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7. ‘黄金色のどんぐり’と“逆さ虹さん”

最終話です。ちょっと長めです。

後書きにちょっとした説明を追加しました。

後書きの追加と表現の変更をしました。





 逆さ虹が見える木の下。


 ヘビのニョロが飾り付けをしいてるのが見える。


「おーい」


 そのコン太の呼び声に反応して、遠くを見ようと長い身体を縦に伸ばすニョロ。


「あ。コン太さん。あれ。みんな一緒なんだ」


 コマドリのチッチが、奥で料理をしているリスのコノを呼ぶ。


「ねえ。コノ君も来て。話したいことがあるの」


 そうして、仲間のみんなが合流した。


 コノとニョロは料理とパーティ会場の準備をしている。


 昨日の相談で、彼らがパーティの料理と会場の準備をするというの聞いた時は、随分と気が早いねと、僕は笑った。


 結果的には、これが良かった。


 そう。今日の夕方に“逆さ虹さん”を招待する。


 そのように思うコン太は、コノたちに今までのことを話した。急いでパーティの準備をしないといけない。


 仲間のみんなで協力をして、急げ急げと頑張って準備をする。


 ようやくパーティの料理と会場がととのう。


 リスのコノが、ふんわりとした大きな尻尾を揺らせながら、ぽんぽんと上機嫌に飛び跳ねる。かき混ぜていたのだろう木のへらを片手に持っている。


「美味しいのができたよ。やったね!」


 飾り付けに満足している、ヘビのニョロ。


「見て。こっちも綺麗できた!」


 重い木の株の椅子を並べ終えた、クマのペンタ。


「あー。急だったけど、どうにかなったね」


 会場の全体構成を空から見て、指示していたコマドリのチッチ。


「これで、私たちのパーティに招待ができるわ」


 コノと料理を手伝っていた、キツネのコン太。彼は結構味にうるさいようだ。


「コノは料理がとても上手くてびっくりしたよ。後は、この木の下に‘黄金色のどんぐり’を置くだけだね」


 ニョロと飾り付けを担当していたアライグマのランダ。乱雑になるかと思いきや手先が器用なのもあって、意外と丁寧ていねいな仕上がりになっている。


「おう。プレゼントもバッチリあるぞ。同じもんだけどな」


 “逆さ虹さん”を呼ぶ準備は整った。


 日が沈む夕方までには、仲間のみんなで急いだ甲斐があり、まだ少し余裕があるくらいだった。


 コン太が道なりに行っても、あの丘に着きはしただろう。だけど、果たして日が沈む前までに、ここに来ることができていただろうか。


 やがて、夕陽が優しく辺りを照らす。


 逆さ虹が見える木の下に、‘黄金色のどんぐり’を置く時が来た。


 置く場所に迷うことはない。


 この木の下には、この実をおさめても余りあるうろが、ぽっかりと口をひらいていた。


 だけど、この実は本当に‘黄金色のどんぐり’なのか。


 そして夢のお告げの通り、“逆さ虹さん”がここに来てくれるのか。


 やってみなければ、判らない。そう。やるっきゃないんだよ。


 ここまで、準備をしたんだ。


 今、僕ができることは、この実をここに置くことだけ。


 コン太は、‘黄金色のどんぐり’だと思われる実を、この木の洞の中に置く。


 すると、どうだろう。


 この‘黄金色のどんぐり’がまさに、黄金色に輝く光を放った。


 その光は、日が沈んで暗くなりかけている、この場所を明るく照らす。


 そして、次第にその光が強くなり、まぶしくなる。


 もう、眩し過ぎて目が開けられないくらいだ。


 その刺すような強烈な光。


 無理やり目を開けてみても、明るすぎて何も見えない。


 今度は、その光が次第に弱くなりおさまっていく。


 ようやく目が慣れて来た。


 洞の中の‘黄金色のどんぐり’がなくなっている。


 その代わり、一人の可愛いらしい女の子が立っていた。


 一陣の風が吹く。ふわりと青緑色の長い髪が揺れる。とても可愛い人間の少女。その子の額の中央にU字の模様がある。それが虹色の光を放っていた。


 U字の虹。


 それで、はたと思い出し、上方に目をやる。


 やはりというか、この木の上に見えていた逆さ虹がない。


 というか、全体の様子が変だ。


 といっても、逆さ虹が真上に見えていた、この木とこの周辺はそのままにある。


 逆に言えば、そこだけが同じ。


 目を遠くにやって見渡すと、暗色系の色がグニャリグニャリと渦巻き絶えず変化をしていた。そんな妙な風景が一面に広がっている。


 長い間を見つめると、位置感覚が変になって、眩暈めまいがしそう。


 コン太たちは皆、この事態に戸惑い呆気あっけに取られて、無言で立ちすくんでいる。


 対する少女も、やわらかな微笑ほほえみをたたえながら、たたずんでいた。


 静かな時が流れる。


 その何とも言えない静黙せいもくな時を破り最初に口を開いたのは、コマドリのチッチ。そう。彼女は、声が美しいだけではない。気丈きじょうな性格の持ち主でもある。


「チッチと申します。あなた様は“逆さ虹さん”でしょうか?」


