48話 合流
━━━精霊の森━━━
「さて、カルミナ、帰るぞ」
「ああ」
「お主はどうするのだ、ウィンディ」
「そうだな、あたしはついて行くよ、シルフィア、クイーナ、お前らはどうする?」
ウィンディはエルフと精霊に話しかける。
二人は笑顔で、
「決まってる、着いてく」
「ええ、お姉様、置いていくなんて、酷いです」
と、打ち合わせでもしていたかの様に、寸分違わず、合わせて言った。
「そうだな、あんたらはあたしの家族だ、置いてけねえな」
それを聞いたウィンディは照れたように笑い、頬をかいた。
「そういう訳だ、ノヴァの娘、いや、フェルナ・ノヴァ、すまないがお前の旅路、あたしもついて行く」
「願ってもない、戦力は多いに越したことはないからな」
「…それと、昔の事も、済まなかった、お前の願いを笑った事、お前の夫を殺しかけた事も、本当に済まなかった」
ウィンディは深々と頭を下げる、表情も曇らせ、覚悟を決めたような瞳をしていた。
「昔、か、忘れたよ、我の願いを笑った事など」
フェルナはけたけたと笑いそう言った、言葉はそれだけではなく続いていた。
「夫の事も事故だ、お主は森を守ろうとしただけだ、気にするほどの事でもない、だが、まあ、一発は殴らせてもらうがな」
「一発か、それで満足なのか?」
「物足りないか?」
「いや、あんたの決めた事に口出しはしない」
「では、歯を食いしばれ」
フェルナは握り締めた右拳に魔力を貯め、ウィンディに当てた、軽く、はたくように。
「え?」
「これで手打ちだ、これ以上この事は話すな、それにな、夫の死因は寿命だ」
「はは、本当に気にしてなかったんだな」
「まあな、あやつは僅かながらも至福の時をもたらした、それだけで満足なのだ、我は」
フェルナは遠い目をしながらそう言った。
「あたしは、夫はいた事がないから分からないが、良いもんなんだな、夫婦ってやつは」
「ああ、お主もいずれ、…訪れるといいな」
(人と龍人は違う、寿命も力も、全てが、我は元が人だったからまだマシだ、やつは恐らく人じゃない、生まれつきの龍人だ、人とは相成れない、だが、自らの後継者を夫や子にする場合もある、全てがそうとは限らない、が、まあ、やつの気持ち次第か…)
「ところで、何で帰るんだ?」
「そうだな、カルミナは我が抱いて行くとして、あとの二人はウィンディに任せるか」
「大丈夫だろ、クイーナは飛べるし」
「ほう、ん? 精霊族か?」
「違います、私は妖龍族です、フェルナ姉様」
「む? 我はお主の… ああ、そういうことか、だが、我とカルミナは別に兄妹ではないぞ、クイーナよ」
「…それは失礼しました、ですが、親しい仲ではあるのですよね、でしたら挨拶を、と思いまして」
「我とカルミナは仲間ではあるが、挨拶される様な仲ではない」
フェルナはそう言い、カルミナ抱きかかえ、鳥のような赤い翼を広げた。
「さ、行くぞ」
フェルナの声にウィンディは深緑の蝙蝠の様な翼を羽ばたかせ、シルフィアを抱える、クイーナの羽は薄く、まるでステンドグラスの様な脆い美しさがある。
その翼を静かに広げ、飛び立つ。
━━━連合国家ノルデアン 王城━━━
「すいません、レギエナさん、手合わせをお願いして」
「いやいや、僕もブランクがあるからあまり相手は出来ないと思うけど、それでもいい?」
「もちろんです、それと、ルールですが、目潰し、金的、あと喉、魔法はダメで、それ以外はありで」
「了解」
レギエナは剣を中心に構える正眼の構え、雪乃は杖を一本、右手を後ろに、クラウチングスタートの様な前傾姿勢。
「では、このコインが地面に落ちたらスタートです」
騎士がコインを指で空に弾く、放物線を描きコインは地面へと落ちていく、
カチーン
コインが石畳にぶつかり、弾かれた。
雪乃は杖で突きを放つ、最短距離を最速で、狙いは胴、薄い魔鋼のチェストプレートを貫く威力で。
レギエナは半身横に避け、下から上に杖を打ち上げる。
その慣性を活かしレギエナの顎を打つ、煌月流 下顎、顎は上下で一つ、下があれば上がある。
後ろ足で踏み込み体重を載せた打ち下ろし、兜ごと打ち上げられた頭を地面目がけて落とす、上下で煌月流 顎。
レギエナは地面に着いた手をバネのように使い雪乃の顎に頭突きを、それだけでなく右拳で胴体に打撃を捻り込む。
雪乃の足は地面を離し体は宙を浮く。
雪乃はレギエナの右手を掴み肩で肘関節を極め、投げ落とす、鎧は時として凶器になる、投げ落とされたレギエナの体は金属の塊に打ち付けられたようなものだ。
しかし、流石は騎士長、投げ落とされた直後に雪乃の手首を捻り、関節を外していた。
僅か10秒にも満たない僅かな時間でこの攻防である、もはや通常兵の目には何が起きたのか、どうすればこうなるか、などは見えていない、
「ユキノくん、これ以上は殺し合いの範疇だ、それでも、やるかい?」
「いや、大丈夫です、ありがとうございます、だいぶ感覚が戻ってきました」
「ハハッ、まさか僕が練習相手にしかならないとはね、鍛え直さないとな」
「いえ、俺は最初っから本気でしたよ」
「謙遜しない、禁じ手は使ってないじゃない、それは本気じゃない、本気ってのは使えるものはなんでも使う、たとえ落ちてる剣先でも、枝でも、土でも、えげつなく、生き残りを考える事だ」
パチパチと手を叩く音がする、音の方向を見るとそこには3人の女性、2人の男がいた。
「カルミナ!」
雪乃は男の方に歩く。
「よっ、一ヵ月ぶり」
「おう、元気そうだな」
雪乃はカルミナと手を叩く、手は空を切り、すり抜ける。
すり抜けた手は体の中へ入っていく。
「うぇっ!?」
”魂の再編 合成 魂の成長により身体の構造変化”
(久しぶりだな、俺の体も、それにしても随分無茶してくれちゃってよぉ)
悪かった、傷を増やしてしまった。
(いいよいいよ、生きてりゃあ傷はいずれ増えるからな)
「初め、まして? シルフィア・ネイバー、よろしく」
もう1人が雪乃に戸惑いながら挨拶をし、ウィンディの後ろに隠れてしまった。
「初めまして、十六夜 雪乃です、半身、いや、カルミナがお世話になりました」
「ん」
シルフィアはウィンディの後ろから右手を差し出し、握手を求めた。
「よろしく」
雪乃は少し照れながら手を握りそう言った。




