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第六話 月夜の神が見たい“モノ”

話数を間話から七話に変更しました。

半月にある大樹の中で休んでいた華救夜は、我々神族の領域の術を月の一族で使用できるように分解した術の気配を感じて飛び起きた。

大樹の前でその術を使おうとする我が子(術者)を探す…いくら分解したとはいえ使用する者の代償が大きいために禁止した“禁術“なのだから。


「どこの阿呆じゃ、まったく…」


華救夜がその術者を特定すると、その子供に向かって今すぐその術式をやめるように制止の言葉を送る。どうやら皇子に対して使おうとしているらしい。いつも双子(あの子達)を見ている深都や蛍がいないせいか、止める者がいなかったのだろう。


「それは、未熟な者には扱えぬ術じゃ。」


そう言って、ルナリェナ(あの子)も聞こえているはずなのに…そのまま力任せに術式を使おうとしている。まったく困った子だと華救夜は思いながら、やれやれとその術式を失敗するであろうルナリェナのところへと向かった。






三日月にある土蔵の前、華救夜はそこにかけられた術式をものともせずに、その扉の前に立っただけで勝手に開く。するりと中に入れば時々姿が消えては現れを繰り返して地下へと進む。


「ぼ、くは…このアース皇国の第三皇子として民を守り、笑顔にできる強い、騎士に…なり、たい・・・・・」


どうやら、とても不完全ではあるが“記憶操作術 分離術式・記憶視”を発動したらしい。とてもできたとは褒められないことではあるが…華救夜は少し彼女達を見守ることにした。

“見守る”それもまた、神族の務めである。


「…何で、おれは・・・・・」


術式の代償、不完全な発動により倒れ込むルナリェナを記憶を視られた皇子は腕を伸ばして抱き止めた。皇子たるもの紳士に振る舞うようにしつけられたのか、それとも無意識か…それでもその事実が嬉しいと華救夜は思った。


ーーー彼女の頬を伝う涙を拭ってやりたいと思う。この赤い色の涙が、何故か無性に苛つく。


それは“恋”の願いかのう?

月夜の神、願いを糧として生きる華救夜には皇子の苦悩、戸惑い、ルナリェナの涙を拭えぬ己に対する苛立ちがきこえる。

この皇子の願い事を、ルナリェナは過去に叶えたことがあるようだった。もしかすると、争い合う敵同士からお互いを理解して恋に落ちるかもしれない。それに皇子と貴族階級を持たない少女の身分違いの恋など、()()()()ばかりではないか。


「それは良い願いじゃのぅ。その“願い”、わたしが叶えても良いのじゃが?」


是非とも叶えたいと思う、恋の願い事。

華救夜はいても立ってもいられずに、突然に皇子の前に姿を出現させた。驚いた顔も綺麗に整っている、悪戯が成功したような気持ちになる。華救夜はそう思いながらも倒れて気を失っているルナリェナの顔ものぞき込んだ。

さすがは私の子の中でも能力値の高い娘なだけあって命には別状はないだろう。ただ少し回復には時間が必要になるだろうが…地球星での戦いに支障が出るだろうが、だがまあ一樹か深都あたりがどうにかするだろうから心配はいらない。


ーーー恋の願いなど久方ぶりじゃ


早くその恋の願いを叶えたいと思いながら皇子の顔を見れば、神族である月夜の神 華救夜(わたし)に完全なる恐怖などは感じていないようだ。どうやらこの皇子は愚弟である太陽神(ソル・ディオス)を見たことがあるらしい。


「その顔、太陽神(あやつ)を見たことがあるようじゃな。まあでも、今はそんなことはどうでもよいのじゃ」


そう、愚弟(そんなこと)は今は些細なことだ。だから、わたしは思いのままを言おう。


「それより、わたしはその願いを叶えたいと思うのじゃ!」


「え…あ、はあ…」


ーーー今の()()はわたしの問いに対する答えでいいのじゃな。


わたしは自分が叶えたいあまりに、半場強引ではあるが皇子の願いを叶えることにした。

わたしが()()()()のと同時に皇子を拘束している手枷も術の類いも全てが解けていく。子供達の術など母たるわたしにとっては雑作もないことだ。


「さあ、お主の願いを聞き届けたのじゃ。存分にお主は涙を拭う(やりたい)ことをしてほしい」


わたしがそう言っても、皇子は状況を呑み込めていないらしい。

それでも、わたしはこの子らの恋路(運命)を見てみたい。この先の、敵と仲間、種族の違い、それぞれの背負う一族の役割…それらをどう乗り越えてゆくのか。わたしは()()が1番見たいのじゃ。


「……………」


ずっと無言で、皇子は間の抜けた顔で、わたしを見ている。やはり、わたしとしたことが彼らの()()()を邪魔してしまったじゃろうか。

これではわたしの見たい恋路(モノ)が見られないのじゃ…さて、どうしたものかのう。


「そうじゃな。わたしがいてはお主もやりにくいじゃろう…」


姿を消そう、わたしがそう言いかけたところで皇子はやっと動いた。戸惑いながらも敵であるルナリェナを腕の中に抱え直し、そして不完全な術式の代償で流れ落ちた赤い色の混じる涙を皇子は手で拭った。

“何故”と“敵に対する憎悪”と共に、皇子は無言のまま心の中で問い続けている。だがその“恋心(答え)”にはたどり着けてはいない。

また少しの間、彼らを見守っていると皇子はルナリェナを放さずにわたしに目で問うてきた。だから、わたしはそれに答えよう。


「お前達は幼き頃から惹き合うている」


「え?それはどういう意味でしょうか、月夜の神」


信じられない、言葉の意味が理解できないというような顔じゃ。

わたしはルナリェナを挟んで皇子の前に腰を下ろした。少し長い話になるかもしれぬと、そう思ったのじゃ。


「願いを叶えるにしても“相性”というのがあるのじゃ。先ほどお主も聞いたじゃろう…記憶を視られた時に、この子がお主の願いを“1番初めに叶えた時”の願いの言葉を」


「さっきの…相性?それに、おれの願いを彼女が叶えた?」


「それゆえ惹かれ合うのじゃ」


まだ何も、その意味することを理解できない皇子にわたしはニヤリと笑って見せた。

“願い”に惹かれ合わねば、月の一族と呼ばれるわたしの子供達は願いを叶えられないのじゃから。

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