5. 根っこ広場の木の根
題名とサブタイトルの変更をしました。
「コン太。何かあるのでしょ?」
コマドリのチッチが、強い口調でキツネのコン太を問い質す。
先に進もうと焦っていて前ばかりを見ていたコン太。
自分が倒れたのも理解できていない。きょとんとしている。
クマのペンタも、コン太に起こった出来事に驚いている。それで、さっきまで怖がっていたお化けのことは、頭の中からすっからかんに無くなっている。
「俺っちも噂で聞いたけど、初めて見た。それに、コン太君が嘘をつくなんてな。いたずら好きなコノなら納得ができるんだが」
知り顔をして顎を擦り、クマのペンん太の耳元で囁く、アライグマのランダ。
一方。
逆さ虹が見える木の下でパーティの料理の準備をしてるリスのコノ。
クシュリとくしゃみをする。
「誰か僕の噂をした?」
リスのコノがどことなく問う。
「人気者だね。コノ」
テーブルのセッティングをしているヘビのニョロが、にこりと笑って応じる。
食いしん坊のヘビのニョロ。食べ物に目がない。だけど、うねうねとくねる身体はとても器用。それにできることは進んでする。仕上げもとても丁寧。
「だね!」
嬉しそうに笑いながら機嫌よく鍋をヘラのようなものでかき混ぜるリスのコノ。このような可愛らしい性格をしている。たまにするいたずらも、全く悪意のない、可愛らしいもの。そんなコノは、仲間のみんなから好かれている。
楽しくパーティの準備をしている、陽気な長短コンビ。
そして話は、根っこ広場に戻る。
「え。僕の足に木の根?」
今頃になって自身に起きた事態に気付き、呆けたような顔をして呟くコン太。
「そうよ。ここは根っこ広場。ここで嘘をついたらだめよ。さらに絡まるわ」
そのチッチの声を聞くコン太。それで、黙って足に絡まっている細い木の根を解そうとして必死の形相でもがく。だけど絡まった木の根はびくともしない。
「ねえ。どうしてだんまりをしているの。私たち仲間でしょ。水臭いわ」
さらに詰め寄る、チッチ。仲間の内で、キツネのコン太が一番の年長。だけど、実質的なリーダは、このコマドリのチッチ。仲間の内で、一番小さい身体の彼女。とても面倒見の良い姉御肌だったりする。
それでも黙って起き上がろうとするコン太。だけど足に絡まった木の根が邪魔をしてなかなか立ち上がれない。
再び虚ろな目になるコン太。誰ともなしに言葉を漏らす。
「あー。時間がないんだ。急がなければ」
「コン太。私をちゃんと見て。そして言葉にして。ここは、ついた嘘の裏にある、本当のことを言えば絡まった木の根が自然と解けるという言い伝えがあるのよ」
今度は優しい声で諭すように言うコマドリのチッチ。彼女にとって年の差なんて関係ない。特に今のコン太には強く出る必要があるので尚更だ。
コン太はその声に気づく。そして全く解けない木の根に困惑しきった顔をする。そしてチッチの優しく美しい声に促されて、どんぐり池で起こった出来事を包み隠さず全て話した。
「まあ。そうなの」
「面目ない」
「何水臭いこと言ってるの。仲間でしょ。一緒に行きましょう。あの丘へ」
そうだ、そうだと言う、アライグマのランダとクマのペンタ。
場が和む。
すると、コン太の足に絡まっていたその細い木の根は、淡く青白い光を発した。そして、役目を終えたとばかりに霧のようにばらけて散り、跡形もなくなる。
キツネのコン太の話を聞き一緒に‘黄金色のどんぐり’を取りに行くことにした、コマドリのチッチ、アライグマのランダそしてクマのペンタ。
「そうね。まずは、行く先を見て来るわ」
そう言って空を飛ぶチッチ。彼女は身体が小さい。そんなに空高くは飛べない。それでも、森の上からの俯瞰はできる。あの丘までの道は話には聞く。だけど実際に行くのは初めて。これから行く道を事前に確認できるのは心強い。
チッチが確認をしている間、よく知っているところは先に進むことにした。
「あのね。僕の背中に乗って。多分その方が速いから」
おずおずとペンタが言う。
「おう。良く言ったペンタ。助かるぞ。コン太君。君も乗るのだ」
偉そうに言うランダ。だけど、その言葉の意味するところは、善意。
「え。重くならない?」
コン太は躊躇をする。
「うん。大丈夫だよ。コン太君も乗って。コン太君は僕の背中に慣れてないから、落ちないようにしっかりとつかまっていてね」
コン太とランダを背中に乗せてペンタが走る。風を切り飛ぶような景色。速い。ペンタは重さなんてないと言わんばかりに軽々と走っている。これなら楽に‘黄金色のどんぐり’を取ってきて戻ってこれる。
