第七話 惹かれ合う願い事
話数を六話から七話に変更しました。
華救夜は目の前の皇子、希・アースをじっと見詰めた後、いたずらっぽい笑みを浮かべてまた楽しそうにしている。
ーーー時間操作術式 過去の閲覧
それは神族である華救夜の神力でふるわれるこの世界の最高位の術式である。
突然、空中に出現したいろいろな大きさや色をしたたくさんの巻物の中から華救夜が波紋のような風のような不思議なデザインの青いグラデーションの施された1つの巻物を選ぶとその巻物のひもは解かれて開かれる。
「過去の巻物はこの世界の“地球星と惨月”の過去の出来事を記憶している物じゃ。今から観るのは希・アースとルナリェナの同じ時間の異なる場所の記録じゃ」
この映像はルナリェナと希・アースの昔話、この世界の過去の出来事である。
◇◇◆◇◇
地球星、皇都。西の地を治める上位皇族のカーネ家の屋敷は高い丘の上にあり、その周りには深い湖があった。彼らはアース皇国を統べる最上位の皇族の分家であり、今の皇帝陛下に見初められた娘…側室の1人である第二皇子の母の生まれた家だった。そのこともあり、カーネ家当主は我が娘の子である皇子達を使い今よりも皇族としての地位や権力を高めることを密かに策略していた。
「雅己、分かっているな。お前は皇帝になるのだ」
まだ7歳になったばかりの雅己とカーネ家当主は屋敷の奥にある魔法や攻撃などに万全に備えた部屋で話をしていた。皇族やアース皇国には絶対に秘密であり、法律にも違反するために分家した皇族や貴族達が持ってはいけない物ではあるが、何かしら持っているのが当たり前だ。
「はい、お祖父様」
そう返事をしてカーネ家の当主である祖父との話しを終えた雅己が部屋を静かに出ると、その部屋から遠ざかるにつれれて廊下を早足で歩き玄関まで来ると屋敷を飛び出した。
皇帝である父上にも、側室の母上にもお祖父様とこのような話をしているなど言えず、かといって誰に相談していいものかも雅己には分からなかった。お祖父様の考えていることもこのアース皇国の上位皇族として当たり前であるということも幼いながらに雅己は理解していた。
「次の皇帝には兄貴がなるに決まってるのにな…」
そうだとしても、雅己は思っていることを小さく呟いた。
屋敷の外の湖で、しゃがんだまま魔法の練習をしていた弟の希の姿を見つけると少し心が落ち着くような気がする。どうやら魔力操作で水を氷にしようとしているらしい。
近くには皇族専用の三輪駆動の魔動車があり、皇都騎士団もずっと2人の皇子を護衛してくれている。
「希!オレの用事につきあわせて悪かった!!」
「やっと戻ってきた、雅己遅いよ」
希は湖の水を魔力操作で凍らせるのを止めて雅己の方を見上げた。待つのも楽ではないと、雅己のカーネ家に行く用事はいつも長い時間待たされる。それでも雅己について来るのは何故だろうか。
希が立ち上がると兄である雅己とそれほど背の高さも変わらない。2人はお互いを見て笑い合うと、雅己だけ少し寂しそうな顔をした。
「雅己?またカーネのおじいさんに何か言われた?」
妙に鋭い希には敵わないと思いながら、雅己は“何でもない”といつものように自分の心を隠す。希も、それ以上聞いても雅己が答えてくれないことはもう知っている。
ーーーだから、もっと強くなろう。皇子の重圧にも耐えられるように。
ーーーだから、もっと頼られるように強くなりたい。
2人が地球広海の方の空の上を見上げると昼間の空に稲妻が無数に駆けていた。そこで戦う長兄を思いながら雅己と希は自分の“願い”という名の決意を言葉にした。
「オレはもっと兄貴みたいに強くなって皆を守れるようになる!」
「僕も皆が笑顔で暮らせるように強くなるよ!」
そんな頼もしいことを言う皇子達を、彼らを守る皇都騎士団達は嬉しそうに、感動しながらと護衛の続きをしていた。
◇◇◆◇◇
そこまでの映像が終わると、華救夜は1度その巻物を閉じた。そしてまたすぐに開くと、巻物のデザインは変わらないが色だけが赤に変わっていた。
「次は同じ時間の娘達の記録じゃの」
華救夜の思いのままに、また映像が再生された。
◇◇◆◇◇
地球星の衛星である惨月の内の1つである半月。月の一族の生みの親である華救夜が宿る大樹の横で、遊ぶ幼い子供が2人いた。
母親である華救夜に能力を高く産み落とされた個体のルーナクレシエンテとルナリェナには地球星に生きる地球星上の願いが他の兄姉達よりも多くはっきりと聞こえていた。まだ自分達の能力を隠すということも知らない小さく幼い頃の“双子”。
月夜の神であり人の願いを糧として生きる華救夜は地球星の隅々まで願いを聞き漏らさず、そして神族であるがゆえに叶える願いも選べる立場にある。だが、月の一族として産み落とされた彼らは神族ではないために己と惹き合う願いしか叶えられない。
「また、あの声がきこえるわ。リェナ」
「私にもきこえる。知らない男の子の声…」
ーーーどうしてこんなに、よくきこえるのだろう…?
