第六話 アース皇国の皇帝
皇帝視点のため、自分自身の暴露がすごいことになっています。
ルーナが皇国の捕虜となって数日、目が冴えた俺はいつもより早く起きていた…と言ってもまだベッドの上だが。第一皇子として生まれて今は皇帝として生きる俺は人に世話をされることが“当たり前”になっていた。
それにしても、ここ数日の雅己の行動は目に余る。ルーナに“血まみれの竜”の魔法を使うなどとは思っていなかった。
「俺は雅己の育て方を間違えたか…」
どうやら俺の予想以上に雅己はルーナを毛嫌いしているらしい。俺のところにも“いつもケンカをしているみたいだ”とか“付けたメイドが問題ばかり起こすので変えた”というような良くない報告が上がってきている。
ルーナの兄をしてみろと言ったのにケンカばかりとは…いっそのこと“恋人”になれと言ったほうが分かりやすかっただろうか。まあ、皇子として生まれた以上“政略結婚”など当たり前に教育してきたが…それは雅己より希のほうが成績をつけるなら満点に近い点数を取るだろう。
「記憶を持って生まれ変わるなんて、ろくな事がない…」
損な役回りだとも思う。月の一族として月夜の神である華救夜に産み落とされ、当時のこのアース皇国の女帝だったマリアンヌと戦場で出逢った。それは本当に、華救夜に仕組まれれた呪いだった。
今の俺はグレイス・一樹・アース。今は亡き母、女帝であったマリアンヌの第一皇子として生まれた。戦場ではまだ皇太子だったグレイスが月の一族として生きていた頃の一樹と戦うなんて、いったいどんな状況だと心の中で華救夜に文句を言っていた。
戦場で会う度に俺達は自棄糞だった。最終的に俺が一樹を討ち取るはめになるし、一樹だった俺はその事実を知っていたからその通りにやるしかなかった。
「陛下、おはようございます」
いつもより早く起きていた俺にメイドが驚いた顔をしたが一瞬でそれを隠して寝室の窓のカーテンを開ける。いつもやっている仕事だ。たまには礼でも言った方が良いかと思ったが、やめた。今の俺のキャラじゃない。
もし言ったら、彼女は一瞬では驚いた顔を隠せないかもしれない。それなりに信用があり長い付き合いだが…やっぱりやめておこう。
「エイナ、支度が終わったら雅己を謁見の間まで来るように呼んできてくれ。これからルーナの部屋に行く」
「かしこまりました。ではこちらの服に袖を通してくださいませ」
着替えが終わると俺は寝室を出てルーナの部屋に向かった。
ルーナの部屋の前に着くと、俺はノックをして中に入った。また着替えるのが嫌だと、メイド達にさわるなと暴れているルーナがいる。
俺の姿を見て、ルーナがまだ俺を不信な目で見てくる。俺が“一樹”だと月の一族としては理解しているはずだ。だが、やはり戸惑っているようだ。
◇◇◆◇◇
結局、俺がルーナを着せ替えて謁見の間まで抱っこして連れてきたせいかルーナの機嫌が物凄く悪い。大人しく抱っこされてくれてはいるが、目も合わせてくれないのは正直悲しい。
「雅己は来ているか?」
謁見の間の警備をしている近衛に聞けば中で待っていると言う。ルーナの着替えに思ったより時間がかかったか…そう思いながら俺は近衛に開けられた扉から謁見の間に入ると、護衛をしている近衛騎士や影の部隊達、全員に外に出るように命令した。
俺はそれを確認すると扉を閉めさせて情報がもれないように結界を張り、そのままルーナを膝に乗せて玉座に座る。
「待たせたな雅己。もう少し近くに来い、話しづらいだろう?」
雅己は俺に何を言われるのが怖いのか、返事だけしてこちらに近付いて来たがまだ距離があるが、しかたない。話を始めるとしようか。
長い話になるから前置きは無しで本題から入ろう。
「雅己、どうしてルーナをぞんざいに扱うんだ?」
俺が雅己に問えば何とも言えない顔をしている。あれは言い訳を考えているな。本当に困ったものだ。俺の命令も遂行できずにルーナとケンカばかりとは…ルーナは可愛い一樹の妹なのに。
「こんなにもルーナは可愛いじゃないか!」
俺の膝の上に座るルーナの頭を撫で、機嫌を直してもらうように昔のようにもっと撫でる。ああ、可愛い。
雅己はどうしてルーナを気に入らないんだ。
「いったい俺にどうしろと!?」
どうしてだ雅己、どうして俺から目をそらすんだ?
