65話 黒薔薇
三人は崩れかけの城へと到着した、当然の事ながら出迎えなどない、はずだった、純白のドレスに身を包んだ二人の少女が三人を出迎えた。
「どういうつもりだ?」
雪乃の疑問はギリギリ及第点、出迎えられるという行為に意味があるならば客として見なされているという事だ、つまり敵とすら見なされていない、その事実にフェルナは苛立ちを隠せていない。
「フフ、出迎えられる意味も分からないのですか?」
二人の少女の内、金色で腰あたりまで伸びた髪を十字架の髪留めで横に留めたサイドテールの大人びた顔付きの少女が雪乃を嘲笑うかのようにそう言った。
「そうじゃない、なんで出迎えられてるのか、って事だ」
「…私達としては戦うのも吝かではない、が、命令なので」
もう一人の少女、瞳に光のないダウナー系の紫髪を短く切った少女が心底嫌そうに口を開く。
「どんな命令だ?」
「…ただ、あなた達をもてなせ、と」
会話はそれで終わりだった、長い廊下を歩きダウナー系の少女が大扉を開ける。
扉の向こうには一人の女性が佇んでいた。
深海のように暗く思い空気が女性を覆っている、恐怖、というよりも、不安、どす黒い、そこの見えない不安が三人を襲う。
「……ッ、榑石、ひさしぶり、で、いいんだよな?」
長い沈黙を破り、声を出したのは雪乃だった、気押されしているものの、それを感じさせないように、軽く、いつもの様に声をかけた。
「えぇ、ひさしぶり、”夢”以来ね」
「あぁ、そうだな、確か昨日?」
「じゃあ、そんなに経ってないのね」
まるで親しい友達と話すかのような緊張感のない会話、取り残されている二人、いや四人か、は三者三様の反応を示す、驚愕、落胆、困惑、そして、やっぱりか、という気持ちでいた。
「フェルナ、済まないがユキノを止めるのは待ってくれないか?」
「どういうつもりだ? カルミナ、返答によっては…」
「もしかしたら戦わずにことを収められるかもしれない」
「…それはユキノがグレリアと知り合いと言う事に関係しているのか?」
「あぁ、多分だがな、ユキノがこっちに来る前の知り合いらしい」
カルミナも全てを知っている訳では無い、ただ少し前に現れたグレリアに対しての取り乱し方が尋常ではなかった事から、雪乃が転生するきっかけとなった少女は同一人物である、という仮説が成立している。
「ふぅ、楽しかった、ありがとう雪乃さん」
「なんかさん付けはむず痒いな」
「ふふ、年上ですしね、それと… とても言い辛いのだけれども、一人、多いのよね」
その瞬間溶け出していた空気がまたしても凍る、最初の比では無い、重圧が、李彩音の出すオーラが、禍々しく、とてもこの世のものとは思えない程に。
「…榑石…… それは…」
「雪乃さんとは関係ありません♪」
真っ暗な光のない空気とは裏腹に明るく、楽しそうに、愉しそうに、言葉を発する。
「…もう、いいですよね?」
フェルナとカルミナは戦闘態勢をとるが、既に李彩音はフェルナの後ろに立ち、襟を掴みテコの原理で投げ飛ばす。
流れる様な動作で懐の小太刀を抜き、カルミナの喉を切り裂く。
まるで時が止まっているかのような、李彩音の意識のみが鮮明に動く、それほどまでに力の差は離れていた。
「よっ、と」
李彩音はカルミナの体から魂を引き抜き、雪乃に投げつける、が、李彩音の速度が速すぎるがために、雪乃が見たのは喉から裂け、頭が後ろに落ちる場面だった。
「…は?」
無理も無い、振り向いたら既に一人は頭が落ち、もう一人は遥か後方に飛ばされている。
─なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで? あれ? は? ナンデ? 榑石ガヤッタノカ?