いつも、ルーナクレシエンテとルナリェナは疑問に思う。他の兄や姉達に聞いても知らない、きこえない、と素っ気なく返される。
だって、その声がどこから聞こえてくるのか知らないほど兄姉は子供ではない。でもルーナクレシエンテとルナリェナはまだそれが分からない子供だった…どうして兄達が憎しみや殺意を映した瞳でにらんでくるのか分からなかった。
すると突然に大樹の周りに強い霊力と神力が集まるのを感じる。
「ルーナ、リェナ」
そして大樹の前にたくさんの光が集まると数人の人の形をしていく…その中から2人を呼ぶ声がした。声のした方に顔を同時に向けたルーナクレシエンテとルナリェナはまた同じタイミングと同じ顔で嬉しそうに笑った。
「「一樹お兄ちゃん!」」
どうやら地球星から帰ってきたらしい兄姉達だった。他の皆は思い思いに“また後で”と散らばっていくが、一樹だけは妹達の方へと来てくれた。
一樹は妹達の前まで来ると2人の頭を撫でながら視線を合わせて片膝をついてくれる。
「いい子にしてたか?そういえば最近、お前らが地球星の奴らの声が聞こえるって言うのを皆から聞いてるんだが…どうなんだ?」
思いがけないタイミングでの兄からの問いに、ルーナクレシエンテとルナリェナはお互いの顔を見合わせた。また他の兄姉達のように怒られるのではないか、そればかりが2人の頭に過る。
「今も聞こえてるみたいだな」
一樹は何だか複雑そうに微笑んだかと思うと立ち上がった。そして2人の間に立つと妹達の小さな手を引きながら歩き始めた。向かう先は華救夜の宿る大樹である。ルーナクレシエンテとルナリェナは訳が分からず首をかしげた。
「月夜の神である俺達の母親の華救夜は、月の一族にある宿命を背負わせて産み落とす。神族は勝手だから気を付けた方がいい」
一樹の言っている意味が理解できずに、ルーナクレシエンテとルナリェナは兄を見上げてはまた首をかしげる。
そんな妹達をよそに、一樹は妹達の手を離して大樹に触れた。すると一樹の霊力と華救夜の神力が光り集まり溢れだした。
ーーー『争いしかないこの世界で、こんな私が愛のある家族を望むのは罪でしょうか?』
突然に聞こえた声が、誰かの願い事だとルーナクレシエンテとルナリェナは月の一族として直感した。そして兄である一樹はすでに、この声の主である女性の願いを叶えたのだと理解できた。
「彼女はマリアンヌ・アース。アース皇国の女帝だった人だよ。もう、この世にはいないけれど…」
寂しそうに語る一樹の姿は、とてもすごく悲しい色をしている気がした。そして、一樹は月の一族の先輩として誰かの願いを叶えた者として妹達に言う。
「1度惹かれあった願いは、引き返せない。ルーナもリェナも聞こえているなら華救夜の願いに呼応してその宿命を生きることになる」
ーーーだから、いつ叶えようが叶える結果は変わらない。
そう言い切る一樹にルーナクレシエンテとルナリェナは、何故だか一樹と同じことを思った気がした。
そして、おそらく彼らの願いを私達は“叶える”ことになるのだろう…幼いながらにも、強い能力を持って産み落とされた双子はその宿命を理解していた。




