ひつじの晩餐
今日も子どもに引っ張りだこだし。
っていうか勝手にうろうろしてるだけだし。
忙しい忙しい。
ほら、また呼ばれてるし。
夜の呪文。
ひぃ~つじが1匹、ひぃ~つじが2匹…。
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だけど、あんまし意味ないと思うし。
「あー。どこまで数えたか分かんなくなっちゃったあ……」
ね?
そんでまた始めから数え直しだし。
余計、寝れなくなるし。始めから数えなきゃいいし。
つまんないし。
面白くないし。
あ。
逆にこっちから呼んじゃえばいいかも。
──ねぇ君──
いや、そっちのおっきい人じゃないし……。
なんで おっきい人が気付いたのか分かんないし……。
おっきい人と遊んでも 楽しくないし。
おっきい人は現実的だし。
「えーっ。ここどこっ!?」
夢の中だし?
「夢の中……?あいたたた…っ」
自分のホッペつまんでるし。痛いに決まってるし。
で、君の名前を知らないし。
「私? 瑠璃って言うのよ」
瑠璃の人は、なんか動揺してるし。
夢なのに変な人だし。
「夢? にしては現実的ねぇ」
そりゃそうだし。夢の中だけど現実だし。
「分かるような分からないような」
だから子どもの方が良かったし。
疑わずに遊んでくれるし。
「そう言えば、ひつじ君はなに食べてるの?」
急に話変わるし。
夢を食べてるし。見たけど覚えてない夢は、大抵ひつじ達が食べてるし。
「そうなのっ?」
そう。ねぇ、夢食べさせて欲しいし。記憶でもいいし。
あ、でも食べたら忘れちゃうし。ひつじを呼んだ報酬の代わりだし。
──でも今日はひつじが呼んだなんて内緒だし。
「食べたら、忘れちゃうんだよね」
まぁ思い出せそうで思い出せない感じだし。
「じゃあ、食べて欲しいんだけど」
後悔しない? あとで返せって言われても返せないし。
「それでもいい。ちょっとでも忘れていられるんなら」
じゃあ食べるし。食べて欲しいのはどんな事?
「虐められっこだった頃の事」
お腹が太るなら何でもいいし。良くないけど……。
いただきまーす。
……。
ん? おかしいし。
まぁ、いっかだし。
頑張ってだし。
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あー何かすっきりした気分。何でだろう。
未来が明るい感じだわ。
兄貴の子どもを保育園に送って、仕事。
自分の子じゃないのに、なんで面倒見なきゃいけないんだか。
あぁ、面倒臭いわ。
「おはよう。今日はちゃんと仕事してよ?」
声を掛けたら、新人の癖にキッと睨んでくる。
何? 先輩に向かってその目は。
「ちょっと瑠璃さん。あなた、自分のしでかした事を他人のせいにして。どういう事かしら? しかも新人のせいにして!」
えっ? だって自分の仕事に余計な事をしたのはこの子よ!? 冗談じゃないわ!
「指導するのは先輩であるあなたの仕事でしょう! 自分は楽をしたいからって、入ったばかりの子にこんな難しい仕事押しつけるなんて!」
お局に話したわね!
「責任はちゃんと自分でとりなさい!」
──知ってる? あの先輩、チョー意地が悪いの。
──知ってる知ってる! あの子もかわいそうにね!
──いやだなぁ。一緒の職場。
──シカトしちゃおっか。
──というか消えてくれないかなー。
そんな事があってから、私は孤立無援。
誰にも相手にされなくなった。
すがすがしい気分は何だったわけ!?
わけ分かんない! 腹立たしいわね!
虐められっこじゃなくて、虐めてたの瑠璃の人だし。
ヤキモチさんだし、ワガママだし。
虐められた振りしてただけだし。
いつの間にか本当に虐められたって思い込んじゃったし。
自分関係ないって思い込んじゃってるし。
知ーらない。
自分が変わらないと、ずっとずっと現実の悪夢が続くよ。
あ。一つ言い忘れてた事があったし。
嘘食べちゃったら、反動来るよって。
良い嘘なら良い方に。悪い嘘なら悪い方にたーくさん。
まぁいっか。どうせ食べちゃったら返せないし。
食べたら返せないって言ったし。
ひつじ、悪くないよね。
ごちそうさま。
あぁでも、美味しくなかったなぁ。
今晩は、美味しい夢にありつけるといいなぁ。