかった仲間は…」


ルーナクレシエンテが蛍の声に返しながらも、生き残ったルナリェナや仲間達は地球広海に沈んでいく彼らを見おくることしかできない。


「も…よくもッ…!」


皆を守りきれない悔しさからルナリェナの感情が高ぶる。己の持つ強い霊力が膨れ上がる…髪の色が黒から金色に一瞬だけ変わったような、気がした。

そんなルナリェナの姿を見てルーナクレシエンテは傍に行って背中を叩く。ルナリェナが()()()()()()()()自分自身が感情を高ぶらせて、抑えた霊力(ちから)を解放して敵に突っ込んで行っただろう。


「行くわよ、勝つのは私達なんだから!」


「ルーナ…そうよね、勝つのは私達よね」


ルナリェナはルーナクレシエンテを見てから、前の敵を睨み付けた。そう、ルーナクレシエンテが言うように、この夜戦で昼間に押し上げられた前線を押し戻すのは強い霊力を持って生まれた私達の役目なのだから。


「行くわよリェナ、道をあけて!」


ルーナクレシエンテはそう言いながら双剣を構え直して敵に向かって行った。ルナリェナも大弓を構え直し、光輝く矢を召喚してルーナクレシエンテの行く道の前の敵を大量に射ぬいた。

それでも敵の数はまだまだ減らず、ルーナクレシエンテの前に立ちふさがる。


「くっ…でももう、あなた達に太陽神の加護はないわ!」


月の光がルーナクレシエンテとルナリェナに、月の一族に降り注ぐ…月の一族の生みの親である華救夜の加護だ。月の一族の体に華救夜の神力が流れ込んできて霊力が溢れる。


「リェナ!」


「ええ、まかせて。私が敵を凪ぎ払うわ」


ルーナクレシエンテは宙を舞いながら少し後ろに下がり、双剣を構えて己の霊力を溜める。そしてルナリェナは静かに前に出ると、召喚していた大弓を投げ消して霊力を右手に纏わせて優しく風を撫でた。


牡丹一華(アネモネ)の小風」


ルナリェナがそう術式の名を唱えるのと同時に、風が意志を持ったように震えた。その振動はルナリェナを中心に大きく広がり、やがて光輝く水色の風となって周りの敵を一掃して地球広海に沈めていく。


「怯むな!第漆部隊の大盾で防ぐぞ!!」


「はい、隊長!」


「了解しました!!」


皇都騎士団の第漆部隊のメンバー数人が同じ盾の魔法を発動し、それをパズルのように組み合わせて大きな盾の魔法が形成された。

皇都軍はその盾の後ろに隠れるが、大半はルナリェナの操る強者の風の前に吹き飛ばされていく。


「くっ…耐えるんだ!これをしのぎきって攻撃を再開するぞ!!」


「そんな時間は無いわよ、紅玉の刃(ルビーブレイド)!」


いきなり彼らの後ろに現れたルーナクレシエンテは双剣の刀身を紅玉色に光輝かせて第漆部隊の隊長を斬り飛ばした。

先程までとは違い、一撃で大勢の敵達を地球広海に沈めていった。






3つの月が1日の中で最も光輝く真夜中は過ぎ、その光は月の一族を守り力を与えて輝かせた時間は終わりを告げる。自分達の体を良く見れば、致命的な大きなケガはしていないが擦り傷や切り傷は多い。

キラキラと太陽の薄明かりが雲の隙間から覗く。再び太陽が顔を見せ始める時間になろうとしていた。


「こんなものかしら、リェナ」


「ええ、あとは深都達に任せて帰ろう」


「ええ、もう交代の時間だものね」


最前線には、もうルーナクレシエンテとルナリェナの相手になるような敵はいなくなっていた。ルーナクレシエンテはまだ攻撃を仕掛けてくる敵の1人を海に叩き落としながら、本陣のある方を振り返った。

昼間も深都が大人数の部隊を率いて、月の光の加護の無い戦場の指揮を取る…今度は月の一族が、先程までの夜戦の騎士団のように加護が無い状態で前線に出るのだ。


〈ルーナとリェナ。それと夜戦に出ていた奴はもう休んでいいってよ。また夕方に集合してくれ〉


本陣の通信術士である蛍の声が届いた。ルーナクレシエンテとルナリェナは、その命令に了解したことを通信術で蛍に返す。

後ろを見れば前線に出てきた仲間達が見えたためルナリェナは彼らに手を振り、ルーナクレシエンテと視線を合わせると本陣に向かって同時に飛び立った。

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