丁度分岐点に差し掛かった時。チッチが戻って来た。
「あの丘までだったら、こっちよりも、向こう側の道の方が良そうよ」
「え。こっちが一番の近道じゃなかったの」と驚くコン太。
「以前はそうだったでしょうね。だけど今はダメ。一か所道が大きく抉れているところがあって、そこに泥水が入り込んで沼みたいなの。だから、ぐるりと回った、向こう側の道の方がいいわ」
分岐点で休んでいたペンタ。彼はおずおずと提案をする。
「あの。その大きく抉れたところって、木を倒して橋にしてもダメかな」
「うーん。そうね。大きめの木を1本か2本渡せばどうにかなるかしら」
そこへ、ランダが介入をする。
「じゃあ、近道のこっちの道にしようぜ。何。木を倒せば行けるんだろ。俺っちとペンタでどうにかするって。な。言いだしっぺのペンタ」
「う。うん。そうだね」とクマのペンタが応じる。
「ほんじゃ、決まりだな。コン太君。大船に乗った気でいるといい」
得意げに胸を張るランダ。
コン太とチッチは、泥船でなければいいけどと思った。
結局、近道のこっちの道を選ぶことにした。
チッチは再び道の確認のために上空を飛んでいった。コン太とランダはペンタの背中に乗る。そしてペンタは、再び走って、こっちの道を進む。
その先を行くと、チッチが示した通り道が途中で抉れて泥水が溜まっていた。
この中は、濁った水で満たされているので深さが判らない。さらに、道の両端はスベスベの大きな岩で切り立った壁のようになっている。これでは道の横を通るのも不可能だ。
コン太はそう思案して言う。
「うーん。戻ろうか?」
「何。大丈夫だって。俺っちに任しときな」
すかさずランダはコン太の言葉を制して言うと、ひょいと手前側の背の高い少し大きい木に登る。その木の小枝をバッサバサとそぎ落とした。ランダはペンタにこの木を倒してくれと頼む。
ペンタは怖がりで弱虫。といっても、やっぱり大きくて力が強いクマ。ペンタが力一杯ドンとその木を押すとメキメキと音を立てて倒れた。みんなで、その木を抉れた穴の方へと持って行き、向こう側までに渡した。
「もう一本、必要かな。ん。あれ。思ったよりも底が浅そうだぞ」
ひょいと渡した木の上に乗り手に握った木の枝で慎重に泥水を突き刺すランダ。
「うん。こりゃ大丈夫だ。見ろよ。俺っちがこのまま渡って見せるからな」
浅いと確信したランダは、大胆にも泥水の中にチャポリと入る。見れば、身体の小さいアライグマのランダの足でも浸かる水は浅い。そして彼は泥水の中を歩き、楽に向こう側まで渡って行った。だけどこれは、彼が軽いからかもしれない。
「おーい。コン太君もこっちに来いよ。それにペンタ。君も大丈夫だぞ。この下は硬い岩盤だ」
向こう側からランダが、そう呼びかけながら手を振る。
ブルッと震えるペンタ。
「えー。でも底が見えないのは怖いよ」
コン太はペンタを誘う。
「ペンタ君。一緒に行こう」
「……怖い」
怖じ気ついているペンタ。
「じゃあ。僕が次に行くから、ペンタ君は最後に来てね」
コン太も、ペンタのためにわざと泥水の中に入って向こう側まで渡る。確かに、この下は浅く岩盤になっている。
これならクマのペンタの体重でも十分過ぎるほど頑丈だ。
コン太はペンタにエールを送る。
「ほら。大丈夫だよ。怖かったら、走ってこっちにおいでよ。とても速く走れるペンタ君だったら、ひとっ飛びだよ」
ペンタは覚悟を決めた。
「う。うん。ここに僕だけいるのも嫌だよ。分かった。走って渡るよ。一目散に駆けるから、避けてね」
ペンタは助走をするために少し後退してから、ブワッと駆けた。速過ぎて単なる黒い塊としか見えない。泥水に入るのも一瞬で本当に飛び越えたのかもしれない。
勢い余って行き過ぎてしまったペンタが戻って来た。
同時に、2度目の確認をし終えた、チッチが空から舞い降りる。
「ここから先はこれといった問題はなさそうよ。道なりに行けば、着くわ」
「あー。僕もこっちに来れたよ。先を急ぐよね。さあ、僕の背中に乗って」
つきものが落ちたように、自然な表情で、にっこりと笑うペンタ。
「へえ。ペンタ君って凄いね。見直したよ」
「あれがペンタの本気なんだぜ。何も怖かるものもないのにな」
ペンタの背中に揺らされながら、ペンタは凄いと言い合うコン太とランダ。
当のペンタは走るのに夢中で聞いていないようだ。今回はチッチも一緒。両手でしっかりとペンタの毛皮を掴んでいるコン太の胸元に潜り込んでいる。
そうして、コン太たちは、あの丘へと目指して急ぐ。
読みに来てくれてありがとうございます。嬉しいです。
次話は、あの丘の話です。