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73話 終極へと

 

 三対一という、一見絶望的な状況下でも李彩音は笑った、まるで勇者を前にした魔王のように、含みのある黒い笑みで三人を出迎えた。


「いらっしゃい、遅かったわね」


 李彩音は挑発するようにわざと高圧的に3人に対応する。


「…対話する気もないのね、少し寂しいわ」

「戯け、貴様と会話するならば100年虚空に話しかけ続けた方がマシだ」

「ふふ、素直じゃないのね」


 フェルナと李彩音が会話をしている隙に後ろに回り込んだウィンディが大太刀を李彩音目掛けて全力で降り抜いた。

 それを軽々と躱し、”焔ノ羽”でウィンディを弾き飛ばす。



「…深紅之深淵クリムゾンアビス


 フェルナは一瞬戸惑ったものの、一呼吸置き、最上位範囲魔法である深紅之深淵を唱える、李彩音を中心に半径200メートルは真っ赤に熱された地面は1000℃を軽く超え、ドロドロに溶けている、ある部分を覗いて。

 その場所とは、李彩音が立っている場所とその羽が保護する雪乃の場所、だ。


「……」


 李彩音の表情が怒りに染まる、それは、いきなり最上位範囲魔法を放ってきた事や、殺しに来ている事に対してでは無く、雪乃諸共消し炭にしようとしたことに対しての怒りだった。


 李彩音が静かに左手を振る、すると、それに連動するように”焔ノ羽”が三人を薙ぎ払う。

 次に右手を上から下へ振り下ろす、やはり連動するように七枚の”暴風ノ羽”が上から下へと瓦礫を削りながら振り下ろされる。


(チッ! 消せない(・・・・)か、質量が多すぎる)


 ハスディアは両手の先を異界へと繋ぎ、あらゆる物質を異空間へと送って消し去るという魔法を使い、羽を消そうとしたが、見た目以上に羽の質量は多く、消す事ができない。


 李彩音は地面に置いた剣を手に取り、魔力を加えて整形する。

 白と黒が混じった”白黒はっこくつるぎ”は光り輝く”金色の刃”と黒く艷めく”漆黒の刃”の二本の短刀へと姿を変る。


 ”漆黒の刃”を一振り、ハスディアの方を向き、右手で左上から右下へ斜めに振り下ろした。

 闇が刃の形を成してハスディアの体を袈裟懸けに切り裂く。


「ッ!?」


 そして、瞬く間に李彩音はハスディアの頭を掴みとり、壁に向かって叩きつける。


 グチャ…


 卵が割れるような音と共に、城の壁が崩れ落ちた。


 流れるような動作で左手の”金色の刃”を横一線に振り抜く、すると辺り一面の木々を切り倒し、はるか後方にある巨大な山が消し飛ばされる。


 圧倒的、そう形容するしかない程に力の差は離れていた、手も足も出ない、それどころか一矢報いる可能性も低い、一体どこで選択を間違えた? 恐らく、大前提から間違えていたのだ、李彩音と人類には溝がある、という前提から。

 魔王軍による人間の死傷者は少なく、十年ほど前のカルミナの住んでいた小さな集落を襲った事件以降は全くと言っていいほどに人間への攻撃は緩やかになった、そして、『魔王軍』はほとんど行動を起こしていない、起こした行動はせいぜいが片手で数えられる程しかない。


「ゴフッ……」


 気管に溜まった血を空気と共に吐き出し、フェルナは立ち上がる。


「…最期に、一つ聞いて良いか?」


 口元の血を拭い、役目を為していない壁に寄りかかって呟いた。


「……なに?」


 無表情に李彩音は抑揚のない声でそう聞き返す。


「我は、どうすればよかったのだ?」

「彼を見捨てなければよかったのよ」


 フェルナ達の行動に間違いがあるとするならば、李彩音の言葉通り、雪乃ごと攻撃した事だ、それさえなければ李彩音はそこそこの戦いでそこそこにやられ、手柄として自分の首を差し出したかもしれない、もしかしたら、もっと、誰も傷つかない方法があったのかもしれない。


「…そうか、そう、か……」


 フェルナを千年前、封印したあの男と同じ事をしてしまったのだと、ようやく理解した、そして、嫌気がさした。


「……我は………」


 クズと罵っておきながら、その実それと同等まで落ちぶれた自分に対して、死んでいると確認せずに攻撃した事に対して、内面から湧き出る怒りが止められなかった、どんなに後悔しても終わる、今更謝ってまで生き延びる理由もない、それに、もう、立っているのすら限界だ。


「…………すまない…………」


 その言葉は一体誰に対してだったのか、当のフェルナも分からなかった、雪乃に対してなのか、メリアに対してなのか、それとも、フェルナの二人の友に対してなのか、分からなかった。


「…懺悔を聞くつもりは無いわ」

「懺悔… じゃない…」

「そう、それじゃあ、”おやすみなさい”」


 李彩音がそう囁くと、フェルナは意識を失ったように崩れ落ちる。


 ウィンディは全身に軽度の火傷に魔力の低下、生命に以上をきたさないギリギリのラインをさ迷っている、フェルナは下半身の魔力障害により動かず、ダメージも大きい、李彩音の魔法により生命の危機は無い、そして、ハスディアだが、まだ生きている、さも当然のように体を再構築し、李彩音の前に立つ。


「……チッ、再構築に時間がかかりすぎたな」


 右手に紫の大鎌を構え、ステンドグラスのような羽を広げ、空に飛び立った。


「…怨むなよ」


 そして、翼をうねらせ李彩音を切りつけた、当然、李彩音は”大地の盾”を構え防御姿勢をとる。

 ”神虐ノ翼”は”大地の盾”をまるで、クッキーを割るかのように簡単に砕き、李彩音の腕を切り落とした。


「ッ!? イッッ!?」


 李彩音は絶対者として君臨していたため、痛みに耐性がない、そして”神虐ノ翼”は神に対してのみ傷を深くする、という効果がある。

 神経の内部に侵入してくる異物、それが腕からどんどんと体に広がっていく、例えるならば、地面に飲み物を零してしまった時のように、ジワジワと体を痛みが体を支配していく。


「@4ka/」


 悶絶する李彩音に追撃を加える、翼は速度をまし、衝撃波を出しながら、李彩音にダメージを与え、所々地面には赤く小さい花が咲き乱れた。


 李彩音の”焔の羽”が捻れ、ハスディアを貫いた、だが、それをいとも介さず李彩音に接近し殴り飛ばす。


「…ッ!」


 バランスを崩し、尻もちを着いた李彩音の足を翼で突き刺し、動きを封じる。



 焼けるような痛みと、血を失い冷たくなってゆく指先、沈めたはずの感情が浮き上がるのがわかる、それは、『死にたくない』

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