 その答えはすぐに来た。


 - いかにも。我は“逆さ虹”と呼ばれておる -


 その声は、頭の中で響く中性的な声。それも重厚で、尊大そんだいな雰囲気。


 その可愛らしい容姿に全然似つかわしくない。コン太たちは、またもや戸惑とまどう。


 そう。目の前に見えている少女は可憐かれんな容姿。そしてその小さくて可愛い唇は、とても人懐っこそうに笑っている。


 その優しい光を宿した、くるりとした可愛い目。その色は赤い虹彩。さらにその瞳は、キツネのコン太や、ヘビのニョロと同じく縦に切れていた。


 あれ。人間って、こんな形の瞳をしているんだったかな。それに、話に出る怖い人間とは、違うような気がする。


 コン太の思考は混乱する。


 またもや、例の声がする。


 - 何。我はもともとこのような瞳をしておる -


 にこりと笑う少女。


 - うむ。我はパーティとやらに参加してやろうとヒトの形となった。これは良くなかったか -


 その可愛い女の子は、その声に連動をして、しゅんとして気落ちしているような素振そぶりを見せる。


 コン太は、仲間のみんなと目を合わせる。そして、ゴクリと唾を飲む。


 うん。僕が“逆さ虹さん”を招待するんだ。


 コン太は、意を決した。そして、はっきりとした声で言ってお辞儀をする。


「お待ちしておりました。ようこそ僕たちのパーティへ。歓迎いたします」


 そして、リスのコノが前にでる。コノはペコリとお辞儀をする。


「ようこそ僕たちのパーティへ“逆さ虹さん”」


 ヘビのニョロも出てくる。


「一緒に、たくさん食べようよ。コノの料理は美味しいよ。特に今回のコノは腕によりをつけて頑張って料理をしていたんだ。食べ合いっこしようよ」


 普段通りの、食べ物ばかりの言葉。


 仲間のみんなが、くつくつと笑い、緊張がほぐれ場がなごむ。


 いつもの調子に戻ったアライグマのランダが、元気よく言う。


「一緒に楽しもうぜ。この森を好きなってくれ」


 最後にクマのペンタ。


「あー。うん。僕たちを大水から守って欲しい」


 それを聞いた“逆さ虹”さんは、見た目通りの少女らしく、両手を口元に当てて、とても嬉しそうな顔をする。


 - そうか。我は、我をしたう者が好きだぞ。ククク -


 何か、その可愛らしい仕草と、頭の中で伝わってくるものとのギャップが、はなはだしいんだけど。


 あの夢のどんぐり池の妖精さんが変わった願いだとか言っていたのは、このことだったのだろうか。てっきり、無茶な願いを言うやつだなと僕をわらっていたかと思っていた。


 コン太がそう思っているところで、“逆さ虹さん”は辺りを見渡していた。


 - うむ。これでは、折角の飾り付けが台無しだな -


 彼女は、そのたおやかで華奢きゃしゃな腕を伸ばす。その可愛いひらひらの服の袖から覗く手首には、うっすらと鱗のようなものが見える


 でも、その手首から先は白魚のよう。そしてその美しい指をパチンと鳴らす。


 すると、額のU字の虹が強く光る。それと同時に、妙な色でうねうねと渦巻いていた空が、とても綺麗な星空となる。


 それと共に、一所懸命にニョロが飾り付けた“夜の明かり葉”、“逆さ虹の森”でしか採れない色光葉しきこうようが、様々な繊細で優しい光を発する。


 とても幻想的で綺麗。この場にいた皆が、しばらくこの風景にうっとりとする。


 そして、コノの料理がテーブルに並べられた。まずは冷製の前菜から。


 それを食べている間に、メインのシチューを温め返したのだろう。深めの皿に、アツアツにして出してきた。


 給仕はコン太の担当になっていた。結構忙しそうだ。それでもコン太は楽しんでしてるように見える。


 途中で、コマドリのチッチが美しい声で歌を披露した。


 皆で腕を組み、はやし立てる。


 ひと段落して一緒に楽しんでいたコン太は、ふと、ふわりとした重さを感じた。そして、自らの横に寄りかかる“逆さ虹さん”を見る。


 そう。いつの間にやら“逆さ虹さん”も、自然とこの中に入っていた。


 彼女は、生き生きとした表情をしていて、とても楽しそう。


 そうこうして、楽しい時が過ぎる。


 - そろそろ潮時か。そうだ。あの実は良かったぞ。あの実が我の好物であると、良く知っていたな。ククク -


 コン太は思索をする。


 何か、知っていて知らないふりをしているけど隠しきれていないというのかな。彼女は、そういうことをするのが好きだけど下手なのかもしれない。


 そして疑問に思った。


 “逆さ虹さん”は、あの実と言っているけど、あれって‘黄金色のどんぐり’というものではないの? そもそも、形以外は、どんぐりではないのだけど。


 そのコン太の疑問に答えるかのように、“逆さ虹さん”が伝えて来る。


 - うむ。あの実は‘黄金色のどんぐり’とも呼ぶ。名と形は似ているが、ブナ科のどんぐりではない。アオギリ科、広義では、アオイ科の植物となる。テオブロマ・グランディフローラムの変種だな。同属のカカオと同じく、種を果実と共に発酵をさせて香りを立ててから食するものだ。だが、あの実は果肉をそのまま食しても、とても旨いぞ -


