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52話 雪の心

 

 ━━━ノルデアン 住宅地区 カフェ ノルジア━━━


「……悪魔、ですか、…対価は?」

「そうだな、場合によるが、基本的に食事だ」

「…食事、と言いますと、人の命ですか?」

「違うな、違う、お前らは悪魔の事なんざ分かってねぇだろ? 悪魔だってな普通に飯を食うし、笑うし、泣くんだよ、知ってっか? 悪魔はな、1度死んで不要になった人の感情だ、栄養は基本的に魔力だ、だがな、それとは別に嗜好品は必要だ、味ももちろんだが、食べる、という行為自体を懐かしむ奴もいる」

「……そん、な、じゃあ! 母や、父も、悪魔になっているのですか!」

「大体は、な」

「…分かった、ハスディアさん、報酬は私が用意する、出来るだけ、人に近い奴を頼みたい」

「いいだろう、だが、常人より強い程度だ、上位魔神相手は時間稼ぎがせいぜいだ、その事を肝に銘じておけ」


 この日を境に、最小構成人数だった黒の騎士団(アッテンタート)は王国騎士団のなかでも上位の構成人数を誇るようになった。

 約3000体の悪魔、それを率いる三柱 グリース キパリス ケダールを副官補佐とし、エリエナ・クリストファーが副官、エルデラント・クリストファーが上官へと、位を変えた。

 元々居た1000人弱はそのまま変わらず、悪魔達の先輩、という立ち位置になった。



 ━━━フェルナ宅 カルミナ雪乃部屋━━━



(なあ、ユキノ、お前どうしたんだ?)

 ──少しでいい、気持ちの整理をさせてくれ…

(そうか、まあ、俺は何があったとか、分かんねえからよ、辛くなったら言えよ?)

 ──…ああ、すまないな。


 雪乃は李彩音とあったその日から外側に出てきていない、心の深層に閉じこもり、自問自答を繰り返す。


 あの少女を、俺が助けていれば、あの時に間に合っていれば、と、変えられない過去の後悔。


 部屋の扉が開き、ウィンディが入ってくる。


「カルミナァ! ユキノと代われ!」

「…試してみる」


 ”主導権の変更 失敗 再度 変更を確認”


「…なんだよ、無理やり引出しやがって」


 やつれた頬、瞳からは光が失われ、気力が無い。


 バチン!


 雪乃の頬をウィンディが力いっぱい叩く。


「…」

「聞いたよ、あんた、助けようとして助けられなかったんだって? くだらない事でうじうじしてんじゃねぇ!」

「あんたに俺の何がわかる! 俺の目の前で死んだ少女が! 敵になってたんだぞ!」

「それは過去を悔やんで変わるのか? あんたがしてるのはただの自己満足だ」

「…そうだよ! 俺が、俺を満足させるために悩んでんだよ!」

「甘ったれんな!」


 ウィンディは拳で、雪乃を殴る。


「いちいち殴んじゃねぇよ、クソアマ!」


 雪乃は杖を呼び出し、ウィンディを殴った。


「殴れ、あたしを殴って気が済むならな」

「クソっ、俺だって好きで殴りてぇんじゃねぇんだよ! どうすりゃあいいんだよ! 分かんねぇんだよ! 助けれなかったから、でも、でも! 俺は第2の生を受けたから不公平じゃないかって思っても! 生き返らすことも出来なかった、でも、違ったんだ! 助けようとした子は、俺よりもずっと前にこっちに来ていたんだ! もう …分かんないんだよ、どうすればいいのか」

「中途半端だな、お前は」


 ウィンディの何気なく放った言葉、それは、幼き日の雪乃のトラウマを掘り返した。


「……るせぇ! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい! 中途半端だってのは俺が一番わかってんだよ! 俺は好きでアンタの道場を継ぐわけじゃねぇんだ! 俺は! 普通に生きたかったんだよ!」


 雪乃は、幼い時、両親を無くしている、祖父が両親代わりに雪乃を育てた、雪乃が成長し、道場を継ぐか、高校へ行くか、の二択を迫られた時、雪乃は両方を、高校で勉強しながら道場を運営する事を選んだ、その時に祖父に言われた「お前はどちらも極めずに、中途半端な」という言葉が、雪乃の心を抉った。

 雪乃の心の棘が、氷を会し雪乃を守る。

 棘の付いた氷の繭、それに閉じこもってしまう。


「…ユキノ、お前の言うアンタとやらはもう居ねぇ、ここにはお前を傷付ける奴は一人もいない、…なあ、ユキノ」


 棘に刺さりながらも繭に近づいていく、ウィンディの瞳はまるで自らの子を見守るかのように優しい。




 ──嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ僕はアンタの道具じゃない僕が進む道は僕が決める。


 ──いつもそうだ、あの言葉がトリガーになって頭が真っ白になる、そうなった時は、体と心が別れるように、嫌に他人のように冷静に見えるんだ。


 ──辛い痛い居たい辞めたくない辞めたくない学びたい学びたい強くなりたい強くなりたい弱くない半端じゃない極める極めたい。


 ──僕は僕は、俺は俺は、決めたんだ、文武両道の道を行く事を、だからアンタを超えるために、安心させるために、強くなる事を目指した、強くなった。


 ──ジジイ、アンタ、辛かったんだよな今になってやっと分かった、アンタは俺の事を思ってたんだよな? 学生の本分は勉学だ、その時間を割いてまで武を極めるな、って言いたかったんだよな? アンタは不器用なんだから無理して気を回すんじゃねえよ。


 ──僕はもう要らない子?


 ──違う、お前は俺で、俺はお前、二人でひとつだ、幼い感情(お前は)いらなくなんかない、だから、もう泣くな。


 ──ありがとう


 雪乃の心の憧憬、幼い雪乃は光となり雪乃の首元に巻きつき消えた。



 ウィンディが氷の繭に触れると、繭は弾け中からは笑う雪乃が現れる。


「…すまない、迷惑をかけた、傷、大丈夫か?」

「あんたほんとに物好きだな、自分の事よりもあたしの事を気にかけるなんてな」


 ウィンディの苦笑いと雪乃の笑う声が混ざり合う。


「さて、飯食うか」

「だな」


 笑い落ち着くと腹が空く、人として当たり前の事だ。


 しかし、2人の後ろには鬼のような形相で2人を睨むシルフィアがいた。


「床」


 シルフィアはそれだけを言い冷たい瞳を2人に向ける。

 床は水浸しになってしまい、穴も所々開いていた。


「はい」


 雪乃は反射的にそう答え、ウィンディは無言で床を直し始めた。


「ユキノ、お前は転生者だったよな」


 ウィンディは確認するように雪乃に問い掛ける。


「ああ、そうだ」

「お前の居場所は、帰りたいと思うのか?」

「…どうだろうな、未練はいっぱいあるけど、あんま帰りたいとは思わないな」

「ふーん、そんなもんなのか、普通は」

「いや、多分俺が普通じゃないんだと思う、帰っても親族は居ないし、残して来た恋人もいないからな」

「寂しいもんだな、お互いに」

「何言ってんだ? アンタには妹と弟みたいなのがいるだろうが」

「ふふ、あいつらはもうあたしが守る必要が無くなったんだよ」

「守る守らないが家族じゃないだろ?」


 雪乃の言葉にウィンディは笑い、


「だな」


 と、一言だけ、小さく呟いた。

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