眠れない夜のこと
「もうおそいから、はやく寝なさーい」
「はーい」
………………ねむれない
うーん、こまった、ぜんぜんねむれないぞ
寝よう、寝ようって思うと、もっともっと寝られなくなること、よくあるよね
そんな時、ぼくは目をとじて、不思議なせかいへ飛びこんでいくんだ
びゅぅぅう…びゅぅぅう…
シーンとしたへやに、そんな音が響いたときは
隣の家のキンモクセイがお誕生日なのかもよ
そしたらうちの松の木がバースデーケーキをプレゼントして
コウモリ、街灯、オリオン座
お友だちがみんなそろったら
寝ている人が起きないように
そっとバースデーソングを口ずさんで
嬉しくなったキンモクセイが
『びゅぅぅぅぅうう!』って
思いっきりろうそくを吹き消す音なのさ
ギシギシ…ギシギシ…
これはなんの音だろう
きっと井戸端会議だね
隣の奥さんはおしゃべりさんだから
きっと隣の木造建築もおしゃべりさんなのさ
うちの築80年と隣の築60年が
なかよくおしゃべりしてるのね
そしたらそこへやってきた
ひょうきん者の夜風がまざり
笑い上戸の僕のおうちが
『ギシギシギシ!』って
体を揺らしてわらう音だね
真っ暗で、何も見えない、眠れない
そんな夜だけ僕に見える
ふしぎなふしぎな世界のはなし
さあ、目を閉じて、眼を開けて
きっと君にもみえてくる
ふと気がつくと、朝がくる。