 その言葉と共に、彼女の喉がゴクンと鳴る。唾液でも出たのだろうか。


 でも、アップルパイとかデザートも含めてたくさん食べた後だよ。食いしん坊のニョロといい勝負。あの華奢な身体のどこにどう入ったのかは知らない。


「あ。俺っちが持っていたのを忘れてた」


 ぼそっとつぶやいたランダは、つんつんとコン太をつついて綺麗なリボンがかかった2つの‘黄金色のどんぐり’をコン太にそっと手渡す。そして目くばせをした。


 それでコン太が“逆さ虹さん”にプレゼントだといって渡した。


 - お。まだ2個もあるのか。では、この果肉を皆で食しようではないか -


 キラキラと目を輝かせる“逆さ虹さん”。だけど独り占めをする気はないようだ。


 そうして、その実の果肉をいただく。


 その果肉は、甘酸っぱい中に不思議な味と香りがした。夏に食べることができる南の暖かい地方にある果物特有の味と香りに近いと思う。


 種は間違ってもかじるなと強く“逆さ虹さん”は言う。発酵をさせないと毒でもあるのだろうか。


 本題の大水の話題となり、いくつかの問答をした。


 最後に、まずは大丈夫だがと前置きをして、“逆さ虹さん”は言う。


 - さらに大水が出ないように、その年の水の調整をしようか。今日と同じく日が一番短くなる日の昼に、おんぼろ橋だな。あの橋を境とし逆行させた川の水を我の場まで持って返すことにする。その時に面白いものが獲れるぞ。それが今日の返礼だな。それと、機会があれば、またこの実をくれると嬉しい -


 さらりと催促をする“逆さ虹さん”。


 冬至の昼に、逆さ虹を渡る虹色のニジマス。


 後に、これが “逆さ虹の森”の風物詩の一つとなる。


 そして、この日は、お祭りをする日となった。


 ほら。見てごらん。今も、逆さ虹があの木の上にその美しい姿をさらしているのがわかるよね?


 ああ。そろそろ始まるな。


 さあ。おんぼろ橋を注目しようじゃないか。


 見物で賑わう、おんぼろ橋周辺。そんな声が方々で聞こえて来る。


 一方、虚空こくうの空間にて。


 - この逆さ虹があるから、我は星を渡っても、この森を見守ることができる -


 そして、すうと気配が消えた。


 あの木の上にある逆さ虹は、そのままその美しい姿をさらしている。


ここに読みに来て下さいましてありがとうございます。

いかがでしょうか。


感想などをもらえると嬉しいです。


◇話の中にあるテオブロマ・グランディフローラムは、一般にクプアスと呼ばれる植物の学術名です。このクプアスも、チョコレートの原料のカカオと同じくテオブロマ属で、これもチョコレートのようなものが作れるとのことです。


 最初は、普通にカカオの実を考えていたのですが、この実は縦に特徴的なくぼみがあるので、どんぐりと似ているというには、ちょっと難しいかなと思いました。


 それで検索をしましたら、同じテオブロマ属のクプアスの実は茶色くて、どんぐりのようにぷっくりとしているのを見つけました。


 そう。見た目はどんぐりにそっくり。だけど巨大。凄く変。


 ほんとにそれを見つけた時、とても印象深かったです。


 そして、特別なものということで光学的干渉による構造色で黄金色があってもいいかなと思いました。でも、この物語は童話なので光学的干渉とかのくだりは省きました。


 さらに、カカオの果肉は淡泊な味とのことです。実際に食べたことがないのでわからないですが、そう美味しいものではなさそうです。また、果肉と一緒に発酵をさせないとチョコレートの香りが出ないとのことです。カカオの果肉は種と一緒に発酵させてチョコレートとした方がよさそうですね。


 一方、クプアスの果肉は、爽やかで濃厚な南国の果物の味がするそうです。まだマイナーですが、結構検索にかかってきます。今後、表に出てくるのではないでしょうか。いつか実際にクプアスの生の果肉を食べてみたいなと思っています。


 それから、テオブロマ(ギリシャ語になるそうです)は、メキシコ・アステカ族の神話を由来とした神の食べ物という意味があるとのことなので、あえて学術名で書きました。そんな感じです。

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