脳内を埋め尽くす疑問符、混乱は死を呼ぶ、それが戦場ならば顕著に現れる、だがそれは通常であれば、の事、今の状況、雪乃の精神状態からすれば、無意識下で能力が発動する可能性もある。
雪乃は自覚していないが”零氷之王”にはある人格が埋め込まれている、それは、いわゆる自動防衛機能のような、生命の危機、または人格の危機に応じて反応する。
「ユルサナイ、ユルsAナi」
外気が下がる、比喩などではなく、事実として、温度が10℃ほど、まだ雪乃は魔力を解放していないのにも関わらず、内に秘める魔力が外へと干渉し始めたのだ。
「うふふ、イイわぁ、ゾクゾクする」
身をくねらせ、頬を赤く染め、李彩音は武器を構える。
「チッ! お嬢の発作だ! 対象を取り押さえるぞ!」
「はいッ!」
今まで傍観していたダウナー少女が叫び、もう一人と共に雪乃に向かって走る。
「龍牙縛風ッ!」
風が龍の形を成し、雪乃を襲う。
このままでは策に支障をきたす、ダウナー系の少女、アルゴは考える、グレリアが雪乃に対して異常な執着をしているのはいつもの事だ、だが、そういう時に限って破壊衝動に駆られる、つまり、雪乃を殺しかねない、という事だ、もしそうなればグレリアは世界を作り直すか無に返すだろう、そうならない為にも、なんとしてでも雪乃と李彩音を止めなければならない。
「JamwォスルnA!」
氷の棘が二人を縛り付ける、むやみに殺そうとしないあたり、雪乃にはまだ理性が残っているのだろう、ゆっくりと歩み寄る雪乃と李彩音、互いが互いの出す魔力に干渉し合い、近づくにつれ重力磁場に影響を与える。
李彩音に近づいて行く足取りは重く、沼に足を取られているかのようにゆっくりと歩いていく。
━━━連合国家ノルデアン 正門前 草原━━━
「ハスディア様! 大丈夫ですか!?」
レギエナはハスディアに駆け寄る、翼は特定の形を作らず、不特定に形を変える。
ハスディアは一言も喋らずに右手でレギエナを制す、ハスディアの脳内には膨大な知識と魔法が無条件に流れ込んでいる、それを処理するために持つ能力の全てを解析に回し、さらに短時間で終了するように、脳内で並列処理をこなしているのだ。
この星が生まれてから起きた全ての事象が一つ一つ丁寧にハスディアの脳内には刻まれていく。
(なんだよこれ… なんなんだよ… …? 待てよ、この”作り変え”ってなんだよ?)
【4659265359s 人間『榑石 李彩音』により人類、文明、及び全ての生命の忘却】
【4659265359a 半神『榑石 李彩音』が全神権を自らに付与】
【4659265359a 神人『榑石 李彩音』による”世界の作り変え”】
【4659265360a 純神『榑石 李彩音』によって星『地球』から『ヴォーシュテリア』へと名前の変更】
【4659268361w 星『ヴォーシュテリア』の大気に物質『マナ』の追加】
これらは全て0.0001秒で脳内に焼き付けられた情報の一部である。
【4659269569s 純神『榑石 李彩音』により星寿の延長、また、純神『榑石 李彩音』が死亡した場合『ヴォーシュテリア』も同様に死する】
(は? 同期? ヤバくね? それより、誰だ? クレイシ リアネってのは… クレイシリアネ? クレリア? グレリア? いや、まさか、な)
【4959275285 純神『榑石 李彩音』の堕天、変更し魔王『グレリア』へ】
体温が下がる感覚と共に冷たい汗が額から流れ落ちる、混濁した思考の中、一つだけたしかに分かる事がある、それは今、敵の魔王がこの星、ヴォーシュテリアの命綱であると、このまま討伐が成功してしまえば確実にヴォーシュテリアは滅ぶ、しかし伝えるすべがない、順調に進んでいれば既に到着し、討伐していてもおかしくはない、だが、今から向かったところで間に合わない可能性もあり、さらに敵の増援が来た場合防衛できない可能性もある。
(不味い、思考がまとまらない… 召喚陣を… いや、今の状況だと最悪何も呼べない… どうする? ガリルを呼ぶか? …これも却下だ、召喚陣もろくに書けない、あと数分は必要だ… )
「ハスディア様! 大丈夫です! 行ってください!」
(バカか? ん? 今の声、バルメ、か?)
「ええ! バルメです! 我等四柱が守護を継続させていただきます!」
(ふふ、そうか、念話、繋いでたな、 …任せる)
「有り難きお言葉… では、お気を付けて」
ハスディアは何も答えずに走り去る、何も言わない、それは信頼の裏返しだ、混濁した思考も落ち着き、水面のように落ち着きを取り戻した、以前にも増して能力が上昇したのがわかる。
しかし、複数の能力がまとまり、最適化された。
エクストラスキル”常黄泉”とアルティメットスキル”原初之海が最適化されアルティメットスキル”深淵之王《イ=ラ》へと、エクストラスキル”幻惑” ”魔体化” ”超速再生”により、アルティメットスキル”暗黒神”へと進化を遂げた、今のハスディアといい勝負をする事が出来るのは片手で事足りるだろう。




