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55話 NoTitle

 

 ━━━住宅地区15-189 ルヴィ家━━━


 赤を基調とした豪邸、ところに混じって骨のような物が屋根についている。

 フェルナと雪乃はラファエラの素性を確かめるためにルヴィ家へとやってきた。


「お待ちしておりました」


 後ろから声がする、低い男の声だ。

 振り向けばそこには淡い黒色の髪色をした若い男性がいた。


「私、影狩族のシャティアと、申します」


 影狩族、人の言葉を借りるなら、吸血鬼と呼ばれる存在、純正の吸血鬼は魔力と血を吸い、影狩族は人の生を食らう、食われる側の人間からすれば絶命は免れない、だから二種族の恐ろしさを伝えるために一括りにした。


「お主、混ざっているのか?」

「ええ、三分の一ほど人間が混ざっています」


 フェルナのいきなりな問答にシャティアは笑顔でそう答えた。


「そんなことよりも、お嬢様が館でお待ちしておりますので」


 シャティアは物を置く動作をジェスチャーで行い、緊張をほぐそうとしている、いきなり後ろに現れたシャティアに雪乃が警戒心を強めているためだ。


「何をやっているのだ?」

「緊張をほぐそうかと思いまして」


 シャティアは無表情のままそう言った。


「あぁ、いや、あれです、驚いただけなんで、気にしないでください」

「そうでしたか」


 そういいシャティアは屋敷の中へ案内する。

 中は埃一つない綺麗な状態、ただし、装飾は美しいとは言い難い、令嬢の屋敷、と言うよりも武家屋敷のような、あらゆる武器が飾ってある。


「いらっしゃいませ、フェルナ・メディス・ノルデン様、単刀直入に聞きます、魔王討伐隊へ私を入れて貰えますか?」

「実力は申し分ない、だが、目的がわからん」

「目的、ですか、二つあります、一つは私はただ自らが培った力を振るいたいだけです、合法的に、ね」

「解せんな、お主はそこそこの実力者、一人でもいい線は行けるのではないのか?」

「行けますね、間違いなく魔王まではたどり着けます、ですが、そこで死んでしまうでしょう」

「それで? 我らに同行して楽をしたいと?」

「いいえ、私は、勇者の力を知っているのです! それを間近で見るために同行したいのです!」

「何代目だ?」

「たしか、八代目ですね」

「…クズの後釜か」

「たしか、フェルナ様は七代目の勇者に封印されていたのですよね」


 ラファエラの言葉でフェルナの雰囲気が変わる、明らかな怒り、いや、怒りという言葉でも形容できないような、憤怒、事実フェルナは七代目の勇者に怒りを覚えている、フェルナ、並びに龍人は元々勇者の力となるべく()が生み出した存在、それが勇者の手によって裏切られ、封じられたのだ、怒り、憎悪、それらが入り交じったドス黒い負の感情。


「…話しておいてなんだが、その話は止めろ」


 深呼吸をひとつ、呼吸と感情を整える。

 その後に、まだ怒りの声色でそう言った。


「…失礼致しました」


 ラファエラは頭を深々と下げ、謝罪する。


「…はぁ、こちらこそすまん、取り乱した、話を戻そう、こちらとしては戦力が増えるに越したことはない、だがな、お前は討伐隊には入れない、せいぜい他の部隊が限界だな」

「かまいません、私は勇者の戦いが観たいだけ、それだけ叶えばそれでいい」

「そうか」


 フェルナは懐から二枚の半皮紙を取り出しラファエラの机に置く。


「一枚は契約書、二枚目は入団希望者用の用紙だ、明後日までに王宮に提出してくれ」

「わかりました」


 要件を済ませたフェルナは速足で雪乃を抱え外に出た。


「…あの、フェルナ、さん?」


 小脇に抱えられた雪乃は戸惑いながらもフェルナに声をかけた。


「すまない、あの場所は瘴気が充満している、お前には毒だろう?」

「瘴気、ですか?」

「あぁ、人、では無いな、あそこで殺されたのは、魔物や下位の魔神が数百程だな、喰われている」

「喰わ、れている? あの人に?」


 フェルナに抱えられ狼狽える姿は滑稽にも見える、だが、フェルナは追手を引き離すのに手間取っているのだ、仕方あるまい。


 ユキノ! 後からナニカがおってきている! どうにかしねぇとやべぇぞ!

(どうにかって、どうすればいいんだよ!)

 わかんねぇ、ただ、やばい事だけはわかる!


 カルミナもその存在に気が付いた、正体は亡霊、ラファエラに喰われた者達の怨念や怨みの集合体、冥府に存在する”悪意ある獣”と同種、しかしフェルナを追うのは”害意なる獣”という亜種のような、生前の怨みや怒りなどの負の感情で構成されたソレは目に付くもの全てを喰らう、孔の空いた腹を満たす為に。


(ここで地上に降りるのは不味い、民草が被害に遭う)


 フェルナは現在羽を二枚だけ出し上空を飛んでいる、それを追う黒い影、黒い影がフェルナの羽目掛け黒爪を伸ばす。


「うわ」


 雪乃はフェルナに頭を後ろ側にして抱えられている、そのせいで眼前に迫る黒爪が見えた、驚きながらも杖で弾き、事なきを得た。

 しかし飢えた獣が一撃で満足するはずも無く、八本の触手の先に付いた爪が雪乃を襲う。


「その調子だ、しばらく凌げ」

「降ろしてはくれんのですか!?」

「降ろさん、それに今下ろせばお主が標的だぞ?」

「すんませんでした」

「カカッ、やっぱり面白いなお主は」


 笑うフェルナ、それに対し雪乃は引き攣った笑みを浮かべながら迫り来る黒爪を対処している。


 街からも程よく離れ、フェルナの魔力を解放しても街に危害が加わらない位置へ来た。


「お主に恨みは無いが殺させてもらう、灰燼と化せ 死ノ炎(デスブレイズ)


 フェルナはセシルに敗北し、純粋な闇の魔力に長く晒されたせいで闇の魔力を微量ながらも扱えるようになっていた、怪我の功名と言うやつなのだろう。


 ”害意なる獣”は黒炎に包まれ灰一つ残さずに燃え尽きた。


「…すっご」


 雪乃は唖然とし、口からはそれしか出てこなかった。

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