そうかやっとルーナの可愛さに気付いたか。そんな事を思っているとルーナが俺をじっと見詰めていた。
「もしかして、あなた…一樹お兄ちゃんなの?」
ルーナがやっと口を利いてくれた。だが、なぜそれを確認してくる必要があるのだろうか…俺が一樹だと気付いていて機嫌が悪かった訳じゃないのか?
一樹でありながらグレイスとして月の一族と戦っていたから。
「その感じだと気付いていなかった、と言うよりは確信が持てなかったとか、信じたくなかったってところか?」
「っ、だって…」
ルーナが次の言葉に詰まり、表情で感情を現す。月の一族だった一樹には言葉にされずとも理解できたルーナクレシエンテの心の中。だが、今のグレイスには思いが伝わるような能力は無い。
涙でぐちゃぐちゃなルーナの顔。涙を拭うことさえ躊躇してしまう。
「悪かった。ルーナなら理解してくれるとおも…」
「何で私が理解してくれると思ったの!?バカなの!?」
俺の言葉を遮り、ルーナが感情のままに叫ぶ。霊力が封じられているこの状態でも、霊力で身体強化しているように俺を叩く。
雅己の願いを叶えて大人になったと思ったら、まだ俺の知るルーナであることが懐かしいとさえ思う。
「何を笑ってるのよ?月の一族として“できてない”ってバカにしてるの!?」
俺は笑っていたか…本当にルーナは子供の頃と変わらないな。妹を泣かせてしまったし、俺もまだまだだな。
「いいやそうじゃない、グレイスに転生してから聞こえていた願いが全く聞こえなくてな。どうやら俺は月の一族のその能力を過信していたみたいだ」
今度こそルーナの涙を手で拭い、ルーナに許してもらえるように言葉をつくす。
そんな状況の中、今まで置いてきぼりをくらっていた雅己が目の前まで来ていた。ルーナにも雅己にも話さなければならないだろう。いろいろとな。
「まあ、長い話になる。雅己とルーナの今後のこともあるからな」
どうせこの2人は恋をして結ばれるだろう。華救夜の願いを叶える能力には誰も逆らえないのだから。俺がマリアンヌと恋に落ちずに彼女の息子になったのはこの一樹とグレイスの全力抵抗の賜物だからな。
「雅己も適当に座れ」
ルーナを抱っこしたまま立ち上がり、俺は玉座の後ろにある休憩スペースに雅己を招く。
仮眠用のベッドとその横には椅子とテーブルも常備している。長い話になるかもしれないとメイドに3人分の菓子と紅茶を用意させていた。
「一樹お兄ちゃん、私もう抱っこされる子供じゃないの」
ルーナにそう言われ、俺は渋々可愛いルーナを先に椅子に座った雅己の向かいの椅子に座らせた。2人とも納得いかないと言う顔をしたが気にせず俺もルーナの隣の椅子に腰掛けながら、魔法で3人分の紅茶を入れ菓子を並べた。
「さて、雅己とルーナの婚約を大々的に発表しよう!」
「いきなり何の話だ!?父上が俺に言っていた命令はどこに行ったんだよ!?」
「え?一樹お兄ちゃん!?」
雅己にルーナに兄のように接して情報を引き出せなどと言った命令など忘れた。作戦はきっと次の段階に進めるべきだ。




