第七話 第二皇子の婚約発表!?
雅己とルーナクレシエンテのブーイングなど気にも止めずに、アース皇国の皇帝であるグレイス・一樹・アースは強引に話を進めた。
彼の中ではもうルーナクレシエンテと第二皇子雅己が結婚する未来しか見えていない。だってそれは、華救夜の呪いだからだ。
「実はもう皇命は用意していてな。後は判を捺すだけだ」
そう言いながら何処かから皇命の書かれた用紙と皇印を取り出し、皇帝グレイスは得意気に皇印に自分の魔力を流すと用紙に捺そうとする。
「父上!?本気ですか!?っ、やめてくれー!!」
慌てて椅子から立ち上がり、雅己は皇印が捺されるのを魔力で妨害しながらやめさせようとするが、魔力の競り合いで皇帝であり父親であるグレイスに勝てるはずもなく…皇印は捺された。
「雅己はコントロールがまだ甘いな」
父親として、大人気なくグレイスは勝ち誇ったように笑っている。それに対し、雅己は”この世の終わり”だというような顔をして頭を抱えていた。
「くそ!何で敵の女と結婚なんだよ!?ふざけてるのか!?」
「大真面目だよ、俺は。」
そう鋭い視線で言うグレイスに、雅己は皇帝から一度視線を外して自分を落ち着けるように息を吐いた。少し冷静になってから皇帝の第二皇子として発言する。
「陛下、月の一族というだけで問題だらけです。誰が認めると言うのですか?」
「民に認めさせるのは皇帝じゃない。いや、違うな…アース皇国だけでなく、月の一族も認めさせるんだ」
“誰が?”というのを雅己は図りかねて沈黙する。
そんな雅己を見て、グレイスは政はまだまだ教えることがありそうだと苦笑していた。
「ねえ、それ、何なのよ?」
今までことの成り行きを見ていたルーナクレシエンテは首を傾げなが皇命の書かれた用紙を指差していた。月の一族にこういうものは無いはず…とルーナクレシエンテは見たことがない。
「ルーナにはこういうことは回ってこないだろう。深都や蛍あたりが片付けるだろうからな」
一樹としての記憶から、グレイスは現在の月の一族の内情を推測して言う。“一樹の記憶”を持ってしても、この戦を終わらせられないことはグレイスの人生で痛感している。だからこその、第二皇子の婚約発表なのだから。
「そうなのかしら?」
「ルーナは元気に笑っていてくれればいいんだ。可愛いからな」
グレイスは一樹の頃と同じようにルーナクレシエンテの頭を撫でる。
ルーナクレシエンテはもう、グレイスの姿で自分の頭を撫でてくる“一樹お兄ちゃん”に違和感がなかった。子供の頃みたいに、とても嬉しい。
「流されてる場合じゃねーよ!」
「何よ!?うるさいわね、深紅の炎皇」
皇命の書かれた用紙に皇印が捺された事実を受け止めて焦っているのは雅己だけだ。ルーナクレシエンテはその内容も事の大きさも現時点で理解してはいなかった。
「結婚式の準備も始めないとだな~」
結局、当事者である2人を置いてきぼりにし、アース皇国の皇帝の権力で勝手に話は進められていき、第二皇子の婚約発表は決定した。
その日のうちに婚約発表とされ、ルーナクレシェンテは何人ものメイド達に包囲され、第二皇子の雅己もこちらですと連れて行かれようとしていた。
「何で俺が、お前なんかと婚約を発表しなきゃいけないんだ!?」
「知らないわよ!!私だって嫌に決まっているじゃない!」
やっと事の次第を理解したルーナクレシエンテも嫌だとうったえるが、グレイスはニコニコと笑ったままだ。そして“2人を綺麗に着飾ってくれ”という皇帝の命令はとどめとなり、ルーナクレシエンテと雅己は別々にメイド達に連れていかれた。
◇◇◆◇◇
途中で深紅の炎皇とは別々の部屋に連れてこられたルーナクレシエンテは、必死に抵抗していた。
着ていた服を脱がされ、城のお風呂で綺麗に体の隅々まで洗われたかと思ったら次は何本もの美容オイルで全身美容マッサージされ…気が付けば目の前にはこれから婚約発表のために着る深紅のドレスが存在していた。
「陛下が見立てたドレスです。まるで雅己様のお色ですわね」
いつの間に作ってしまったのかと、ルーナクレシェンテは呆然と綺麗なレースが存在を主張する紅いドレスを見つめていた。
「きっとお似合いになられますわ」
何を勘違いしたのか、メイド達は敵であるはずのルーナクレシェンテが目の前の完璧なドレスに見とれていて声も出ないと思っているらしい。いったい敵意はどこへ行ったのか、ルーナクレシェンテに新しく付けられたこのメイド達にはいったいどんな情報操作を皇帝である一樹お兄ちゃんはしたのだろうかと疑いの目で見たくなる。
「本当にこれを着て、あの深紅の炎皇と婚約を…?」
あの、優しかった一樹お兄ちゃんがこんなにも“恐い”と思ったのは、今が初めてではないだろうか。一体何故、どうしてこうなってしまったのだろうか。
「雅己様との婚約発表に急ぎましょう」
「さあ、こちらへ。皆、気合いをいれてやるわよ」
メイド達の気合いの入った声と、その勢いに押し切られてルーナクレシエンテは抵抗をやめてしまった。こんな状況はもう、不利でしかないと本能的に悟ってしまった。
「諦めるのはまだ早いわ…これから勝機をうかがえばいいの、よ…?」
もう、自分でも何を言っているのか分からなかった。
そして完璧なドレスアップが終わった頃、部屋を出た。その目の前には不機嫌を隠すこと無く皇族だけが着ることのできる正装になったいた深紅の炎皇の姿があった。
「待て待て!本当に父上は敵との婚約なんて民達に発表する気か!?」
彼はまだ抵抗していたらしい。それでもメイド達の勢いは止まらないらしく、廊下を歩きこのアース皇国の城の前に集まる民達の前にルーナクレシエンテと第二皇子の雅己は立った。
「皆、よく集まってくれた。今日は第二皇子である雅己の婚約者を紹介する」
アース皇国の皇帝グレイスが民に向けて話している。
そんなグレイスをルーナクレシエンテは静かに見詰めた。
「私の妹であるルーナだ」
そう皇帝グレイスが言うと、民達からは歓喜が上がり、大臣や国の政治を司る貴族達からは歓喜だけではなく違う声もルーナクレシエンテには聞き取れた。
「本当に一樹お兄ちゃんは何を考えているのよ?」
一樹お兄ちゃんの考えていることが解らない。これから、こんな敵地でどうしたらいいのだろうか…一樹お兄ちゃんはこの国の皇帝、信じてもいいとは限らない存在なのだとルーナクレシエンテは今回の婚約発表で痛感した。




