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第五話 月の一族の姫君2

牢の中で寝転がりながら、おれは何もない天井を見詰めていた。月の一族の牢の中で目覚めてから2度の尋問をされた。

おれ1人に3人もなんて、よほどあいつらはひまらしい。第三皇子のおれが重要な情報など持っているわけ無いのに…第一皇子の兄ならともかく。まあ、第二皇子の雅己でもそんな重要な皇国の情報なんておれよりも持って無さそうだが。


「雅己の奴、今頃何してんだろうな…」


おれが戦闘で抜けたとしてもまだ雅己がいる。それに兄がいればきっと問題ないだろう。

そんなことや、ここから逃げる手段を考えながらも…おれはただ、1人でこの牢にいる間の時間をもて余していた。


「今日もあの3人の尋問か…」


おれは拘束された両手で体を支えながら壁の方まで移動して寄り掛かりながら座る。いつの間にか、昼間はここが定位置になってしまった。

今日は少し来るのが遅いかと思いながらも、また脱出の手段を考える。


「このルートも駄目か…」


辺りの気配や、魔力で聴力などを強化して外の情報を探るが…はたして、この牢に掛けられた術による影響下にある中でどこまで正確なのだろうか。


ーーーさあ、尋問の時間を始めましょう?


そう言った彼女は他の2人に比べて情報を得やすいだろうか、あのかんじからきっとお姫様扱いされていて男に口説かれたりしていないように思う。

敵であるおれに警戒しつつも、あの月の一族の姫なら情報を聞き出したり、騙したりして利用できるかもしれない。


「ここは霊力を持つ者しか出入りできないのよ、疾風の氷皇」


そんなことを考えていると今日の尋問の時間が始まるらしい…そう言えば気配が少ないな。月の一族の姫の兄みたいなナイトみたいなあの男達の姿がない。どうやら来たのは月の一族の姫だけらしい。これはチャンスかもしれないと思いながらも、霊力で扉を開けた敵をおれは見た。


「お目覚めかしら、皇子様?」


何なんだその人をバカにしたような言い方と顔は。見ていてものすごく腹が立つ。いや、これも何かの作戦か何かか?

おれは月の一族の姫に何も喋る気はないと毎回言っているのに、敵は聞かない。それどころか、何か術を発動しだしたかと思うと空中に拘束された。


「くっ…何をしようと無駄だ。月の一族の姫」


「だから、しゃべりたくなるようにしているじゃない」


おれが月の一族の姫に敗北した時とは違い、魔法や術による派手なぶつかり合いじゃない地味な攻防戦が始まった。






◇◇◆◇◇

気が付けば、どれくらいの間月の一族の姫に空中に拘束されたままだろうか。さすがにそろそろ戦闘の傷が癒えていない体には堪える…そもそも戦場にも行っているはずなのに彼女はおれの尋問をする。いったいどんな体力をしているのだろう。

さすがは、月の一族の姫と言うべきか…おれがそんなことを考えていると、何を思ったのか月の一族の姫は牢の鍵を開けて中に入って来た。


「っ、おい、何をするつもりだ…!?」


「今言ったじゃない。あなたの記憶を直接()()の」


おれの体は月の一族の姫の目の前に無造作に移動させられる。妙にこの姫に跪いてるような体勢なのが屈辱的だ。それに、“記憶を直接視る”なんて…そんなことが可能なのか?おれの記憶を本当に見られれば情報が敵に筒抜けになる。それだけは絶対に避けたい。

おれは目の前にかざされた姫の手のひらを睨みつけながら必死に、動けない体で気持ちだけでも抵抗する。


「記憶操作術 分離、術式・記憶…視…」


月の一族の姫の霊力が浮かび上がった陣に集まる。おれには理解できない、月の一族()の複雑な術式の陣が光ってこそいるが、何だか様子がおかしい。発動に時間がかかるタイプなのか…何かが頭の中に入り込んでくるようだ。気持ち悪い、おれの頭の中を掻き回すような這いずり回られているような感覚に悪寒がする。


「っ何なん、だ!?頭が痛い…」


「私、に…できない術なんて…」


ーーーこれは本当に、おれの記憶を視られている、のか…?


すると、ポタっと、おれの顔に落ちてきた透明な液体…それは最初だけでだんだん赤い色が濃くなっていく。気付けば月の一族の姫の体はぐらりと揺れ、おれの方に倒れてきていた。


ーーーおい、まさか失敗したのか?


「ぼ、くは…このアース皇国の第三皇子として民を守り、笑顔にできる強い、騎士に…なり、たい・・・・・」


なぜ、その“願い”を敵である月の一族の姫が言っている…?おれが昔、子供の頃に雅己と一緒に願ったおれ達の夢。

いつの間にか月の一族の術による拘束はとけていた。目の前に倒れてくるのは敵、宿敵と言ってもいい存在…それなのにどうして、物理的に拘束されている手を伸ばし、おれは月の一族の姫を受け止めていた。


「…何で、おれは・・・・・」


敵なんだから、拘束してその辺に転がしておけばいい。敵の前で術を使えずに失敗して倒れたんだから、助ける必要なんて無いのに…おれの閉じ込められていた牢の扉は開いている。逃げるなら、今がチャンスだ。それなのにどうして、おれはこの女性を助けているんだ?

それどころか、彼女の頬を伝う涙を拭ってやりたいと思う。この赤い色の涙が、何故か無性に苛つく。


「それは良い願いじゃのぅ。その“願い”、わたしが叶えても良いのじゃが?」


突然、音も気配もなく目の前に現れた女性…そう言って間違いはないはずなのに、どこかそれだけでは表現しきれない何かがある。

皇国で、おれの父上である皇帝と城の庭で話しているのを子供の頃に1度だけ見た太陽神に似ているような気がする。


「その顔、太陽神(あやつ)を見たことがあるようじゃな。まあでも、今はそんなことはどうでもよいのじゃ」


ーーーそれより、わたしはその願いを叶えたいと思うのじゃ!


続けられた言葉はその大人のような姿に似合わないような、とても無邪気な声と顔で言われた。

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