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54話 赤月

 

 ━━━連合国家ノルデアン 王城 執務室━━━


「フェルナ様、ウィンディ様、ユキノさん、ハスディア、あなた達は魔王の城がどこにあるのか知っていますか?」


 大きな椅子に座るメリアは4人に問いかける。


「魔界と冥府の狭間です」

「ふむ、妥当だな」


 メリアの言葉に特に狼狽える様子も無くフェルナはそう言った。


「そこで、1ヶ月後、魔界に陽が射します、そのタイミングに合わせてあなた達に向かって欲しいのです」

「ふん、言い方が違うぞ、メリア、お前は俺らよりも上の立場にいる、部下を死地に向かわせるなら頼むのではなく命令しろ、それが上に立つものの義務だ」


 王としての覚悟のなさ、はたまた憧れを死地に送る勇気の無さか、そのどちらもなのか、メリアの言葉はどこか歯切れの悪いものであった。

 それをいち早く見破り、矯正できるのはこの半年業務を手伝っていたハスディアだけなのだろう。


「…分かりました、皆さん、私の国のために死んでください」

「戯け、我らが死ぬわけなかろう、生きて帰ってくるわ」


 雪乃の目からフェルナは嘘を着いているように見えた、なぜならフェルナ瞳はどこか寂しそうで、覚悟を決めたような、決意の表れ、のような色をしている。


「そうですよ、生きて帰ってくるので色々用意していてくださいね」


 フェルナに続き雪乃も笑顔で本心とは別の建前を口に出す。

 雪乃は心のどこかで死ぬかもしれない、という恐怖を抱きいている。

 それでも言葉に出さないのは、勇者としての自覚が芽生えたからだ。


「だ、そうだ、メリア心配するな、お前の憧れは、お前の部下は、簡単には死なねえよ」


 そう言ってハスディアはメリアの頭に手を乗せた。


「…ありがとうございます、改めて、フェルナ ユキノ ウィンディ ハスディア、あなた達に命じます、魔王グレリアの討伐、または無力化、頼めますね?」


 メリアは一度咳払いをし、声を整え()として、そう言う、もちろん断らせる気など無い声色で。


 対する4人は声を揃え一言だけ「承知した」と、それだけ答えた。


 4人は扉を開き、家へと帰っていく。


「…はぁ」


 ため息をひとつ、誰もいない執務室で膝を揺らし、瞳には小さな涙が浮かんでいる。


(怖い、彼等が失敗してしまえば私達には成すすべがない、そうなれば私達は必ず殺される)


 恐怖、それは人が人であるために必要な感情、恐れ対策を考え、未知に恐怖する。


「それは悲しいことではないわ」


 メリアの後ろから手を回し、抱きつくように女性はそう言った。


(誰!?)


 メリアの喉は意志とは裏腹に声を出さない。


「静かに、ね、騒いだら殺しちゃうから」


 冷たく、されど優しい声色で女性は喉に爪を当てる。


「…よし、私はラファエラ・ルヴィ、安心して、騒がなければ危害は加えない」


 ラファエラはメリアから離れ頭を下げてそう言った。


「…なんの用で?」


 メリアは立場上何回かは命を狙われている、しかし、ここまで接近されたことは無い、その上、触れられるまで気づかなかった、これはラファエラが毒等を仕込んでいた場合死を意味する。

 つまり、メリアは、決定的な隙を見せていたのだ憧れ(フェルナ)を前にした事で。


「あと、30秒ほど、ですね、手短に話します、私を魔王討伐隊のメンバーにしてください、連絡先は住宅地区15-189ですので、では度重なる非礼申し訳ございませんでした」


 そう言いラファエラは窓から飛び立ち、片羽を羽ばたかせ空を飛ぶ。


「何者、でしょうか…」


 ラファエラが飛び立ち20秒ほどし、扉が勢いよく開く。


「大丈夫か!」


 フェルナが扉を蹴破ったのだ。


「ええ、どうやら敵では無かったみたいで、生きています」


 メリアは震える膝を隠し、笑顔でそう言った。


「よかった」


 ただ一言、フェルナは安堵したように目を細め、メリアを抱きしめる。


「っえ!?」


 メリアの声は裏返り、行き場を失った両手はフェルナの腰に手を回す。


「お前は、我の血族なのだ、失ってしまえばもう戻らないから、命を大切にしてくれ」


 フェルナの擦り切れそうな声はメリアにのみ届いた。


(??? あれぇ? 私フェルナ様に抱きつかれてる?)


 蕩けそうな程に優しい言葉、それはメリアの思考を混濁させる。


「そうだ、メリアよ、話は変わるが先程少女に話しかけられた、私も魔王討伐隊に入れて欲しいと、言っていた、そこで素性を調べて欲しい、名前はラファエラ・ルヴィだ」

「ッ! その方です、ここに来たのは」

「…なるほど、納得だ、この我が背中を取られたのだ、それぐらいは簡単に出来るだろうよ」


 フェルナはメリアに抱きついたまま会話をする、一言発するだけでもメリアの首筋は吐息にくすぐられる。


「おっと、済まない、人肌は久々でな、堪能してしまった」


 フェルナは照れながらそう言った。


(あぁ、フェルナ様は永い間封印されていたんだ、一人孤独に)


 その言葉は哀れみから出てきたのではない、ただ、自分がそうだったら耐えられない、その感情のみがメリアの声だった。


「かまいませんよ、それより、ラファエラの事ですが、連絡先は住宅地区15-189だそうです」

「何者かが気になるな」


 フェルナの興味はそれに尽きる、気配もなくフェルナの背中を取ったのだ、只者ではない、その上片方とはいえ羽もあるのだ、ただの人間ではない。

 羽とは、力を表し、魔力の要領によって枚数も変わる、もちろん種族差はあるものの種族内で最上位まで行けば溢れ出る魔力が羽の形を作り出す。

 羽、というのは二種類あり、一つ目が溢れ出た魔力の形、そして、文字道理の羽、空を駆けるために、種族として進化した姿に羽があるのだ。


 一通り話が終わり、メリアにラファエラの素性捜査を頼んだフェルナは家へと戻った。


「話は聞きましたか?」


 扉の向こうへメリアは話しかける。


「ええ」


 扉を静かに開き、背丈のある老人が返事をしながら、右手に書類を持って入ってきた。


「僭越ながら調べさせて頂きました、ルヴィ家は騎士家系だったため、簡単に情報が手に入りました、ですが、家系図を見たところラファエラと言う名前の女性はいませんでした」

「…ラファ・エルドラ・ルヴィは?」

「少々お待ちを、…どうやら現当主のようです、どうしてそのように?」

「勘、です」


 誇らしげな声色でメリアはそう言った、表情には出さずに。

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