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第五話 月の一族の戦姫2

ーーー本当に父上が何を考えているのか理解できない。


俺は何度この自問自答を繰り返しただろうか。いつの間にか俺の預かりになった敵の女…この、俺の部屋の俺のベッドを陣取った敵の女。

何で忌むべき敵の捕虜が、牢でもなく拘束もされずに()()部屋にいる!?父上はなぜ、この敵の女にメイドをつけて世話をさせているんだ!?


「お食事でございます」


「……………」


メイドに昼食をすすめられている敵の女は、ベッドの奥で警戒してずっと無言をつらぬいている。

俺の分も一緒に運ばれてきているあたりからして、俺はこの女と昼食を食べないといけないのか!?…本当に父上は何をさせたいんだ?


ーーー「ためしにルーナの兄をしてみろ。雅己、今度は上手くやれよ」


あの後、俺の部屋にこの女を父上自ら運んだ。あのまま、子供の頃の俺達を扱うように…。メイドに着替えを任せている間に俺に言ったことだが、何をうまくやるんだ!?


「いったい何なんだ、この状況は…」


俺は頭を抱えたくなった…いや、今もずっと抱えている。先程まで無言をつらぬいていたかと思えば、あの敵の女は騒がしいくらいにメイドと怒鳴りあっているらしい。


「だから、いらないって言ってるでしょ!!」


「そういうわけにはまいりません。私達は陛下にあなたの世話をするように言われているんです!」


昼食を食べさせたいメイドとそれを頑なに拒む敵の女とを、俺はずっと見せられている。さすがに俺も腹が減ってきているが、この状況でどうしろと言うんだ()()()()は…。


「おい、俺の分を寄越せ」


この光景を見るのも飽きてきた。それに俺も腹が減ってきている。だから、俺はテーブルに移動するともう1人の控えていたメイドの給仕で椅子に座る。冷め始めている食事を魔法で温めさせ、ナイフとフォークを手に持って食べ始めた。


「何なんですか、私だって好きであなたの世話をしているわけじゃないんですよ!?」


「余計なお世話よ!私は月の一族の戦士、月夜の神である華救夜に最も強く産み落とされたルーナクレシエンテ・グラシア・レソレサルよ。敵に世話をされるなんてありえないわ!!」


殺気を含んだ鋭い視線がメイドに飛ばされる。俺も思わず椅子から立ち上がって臨戦態勢を取りそうになった。

この城で月の一族の持つ霊力は使えない。それなのに、武器も何も持たなくても何者にも屈しない、そんな“強さ”の宿るような敵の女の、明るい青色の瞳が気に入らない。


「騒がしい、そいつを黙らせろ」


俺は控えている方のメイドに言う。


「はい…ですが雅己様、陛下からは“俺の妹”として扱え、と仰せつかっております」


第二皇子である俺の命令でも、皇帝である父上の命令が最優先ということか…って言うか、“俺の妹”として扱えだと!?

父上は俺に何をさせたいんだよ!?


地球人(あなた達)の作った食べ物なんて食べられるわけないじゃない!!」


「……壊しておいて…私の家族をめちゃくちゃに壊している月の一族(ユエ)なんてっ…どうして敵の少女(あんた)なんかが陛下に気に入られているのよ!!」


魔力がメイドの女の感情と共に集中する。水属性の攻撃魔法だ。貴族の血筋でも所詮はメイドでしかないこのメイドの魔法の威力は弱い。いくら霊力が使えない敵の女にもかすり傷すらもつけられないだろう。

水の属性で氷を操る希を見慣れているせいか、ただの水属性の魔法なんて興味が湧かない…だが、このままやらせれば俺の部屋が水で汚れることになる。

掃除をするのは俺じゃないが、やめさせるかと考える。


「それで私に傷をつけられるとでも思っているのかしら?」


水の攻撃魔法が発動する直前、敵の女はメイドの手首を掴んで向きを変えたようだ。魔力をコントロールをしているメイドの右手はそれを忠実にこなして魔法が発動した。…って、その水の攻撃魔法は俺を目掛けて飛んできていた。


「くそっ…もうやってられるか!!」


何で俺が水をかぶらないといけないのか…俺は考えるのもやめて、この敵の女を無視することに決めた。

フォークでウインナーを突き刺し、濡れたままテーブルマナーも無視して食事をした。






◇◇◆◇◇

いったい誰から聞いたのか、それとも直接見られたのか…俺は父上に呼び出さた。

あの敵の女を自分の膝の上にのせて玉座に座るのはどうかと思う。今すぐにやめて欲しい。あれはこのアース皇国を統べる皇帝として問題だと言いたい…が、俺はそんなことを()()父上に言う勇気は持ち合わせていない。


「雅己、どうしてルーナをぞんざいに扱うんだ?」


「…それはっ…」


俺は必死で言い訳を考えるが、何も言葉にできない。父上の目が、笑っていない。言い訳を許さないという圧をものすごく感じる。


「こんなにもルーナは可愛いじゃないか!」


ついにあの父上は壊れたか…膝の上に座らせたあの女の頭を本物の娘のように必要以上に撫でている。それとも、これは俺にツッコミを入れろと言う父上からのフリなのか!?

俺の頭はこれ以上ない程に混乱しているのに、これ以上は本当にやめて欲しい。


「…いったい俺にどうしろと!?」


もう俺は何度目かも分からない。父上達から目をそらしながら頭を抱えるしかなかった。

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